転校生してきた少女
「おはよう!」蘭は教室に入ると大きな声で挨拶をした。
「おはよう!」教室の女子達が挨拶を返した。入学してから、まだ日は浅いが蘭は既にクラスに溶け込んでいるようである。蘭の席を中心に、女子達の井戸端会議が始まる。
彼女のコミュ力に感心しつつ、俺は無言のまま自分の席につく。
「よう!おはよう、勇山!」小田中が声を掛けてくる。人見知りの激しい俺に、コイツは馴れ馴れしく声をかけてくる。
「ああ、おはよう……」俺は適当に返すと鞄の荷物を机にしまう。
「なあ、お前たち付き合ってるのか?」小さな声で耳打ちでもするように、小田中は聞いてくる。
「付き合ってる?誰と……」質問の意味が理解出来ないで聞き返した。
「誰って……、大林蘭だよ!彼女、みんなが狙ってるぞ」
「狙ってる……?何を」全く解らない。
「お前……、マジか?」何故か、小田中は哀れむような目で俺を見た。
チャイムの音が鳴り、生徒達は自分の席に移動する。
しばらくすると、教室の扉が開き担任教師が入ってきた。その後ろを見覚えのある少女が歩いてくる。
(えっ、あの子は……)それは俺のアパートを遠くから見ていた黒髪の少女であった。彼女の姿を見て、教室の中は少しざわめく。
「静かに!新しい仲間を紹介する。転校生の天星恵子さんだ」教師は紹介をしながら、黒板に彼女の身名前をチョークで書いた。
彼女は美しい顔を崩さず真っ直ぐ前を見ていた。
その視線が何故か俺に向けられているようで、少し背筋が寒くなった。