エヴァレット家の夕食 1
食堂に着くと、すでに父が席についていた。エドワード・エヴァレット。この国の宰相であり、私──クラリスの実父。そして、ルークにとっては養父にあたる。
相変わらず私に似て無表情な人だ。いや、正確には、私がこの人に似ているのか。
いつもは私たち三人だけが席につくが、今日は客人がいた。
「やぁ、失礼していますよ」
父の隣に座っていたのは、カスパー学園長だった。私はすかさず前に進み、淑女としての礼を取る。
「ようこそお越しくださいました、カスパー様」
ここは学園内ではない。公爵家の私邸だ。学園長ではなく侯爵家の当主として挨拶を交わすべきだと心得ている。公爵家と侯爵家では格に差があるものの、父の知己である彼には礼を欠かすわけにはいかない。
「あれ? 学園長先生、なんでここにいるの?」
後から入ってきたルークが、場の雰囲気を無視した軽い調子で声をかける。アレクシス相手にタメ口で話す彼らしいと言えばそれまでだが、やはり公爵家の令息としてどうかと思う。
私は無言で彼を一瞥する。それに気づいたルークは慌てて礼を取った。遅い。
ルークは私の視線から逃げるようにして席につく。仕方なく私もゆったりと自分の席についた。
食事が始まると、カスパーが最近の学園の様子を父に話して聞かせた。父はいつもの無表情のまま、それに耳を傾ける。ルークが横から軽口を挟み、カスパーと笑い合うが、私と父は終始無表情を崩さなかった。
ただ、実際には私は心の中で少し笑っていた。それが顔に出ないだけだ。ふと、父も同じなのではないかと様子をうかがう。──うーん、我が父ながら、本当に読めない。
「ところで、クラリス様」
食後のティータイムに出された紅茶に一口つけた後、カスパーが口を開いた。どうやら本題に入るらしい。
この老練な学園長が、何の目的もなく公爵家を訪れて食事を共にするなどありえない。私は静かに次の言葉を待つ。
「ゼノ先生とライオネル君から話を伺いました。クラリス様のお取り計らいのおかげで、個別指導が大変順調に進んでいるとのことです」
ライオネルとの個別指導は今日が初めてだったのに、なんて耳が早いのか。内心舌を巻く。
「とんでもございません。ゼノ先生とライオネル様のご指導あっての成果でございます。わたくしなど何もしておりません」
私は丁寧に答え、控えめに一礼した。
「ご謙遜を。クラリス様の才覚がなければ、ここまで上手く運ばなかったことでしょう」
カスパーは柔らかな笑みを浮かべた。人好きするその表情の裏に、どのような思惑が隠されているのだろう。
私はその真意を探るべく、カスパーの瞳をじっと見つめる。しかし、彼はその視線を受け流すように、さらに笑みを深めた。
「これなら、次の定期テストも安心ですね」
その言葉に、私は一瞬手を止めた。しかし、それは一瞬のことだ。冷静さを保ちながらティーカップの持ち手を取ると、ゆっくりと口に運ぶ。少し苦みのある紅茶を口に含みながら、内心の動揺を抑え込む。
──そうだった。
「いかに特待生といえど、赤点を取れば退学になってしまいますからね」
──知っている。忘れていたけど。
私は何事もなかったかのようにティーカップをソーサーに置き、平然とした態度で答えた。
「もちろんでございます。リナさんには必ず、合格点を取らせてみせます」
私の言葉に、学園長は満足げに微笑んだ。
二話投稿します。




