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完全無欠の悪役令嬢はポンコツヒロインをほうっておけない  作者: Kei
第一章 完璧にサポートしてみせます

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どうしてこうなった

 ──ああ、あのシーンだわ。


 学園の廊下に午後の日差しが差し込み、大理石の床に淡い光が映えている。私はゆっくりと視線を動かし、目の前の少女を見つめた。彼女の大きな瞳は涙で潤み、今にも泣き出しそうだ。私は静かに息を吸い込む。


 どうしてこうなった。


 平民出身の可憐な少女が涙をこらえ、無表情な公爵令嬢が冷たく見下ろす。この構図はまるで、冷酷な貴族が弱き者を追い詰めているかのように映る。


 いや、まるで、ではなく、そのまんまだ。


 冷たい汗が背中を伝うのを感じる。


 そうだ、私はこの少女──リナ・ハートにとっての“悪役令嬢”。その名もクラリス・エヴァレット。このエルデンローゼ王国の公爵令嬢にして、彼女の前に立ちはだかる敵キャラだ。


 突如として、記憶が奔流のように押し寄せてきた。自分が転生者であり、この世界が前世で夢中になってプレイしていた乙女ゲーム「Destiny Key ~約束の絆~」の中であることを思い出したのだ。ヒロインであるリナに冷たく接し、試練を与える役割を担う──今まさにそのシーンを、現実として生きている。


「クラリス、別に構わない。ここは学園内だ。身分差など関係ない」


 私がリナを叱咤することになった元凶が、場を収めようとこちらを見てくる。貴族らしい品の良さを感じさせるその青年の名はアレクシス・フォン・エルデンローゼ。この国の王太子にして、私の婚約者。そしてこのゲームの攻略対象だ。


 リナは彼を王太子と知らず、廊下で普通にすれ違おうとしてしまったのだ。それがどれだけ無礼なことなのか、彼女は知らない。そのとき、たまたま一緒にいた私がリナの無礼を指摘し、こうして彼女を追い詰めている。


 その結果が、これだ。


 理解が追いつかない中、私は必死に平静を装った。今はこの状況をどうにか乗り切らなければならない。


「……次から気をつけることね」


 冷静を装った声が口をついて出る。リナは怯えたように肩をすくめ、半泣きのまま「はい」と小さく答えた。その姿に胸が痛むが、動揺を見せるわけにはいかない。心臓が激しく鼓動しているのを感じながらも、表情は冷静さを保ち続けた。


 ──どうしてこんなことになったのか。


 アレクシスがリナの隣を通り過ぎ、ちらりと私に目を向ける。彼の視線に込められた何かを感じ取りながら、私はリナに背を向け、その場を離れた。

 胸の中では記憶と現実が交錯し、混乱と焦りが渦巻いていた。

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 完全無欠の悪役令嬢はポンコツヒロインをほうっておけない
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