表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
完全無欠の悪役令嬢はポンコツヒロインをほうっておけない  作者: Kei
第三章 建国祭はフラグ祭り

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/163

建国祭に行こう 2

 リナはやっぱりヒロインだった。


 初めて見るリナの私服姿は、可憐という言葉がこれほどまでに似合う人がいただろうか、と思わされるほど完璧だった。

 淡いパステルカラーのワンピースが彼女の優しげな雰囲気を引き立て、柔らかく巻かれた髪には国花ミスティルローズが控えめに添えられている。

 その姿を目にした瞬間、私は心臓を撃ち抜かれた。


 ──素晴らしい。これで落ちない攻略キャラなんて存在しないわ。


 ちらりと隣に目を向けると、ルークがのんびりと「今日は楽しみだね」なんて言っている。


 違う! そうじゃない! まずは、サラリと「綺麗だね」と褒めるのよ!

 姉を褒めている暇があるなら、ヒロインを褒めなさい!!


 私は心の中でルークに念を送り続けたが、残念ながらその思いはまるで届かず、彼は城下町へと向かって歩き始めてしまった。


 ──ううん、大丈夫。まだ祭りは始まったばかり。焦ることはないわ。


「じゃあ行きましょうか、リナさん」


 気を取り直して声をかけると、リナは少し困ったように眉を寄せた。


「あの、クラリス様……」


 彼女はもじもじと指先を絡ませ、視線を落としている。

 頬がうっすら赤い。


 ──えっ、何? もしかして、もう本命がいて、その人と建国祭を回りたいとか?


 期待と少しの緊張を胸に、彼女の次の言葉を待つ。

 しかし、彼女の口から出たのは、想像の遥か斜め上をいく言葉だった。


「わ、私のことは、『リナ』って呼んでください……!」


 顔を真っ赤にしてそう叫ぶ彼女に、私は目を瞬かせる。

 完全に不意を突かれ、言葉が出てこなかった。


 ──え、いや……ずっとリナって呼んでるけど?

 ……もしかして、これは呼び捨てにしろってこと?


 言われてみれば、彼女を呼ぶときは常に「さん」付けだった。

 私は基本的にルークや家の者以外は呼び捨てにしないし、それが礼儀だと思っていた。

 けれど、ここまで彼女に構っておきながら「さん」付けは、確かに妙な距離感があったかもしれない。


「……わかったわ、リナ」


 小さく頷きながら名を呼ぶと、リナは肩をびくりと震わせ、顔をさらに真っ赤に染め上げた。

 耳まで赤く染まっている。蒸気でも上がりそうだ。


「あ、ありがとうございます、クラリス様……」


 私に向けられた幸せそうな笑顔に、心の中で小さく嘆息する。

 本当に彼女はヒロインそのものだった。攻略キャラの気持ちが痛いほどよくわかる。


 ──こんなの、惚れるに決まってるじゃない。


 私は密かに勝利を確信し、こっそりとガッツポーズを決めた。




 市場や屋台が立ち並ぶ大通りに向かう途中、リナは目を輝かせながら昨日の式典のことを話し始めた。


「昨日の式典、すごかったです!」


 彼女は頬を紅潮させ、王国記念式典を見た感想を興奮気味に語っている。


 そう、これもフラグの一つ。


 私はリナに、式典は絶対に見るように言い含めておいた。そして彼女は、その教えを忠実に守った。


 ゲーム内でも、ヒロインは王都で初めて建国祭に参加し、攻略キャラたちとの出会いや交流を楽しむ。

 ただし、アレクシスだけは王族であり、建国祭のお祭りの中にはいない。


 ヒロインはバルコニーに立つアレクシスを遠くから見て、彼の存在が自分とは異なる世界の人間であると痛感するのだ。


「王太子殿下も、クラリス様も、本当に神々しくて……」


 ──いや、私のことは忘れてほしい。本来、私はあそこにいなかったはず。余計なノイズだ。


 リナは私に一瞬視線を寄こした後、俯いてぽつりとつぶやく。


「……ちょっと、寂しかったです」


 切なげな横顔に、私はアレクシスのフラグが立ったことを確信した。


 リナはアレクシスとの身分差を意識し始めている。学園では身近だった彼が、手の届かない存在だと悟り、戸惑っているのだ。


 ──くぅっ、身分差の恋……いい!


 胸の中で拳を握りつつ、私はリナを励ますために言葉をかけた。


「大丈夫よ、リナ。アレクシス様は身分差なんて気にしない方だから」


 だから、自信を持って彼との関係を築いてほしい──そんな思いで言ったつもりだった。


 しかし、リナはじっと私を見つめたまま。


「……クラリス様も」

「え?」

「クラリス様も、身分差を気にされませんか?」


 ──なぜ、そこで私?


 私は前世の記憶があるせいか、貴族だろうと平民だろうと変わらないと思っている。それが「気にしていない」ということなら、その通りだろう。


「……そうね。関係ないと思うわ」


 その言葉に、リナの顔がぱっと明るくなった。


 ──くっ、眩しい! ヒロインの笑顔、なんて破壊力!


「良かったです、安心しました……クラリス様、これからも、仲良くしてくださいね!」

「……? え、ええ。もちろんよ」


 なぜか思っていたのと違う方向に話が転がっていく。けれど、リナの憂いが晴れたなら、まぁいいか。


 ふと視線を感じ、隣を見ると、ルークが呆れたようにこちらを見ていた。


「ほんと姉さんって、無自覚だよね」


 彼はこれみよがしにため息をつく。


 ……なんだか、ものすごくけなされている気がする。


 幸せそうなリナと、なぜか悟ったような顔をしているルーク。


 二人に挟まれながら、私は釈然としないまま首を傾げた。




 大通りは華やかな装飾と屋台で埋め尽くされ、活気に満ち溢れていた。

 通りの両側には色とりどりの旗が翻り、家々の扉や街角には《ミスティルローズ》が飾られている。屋台からは甘く香ばしい匂いが漂い、道行く人々の顔には笑みが絶えなかった。


 私はその圧倒的な熱量に、内心興奮を隠せずにいた。


 ゲームの中では背景としてさらりと流されていた場面。けれど、こうして自分の目で見てみると、そこには確かな息遣いがあり、人々の活気が肌で感じられる。

 国花があちこちに飾られている光景は、この国が国民を大切にしている証のようで──そして、国民たちもまた、この国を心から愛しているのだと、ひしひしと伝わってきた。


 よく考えれば、クラリスとしての人生の中で、こうして建国祭の喧騒に紛れるのはこれが初めてかもしれない。

 貴族と平民の垣根を越えた交流の日であるとはいえ、筆頭公爵家の令嬢として、一人で気軽にお祭りへ繰り出すなど、これまでのクラリスにはあり得ない選択肢だったのだから。


 今は「リナのフラグ回収」という明確な目的があるからこそ、こうしてここにいる。

 もしそれがなければ──私はきっと、一生こうして建国祭の大通りを歩くことなどなかっただろう。


「すごいですね、クラリス様!」


 無邪気なリナの声が、私の思考を現実に引き戻す。


「……そうね」


 あまりの熱気に気圧されてしまい、私はいつものように平然と返せない。

 自分でも驚くほどの弱気な返答だった。


 そんな私の様子に気づいたのか、リナは首をかしげて、じっとこちらを見つめてくる。


「クラリス様?」

「……ごめんなさい。わたくしも……実は、建国祭の大通りに来るのは初めてで……」


 素直にそう告げると、リナとルークが同時に目を丸くした。


「あれ? 姉さん、初めてだっけ?」


 ルークは少し驚いたように目を細める。

 確かに、彼は要領が良く、こういったイベントには積極的に参加していたはずだ。ゲーム中でも、彼はヒロインを屋台に案内し、楽しませていた。


 なんだか居心地が悪くなった私は、二人から視線を外し、地面を見つめる。

 完璧な公爵令嬢として、こうした弱みを見せるのは少し恥ずかしい。


 ──けれど、その瞬間。


 左手にリナのぬくもり、右手にルークの温かい掌の感触が重なった。


 驚いて顔を上げると、リナとルークが、それぞれ手を握ったまま笑みを浮かべている。


「わ、私も初めてですから! 一緒に楽しみましょう!!」

「僕がちゃんと案内するから、安心して」


 リナは少し頬を染め、ルークはいつものように優しく微笑んでいる。


 私は二人を交互に見やり、なんだか複雑な気持ちになった。


 ──いやいや、私は祭りを楽しみに来たわけではなく、リナのフラグ回収のために……


 そう思いはしたものの、リナの嬉しそうな笑顔を見てしまうと、どうでもよくなってしまうから不思議だ。


 ……まぁ、少しくらいならいいか。


 心の中でそう小さくつぶやき、私は二人に手を引かれるまま、大通りの喧騒の中へと足を踏み入れた。


次回は2/21(金) 19:00更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


◆YouTubeショート公開中!◆
 https://youtube.com/shorts/IHpcXT5m8eA
(※音が出ます。音量にご注意ください)
(本作10万PV達成記念のショート動画です)

◆スピンオフ短編公開中!◆
 『わたくしの推しは筆頭公爵令嬢──あなたを王妃の座にお連れします』
(クラリスとレティシアの“はじまり”を描いた物語です)

◆オリジナル短編公開中!◆
 『毎日プロポーズしてくる魔導師様から逃げたいのに、転移先がまた彼の隣です』
(社畜OLと美形魔導師様の、逃げられない溺愛ラブコメです)

 『異世界居酒屋を開いたら、常連が全員攻略対象でした  〜恋愛相談、受け付けます〜』
(異世界居酒屋『あかね食堂』シリーズ1作目)

 『異世界居酒屋を開いたら、常連が全員攻略対象でした  〜ついにヒロインも来ました〜』
(異世界居酒屋『あかね食堂』シリーズ2作目)

更新告知やAIイラストをXで発信しています。
フォローしていただけると励みになります!
 ▶ Xはこちら:https://x.com/kan_poko_novel

 完全無欠の悪役令嬢はポンコツヒロインをほうっておけない
― 新着の感想 ―
クラリスとリナの可愛さに心を貫かれながら読んでいます。 とりあえず休憩。 続きも楽しみです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ