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完全無欠の悪役令嬢はポンコツヒロインをほうっておけない  作者: Kei
第二章 定期テストを乗り切れ

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【リナ】初めてのお泊り 1

 一週間分の荷物を詰めたカバンを両手で握りしめ、私は目の前にそびえるお城のようなお屋敷を見上げた。


 ──私はなぜここにいるんだろう……


 屋敷の荘厳さに圧倒されつつ、ここに至るまでの出来事を思い出し、私はため息をついた。




 この三週間、定期テストに向けての早朝特訓、授業、生徒会、個別指導と、目まぐるしい日々を送っていた。

 もともと体力には自信があったので、朝から晩まで動き回って疲れ果てても、たくさん食べてしっかり寝れば翌朝にはすっかり回復していた。

 しかし、最近は授業についていけるようになったのが嬉しくて、つい夜遅くまで復習してしまうことが増えていた。

 早朝特訓があるにもかかわらず睡眠時間を削る日々が続き、さすがに体力の回復が追いつかなくなっていたのだろう。


 それは、ライオネル先生の個別指導中に訪れた。突然、強烈なめまいが襲い、何とか耐えようとしたものの、気づけば意識が遠のいていた。


 次に目を覚ましたとき、白い天井と、目の前に迫るクラリス様の美しい顔が視界に入った。

 その端整な顔立ちはいつもと変わらず無表情だったが、不思議とわかる。クラリス様は、ものすごく心配そうな顔をしていた。

 そして、それが自分のせいだと理解した瞬間、血の気が引いた。


「ク、クラリス様っ! ごめんなさ──」


 慌てて体を起こそうとしたが、クラリス様はそっと私の肩に手を添え、それを押し留めた。


「……無理をしてはダメよ」


 その声音と、肩に触れる手が、驚くほど優しくて──

 私は言葉を失い、その手の誘いに従って再びベッドに身を沈めた。


 落ち着いて視線を巡らせると、クラリス様の隣にはライオネル先生が立っていた。彼はホッとした様子で私を見下ろしている。

 さらに少し離れた場所には、「もう大丈夫だね」と穏やかに微笑む医務室の先生の姿もあった。


 どうやら、私は個別指導中に倒れ、医務室に運ばれたらしい。

 事態を理解した途端、冷や汗が止まらなくなった。


「あ、あの、クラリス様──」

「──リナさん」


 なんとか言い訳をしようとした私の声を、クラリス様の静かな声が遮った。


 「リナさん」──その呼びかけに、ほんの少しだけ寂しさを覚える。


 倒れたとき、クラリス様は私を「リナ」と呼んでくれた気がする。

 その響きが、妙に嬉しかったのだ。


「……頑張ってくれて、ありがとう」

「へ?」


 思わず間の抜けた声が出た。

 もちろん、言葉の意味は理解できる。けれど、なぜこの状況で感謝されるのかが、わからない。


 普通なら、「倒れるまで無理をするな」と叱られる場面ではないのか?

 なのにクラリス様は、どこか申し訳なさそうに、私にお礼を口にしたのだ。


 助けを求めるようにライオネル先生の顔を見ると、彼は苦笑しつつ肩をすくめた。どうやらクラリス様の真意は理解しているものの、どう説明すべきか悩んでいるらしい。


「ど、どういたしまして……?」


 ひとまずお礼を言われたので、ぎこちなく返してみる。

 ──なんだか違う気がする。

 自分でもそう思ったが、他に言葉が出てこなかった。


 けれどクラリス様は、小さく頷いてくれた。どうやら、間違った返事ではなかったらしい。


「ですが、わたくしのあなたへのサポートは中途半端だったと言わざるを得ません。あなたが自分の意思で頑張ってくれるのであれば、わたくしも自分の意思で死力を尽くします」


 ……クラリス様は、一体何を言っているのだろう?

 死力って、一体何に命を懸けるつもりなのか。


 これまでもクラリス様は、十分すぎるほど支援してくれていた。完璧といってもいいほどだ。倒れたのは、私が自分の加減を間違えただけであって、クラリス様の責任ではない。


 けれど、その紫紺の瞳には、何か強い決意が宿っていて、私は言葉を差し挟むことができなかった。


 クラリス様は、まるで宣誓するかのように力強く告げる。


「──定期テストまで、あなたを完璧にサポートいたします」

次回は2/5(水) 19:00更新予定です。

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 完全無欠の悪役令嬢はポンコツヒロインをほうっておけない
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