【ゼノ】神
学園中に張り巡らせた影から集めた情報を、一通り確認し終える。
私は静かに息を吐いた。
現時点で、学園に異常はない。
学園祭も順調に進み、空気はどこまでも穏やかだ。
このままいけば、明日のグランドナイトガラ──“運命の時”も、何事もなく終わるだろう。
──表面上は。
研究室の暗がりの中、机に広げた学園の地図を、ランタンの淡い灯りが照らしている。
シリルが張った結界は完璧だ。あれがある限り、魔物が侵入を試みても、指先ひとつ結界の内には入り込めまい。
だが。
肌をかすめる微かなざわめきが、私に警告を与えている。
「王家の影」として積み重ねてきた経験から来る“勘”が、静かに、しかし確実に警鐘を鳴らし続けていた。
──油断するな、と。
理屈だけで言えば、クラリスの話は信じるに足らない。
「封印の鍵」の存在がなければ、妄言として切り捨てただろう。
それでも──
学園祭の最終日、グランドナイトガラの夜に現れる“何か”を、私は確かに感じ取っている。
「古代の神」──
“神”とは、この世界を創造した存在──そう伝えられている。
神に名はなく、ただ創造主として人々に敬われてきた。
国によっては神の権威を政治に利用するところもあるが、エルデンローゼ王国は違う。政情は安定し、神にすがらずとも国は回っている。ただし、創造の神として礼拝堂で祈りを捧げる風習は根付いており、それを禁じる法もない。
では──「古代の神」とは何者なのか。
……おそらく、私たちの知らぬ歴史が、その背後にある。
いずれにせよ、この国を脅かす存在であるならば、たとえ神であろうと──私は容赦しない。
ランタンの灯を吹き消し、闇に目を慣らすように静かに瞼を閉じる。
影から集めた情報の中には、当然、学園祭での出来事も含まれていた。
……どうやらクラリスは、相変わらず厄介な騒動に巻き込まれていたらしい。その末に、王太子との距離を縮めたようにも見える。
彼女がそれを望んだのかは分からない。
だが、周囲の目には──確かに未来の王太子妃として映ったはずだ。
胸の奥で、じり、と焦げつくような感覚が走る。
……気づかなかったふりをした。
明日は最終日。騎士団の精鋭は学園近くで訓練を行う予定になっている。
もちろん、この事態に備えての布陣だ。早馬を飛ばせば、学園に到着するまで時間はかからない。
王と騎士団長、宮廷魔術師団は城に残す。万が一、城に「古代の神」が現れたとしても、即応できるように。
──すべての準備は整った。あとは、その時を待つだけ。
それを確認して、私は夜の闇に音もなく身を沈めた。
当初入れる予定のなかったゼノ視点のお話です。
静かな夜の中で、彼が何を感じ、何を備えているのか──少しだけ覗いていただきました。
ゼノさんの本格的な出番はもう少し先です。もう少々お待ち下さい!
次回ep.129は、とうとう学園祭最終日。
本日9月16日(火) 19:10(10分後!)更新予定です。お楽しみに!
感想・ブクマ・ポイントで応援いただけると、とても励みになります!
どうぞよろしくお願いいたします!!




