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完全無欠の悪役令嬢はポンコツヒロインをほうっておけない  作者: Kei
第八章 運命の時! グランドナイトガラ

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幕が上がる前に 2

 ──結局。


 学園祭の仕事に追われているうちに、気がつけばクラス劇の時間が迫っていた。


 二日目となった今日は、当初想定していたよりもずっとトラブルが少なく、今はクラス委員たちや協力者たちが、私たちの代わりに学園祭の対応をしてくれている。

 本来なら、アレクシスと私が抜けた穴をルークとリナで補うはずだったけれど、彼らの好意で、あの二人もクラス劇を客席から観られることになった。

 今ごろ、会場のどこかで座っているはずだ。


 劇の衣装に着替えさせてもらいながら、私はそっと小さくため息をつく。


 ……どうしよう。まだ、アレクシスに謝れていない。


 劇が始まる前に、何とかして時間を作り、きちんと謝るつもりだったのに、気づけばその機会を逃し続け、結局こんな時間になってしまった。


 このまま……こんな気持ちのままで、アレクシスと舞台に立つのか。


 心のどこかで落ち着かないものを抱えながら、私は視線を落とす。

 そんなとき、準備の様子を見に来たレティシアが、着替え終わった私を見て一息ついた後、ふと神妙な表情を浮かべ、声をかけてきた。


「クラリス様……アレクシス様と、何かございましたか?」


 その問いに、胸の奥がひやりと冷たくなるのを感じた。


 ……さすが、演劇の鬼と呼ばれるだけのことはある。その観察眼は侮れない。


 おそらく、傍から見れば、私とアレクシスの様子はいつも通りに見えただろう。そもそも私たちは、普段から必要以上に言葉を交わす間柄ではなかったし、どちらも感情を表に出す方ではない。

 リナやルークならまだしも、まさかレティシアに気づかれるとは思わなかった。


「……わたくしが、勝手な行動を取ってしまったのです。それで……アレクシス様を、怒らせてしまって……」


 迷った末、私は正直に答えた。

 このまま心のしこりを抱えたまま舞台に立てば、みんなに迷惑をかけることになるかもしれない。

 それだけは、絶対に避けたかった。


「……アレクシス様のご準備は、もうお済みでしょうか?」


 ──ちゃんと謝ろう。今しかない。もう、この瞬間しか。


 レティシアは私に静かに目を向ける。そのまなざしには、私の決意をそっと見守るような光を宿していた。

 やがて、優しく微笑み、穏やかな声で言った。


「……はい。終わっております。あちらで、クラリス様をお待ちですよ」


 彼女は私の手を取り、静かに導くように歩き出した。


 その先に、エルヴィンの衣装に身を包んだアレクシスの姿があった。

 今朝、私の視線を一瞬で逸らしたあの瞳が──今は、真っすぐにこちらを見つめている。


 私は、レティシアに手を引かれるまま、彼の前に立った。

 レティシアはそっと手を離し、周囲の生徒たちとともに静かに距離を取った。


 ──静寂が降りる。


 ……まさか、アレクシスに対して、こんなに緊張することになるなんて。


 私は“悪役令嬢”だが、決して、婚約者に執着して嫉妬に狂い、ヒロインをいじめるようなキャラではない。

 ただ、王太子の婚約者としての役目は自覚しており、それを完璧に果たそうと努めていた。


 私が“悪役令嬢”になったのは──その責任感ゆえに、一見王太子に相応しくない平民出身のヒロインを遠ざけようとしたからだろう。

 ……前世の記憶を取り戻していなければ、きっと、私もそうしていた。


 結果的に、それが彼にとっての重荷となり、彼がヒロインと結ばれた後、私は身を引くことになる。


 ……ゲームの中の私は、一体どんな気持ちだったのだろう。

 完璧であろうとし、王太子の婚約者としての役目をひたすら全うしようとして──そのすべてを、否定された私は。


 ──いや、やめよう。今は、そんなことを考えている場合ではない。

 もうすぐ劇の幕が上がる。主演の私たちがこんな状態では、成功など夢のまた夢だ。


「──アレクシス様」


 私は覚悟を決め、顔を上げた。

 アレクシスの整った顔立ちが、すぐ目の前にある。その表情には、何かを言いかけて、けれど飲み込んだような、そんな迷いが宿っていた。


「昨日は……本当に申し訳ございませんでした。わたくしの勝手な判断で動いたことで……アレクシス様まで巻き込んでしまうところでした」


 言葉の最後で、申し訳なさに声の力が抜けていく。

 どうしても彼を見つめ続けられず、ほんのわずかに視線を落としてしまった。


 再び、沈黙が降りる。

 私はゆっくりと顔を上げ、彼の目を確かめるように見つめる。


 そこには──


 何かを諦めたような、静かな表情があった。


「……いや、私も悪かった」


 アレクシスはそう言い、小さく、ほんのかすかに笑った。


「……もうすぐ始まる。完璧な、劇にしよう」


 その声は、低く小さく。

 どこか遠くで響いたように、私の耳に届いた。


アレクシスは何を悟り、そして何を諦めたのか。

その胸中が明かされるのは、次回 ep.120以降──アレクシス視点です。


次回更新は8月19日(火) 19:00の予定です。

夏休み特別連続投稿を見届けてくださった皆さま、本当にありがとうございました!


来週からは火・金の定期更新に戻りますが、物語はさらに加速していきます。

これからもお付き合いいただけたら嬉しいです☺️


──

Xでは更新連絡やAIイラストも投稿中。

今回は、ラストシーンのアレクシスをお届けします!

https://x.com/kan_poko_novel

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 『わたくしの推しは筆頭公爵令嬢──あなたを王妃の座にお連れします』
(クラリスとレティシアの“はじまり”を描いた物語です)

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 完全無欠の悪役令嬢はポンコツヒロインをほうっておけない
― 新着の感想 ―
アレクシス的には婚約者で何度も一緒に踊ったのに 「なぜ俺じゃないものと剣舞したんだ」の嫉妬があったんだろうけど クラリスがあまりにもいつも通りで「あっコレは恋愛感情じゃないやつだ ならまぁ仕方ないか」…
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