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完全無欠の悪役令嬢はポンコツヒロインをほうっておけない  作者: Kei
第二章 定期テストを乗り切れ

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秘密 1

 翌朝、朝日が昇りきり、柔らかな光が校舎を包み始めた頃。

 私は木の陰に身を潜め、じっと校舎の入口を見つめていた。


 ──端から見たら立派な不審者だ。


 それでも、姿を隠せる場所はここしかなかったのだ。仕方がない。


 今日からリナの定期テスト対策が始まる。いわゆる「朝活」。ゼノが直接、リナを指導してくれることになっている。


 ゲーム中でも、ゼノの個別指導イベントは存在した。だが、こんな朝活イベントはなかったはずだ。定期テスト前、ゼノの研究室に質問に行くイベントならある。

 しかし──


 誰もいない早朝、静まり返った校舎で、二人きりで毎日落ち合うなんて。


 ──いいぞ、もっとやれ。


 ゼノの個別ルートは突入が難しく、好感度を上げるには細かいイベントの積み重ねが必要だ。こんな貴重な機会を逃す手はない。


 ……と、そこではたと気づいた。


 ──私、邪魔じゃない?


 せっかく二人きりになれるのに、私がくっついていては台無しではないか。邪魔者がいる状態で、甘い雰囲気になるわけがない。


 ゼノには「リナを連れてくるように」と言われたが、これはもう理由をつけて席を外した方が良さそうだ。


 そう考えた私は、リナに伝えた時刻より一時間早く登校。六時に校舎へ来て、リナの下駄箱に手紙を入れた。

 ──「少し遅れるから、先に始めてください」と。


 朝っぱらから何の用事だよ、というツッコミは自分でも理解しているが、リナは素直な子だ。

 きっと、何の疑いもなく従ってくれるはずだ。


 ちなみに、このゲームの時間の呼び方は、月日と同じく「六の時」「七の時」といった具合に少し違うだけで、現実世界とほぼ同じだ。便利でわかりやすい。


 腕に巻いた魔術仕掛けの時計が、そろそろ七時を指そうとしている。


 リナとゼノを二人きりにするつもりではあるが、万が一、リナが遅れでもしたら目も当てられない。そのときはゼノに言い訳をして、寮までリナを迎えに行く必要がある。


 そういうわけで、私は今こうして木の陰で待機しているのだ。


「──こんなところでどうしたのかな、クラリス嬢」


 背後から響いた低い声に、私は時計を確認するポーズのまま固まった。腕時計にかかる影で、背後の人物が肩越しに私を覗き込んでいるのがわかる。


「もうすぐ集合時間だね。もしかして私を誘っているのかな?」


 耳元に響くバリトンに、腰が砕けそうになる。

 だが、さすがはクラリス・エヴァレット。内心の動揺を表に出すことなく、その人物から離れるように一歩前へ出ると、優雅な仕草で振り返った。


「おはようございます、ゼノ先生」


 ──やはり。

 背後に立っていたのは、ゼノだった。恐ろしいほどに気配を消して。


 彼は眼鏡越しに柔らかな笑みを浮かべ、興味深げにこちらを見ている。アメジストの瞳が、まるで研究対象を観察するように細められていた。


 ──厄介な相手に、厄介な場面を見られてしまった。


 不審者ムーブをしていたのを、よりによってゼノに見られるとは……

 だが、ここで取り乱すわけにはいかない。平然を装いながら、頭の中で必死に言い訳を探していると、彼の手がすっと伸びてきた。


「君の行動は、興味深いね。どんな秘密を抱えているんだい?」


 指先が私の頬に触れる。その感触に、思考がぷつりと切れた。


 ゼノは、私が何か隠していると気づいている?

 いや、そんなはずは……


「……先生といえど、気安く女性に触れるのはいかがなものでしょう」


 反射的に、私はその手をかわすように一歩後ずさる。冷静さを失わないように、表情を保ったまま玄関へと向かった。

 ゼノはそれ以上追及することなく、静かに後ろをついてくる。


「クラリス様! ゼノ先生!」


 寮の方向からリナの明るい声が響いた。息を切らせて駆け寄ってくる彼女の姿に、私はなぜか安心し、肩の力が抜けるのを感じた。


 ──やっぱり、かわいい。さすがヒロイン。


 朝日に照らされ、無邪気に笑うリナの姿は、紛れもなく乙女ゲームのヒロインそのものだ。内面はまだポンコツだけれど、ヒロインオブザヒロインであることに間違いはない。


「おはよう、リナさん」


 リナの存在に救われ、私はようやくいつもの自分に戻れた気がした。


 一瞬立ち止まったリナが、ぽっと頬を染める。


「お、おはようございますっ!」


 動揺したように頭を左右に振るリナの姿が可愛らしい。少し不思議に思うが、彼女はたまにこういうところがあるので気にしない。


「おはよう、リナ君。これで全員揃ったね。私の研究室に行こうか」


 ゼノは何事もなかったかのように、私たちの前を歩き出した。その後ろ姿を見ながら、私は無言でついていく。


 揺れるワインレッドの髪が、朝日を受けてきらめいている。


 ──そんなはずはない。


 美しい背中を見つめながら、私は込み上げてくる不安を噛み殺した。

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 完全無欠の悪役令嬢はポンコツヒロインをほうっておけない
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