下等生物
「なんだ!何の騒ぎだ!」あまりの騒々しい音に、誰かが来たようだ。
天星はもはや人では無くなった肉片に向けて、両掌をかざした。その途端、肉片やあちらこちらに飛び散った筈の血痕も蒸発でもするように消えていった。彼女にかかった返り血も綺麗に消えてしまった。
「えっ!?」彼女はおもむろに俺の体をくの字にして肩に担ぐと、男が作った天井の穴から外に飛び出した。
後日、謎の体育館倉庫の損壊が学校で問題になったのは言うまでもない。
天星は、何度もジャンプを繰り返し移動していく。それは、おおよそ人間の到達出来るレベルでは無かった。俺は彼女の背中から、いまだかつて無い経験と、先程の惨状が頭から離れず人形のようになってしまった。
天星は、ゆっくりと地面に着地すると、俺の体を優しく下ろした。
「気分はどう?」その髪の色が黒髪に変わっていく。変身が解けていくようであった。
「き、気分……?」何を聞かれているのか解らない。
「とにかく部屋で話そうか」彼女はゆっくりと階段を昇っていく。見覚えのある風景、ここは……、俺のアパート!
「な、なぜ、ここを知っているんた!?」背筋を得体の知れない感覚が駆けめぐる。
「なぜって……、ずっと君の事を観察していたから。君の事なら、ある意味、君以上に知っているよ」階段の手摺に手を掛けながら彼女は微笑む。その笑顔が俺には恐ろしい物に見えた。
天星は、階段を昇ると迷わず俺の部屋の前に立ち止まり、催促するような目を向ける。
「……何?」多分、鍵を開けろと言うことなのであろうが、気づかない振りをする。
「扉を開けなさい。開けないなら鍵を壊すわよ」先程のの出来事を見た後なので、それが冗談では無いことは俺にも解る。仕方なく、ポケットの中から、鍵を取りだして扉をあけた。
「うーん!実体でこの部屋へ入るのは初めてだわ!」なんだかテンションが騰がっているようである。
「実体?」また、意味の解らない事を言い足した。俺は、鞄が無いことに気がついた。そういえば、昼休みから授業をサボった事になるのだ。それも今日現れた転校生と二人。誰が考えても、二人でエスケープした事は明白であろう。明日の事を考えると憂鬱になった。それ以前に、蘭の怒り心頭の顔が目に浮かぶ。
「あ、ああ、我慢出来ない!ずっと窮屈だったのよ!」そう言い出すと、彼女は服を脱ぎだした。
「ちょ、ちょっとまて!」俺は目を両手で覆いながら、彼女がブラウスの胸元を外していくのを止めた。
「なぜ、止める?」天星は、不思議そうな顔をする。
「お前は、羞恥心とか無いのか!」こっちの顔が真っ赤になって、火を噴きそうである。
「羞恥心?なぜ、君のような下等な生き物にそんな物を感じる必要があるのだ?」まるで当然のことのように、彼女は笑った。
俺は、そのまた、彼女の言葉を理解できなかった。