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どうやら俺は他の事でもかなり知られていたらしい。

 「いや~負けちゃいましたね~」

 

 偲の悔しそうな声がヘッドホン越しに聞こえてくる。

 バトロワでは仕方の無い物だが、やはり漁夫られると少しイラつく。

 漁夫さえ来なければ勝てたのに――という場面は多々あるため、その分イラつきも増える。

 

 だがこれは大会、こんな簡単な事でイラついていたら大会を楽しめない。

 一人足りなかったから漁夫を返せなかった、自分の実力不足だった。

 そう自分に言い聞かせて俺は「そうだな」と偲に相槌を打った。


 カスタムはどんどんと進んで行き、二試合目は初動で先ほどのフライトルのパーティと被ってしまい死んでしまった。

 

 偲は「私がもっと強ければ……」と落ち込んでいたが相手は強者揃いだし、そもそも人数が欠けているのだから負けてしまうのは仕方が無い。

 「まあ一人欠けてるから負けるのは仕方が無いよ。逆に勝てる方が凄いから」と半笑いで偲を慰めながら俺は義妹のプレイを観戦する。


 物資の漁り方は普通、移動方法も普通だが、視点移動が少しカクついているので多分コントローラーを使っている。

 兄という人も観戦してみるが、こちらは視点移動がぬるぬるでおそらくキーマウ。

 もう一人のジーナという人を観戦してみるが……これはかなりの初心者だと思う。

 

 意味の分からないところでエリストスのスキャンを使い、武器を持ちながら走っているため他の二人との距離がどんどん空いて行く。

 

 ここで少し遅れていたエリストスがフォーカスをもらってしまいダウンした。

 一瞬で確殺を取られ、義妹の観戦画面に飛ばされる。


 何なんだこの人は、動きが一味どころか二味以上違う。

 コントローラーだと言うのに好感度なのか、視点はキーマウように動き、80mほど離れたフライトルをARでダウンさせた。

 そしてリロードもせずショットガンに持ち替えると、味方のフォンを無視して単独で突っ込みそのまま三タテしてしまった。


 「こいつやべぇ……」

 「もしかして義妹さんの観戦画面見てます?」

 「ああ、ほんとに歴一カ月なのか……?」

 「はい、本人が配信でそう言っていたので多分そうだと思います」

 「……」


 あまりの凄さに声が出なくなってしまった。

 味方と連携を取らずに自分一人で敵を壊滅させる実力の持ち主。

 こんな人と大会ではバチバチにやり合うのか、何か燃えてきた。


 因みにこの義妹さん、途中で兄の方が敵に絡まれてしまい死んでしまったが、最終局面までハイドで耐えて、ショットガンとARを器用に使い見事一人でチャンピオンを勝ち取った。

 開いた口が塞がらないが、俺はマウスを操作して本配信を見る事にした。

 サブモニターに映し出された画面は、丁度チャンピオンチームにインタビューをするという雰囲気になっている。

 実況の人が「では勝者インタビューと行きましょう!」と大きな声で言い、Discordingのサーバーに入る。

 

 「では勝利チームリーダーの義妹さん、今回のマッチはいかがでしたか?」

 

 実況の人がそう聞くと心々音よりも少し低い声が聞こえた。


 「そうですね、まあ余裕だったかなって。特に初動のファイトは簡単すぎて相手になりませんでしたね」


 偲が「この人たち、絶対私たちの事煽ってますよ」と怒り気味なのか低い声でそう言う。

 この時俺も煽られたことに反応してしまい、かなりイラついた。

 

 簡単すぎて相手にならなかった?

 やってやろうじゃねぇかよ、次の試合ではお前らを倒してチャンピオンになってインタビューで同じようなこと言ってやるよ。

 と強く思った。


 インタビューはまだ続く。


 「なるほど。では今回のこのEMカップ、目標としてはどこを目指していますか?」

 「んー、まあ現エクシャスや過去にエクシャスに到達している人と戦えるという事で、個人の目標としては最多キル、チームとしては2位を取りたいですかね」

 「2位? なぜ2位なんでしょうか」

 「商品のお肉が食べたいからですかね」


 笑いながらそう答えると実況の人とは違う男性の声が聞こえる。


 「お前は食いしん坊だな」

 「もう、お兄ちゃんうるさい!」

 「仲の良い兄妹ですね、本戦でもこの兄妹劇場が見られるのでしょうか、乞うご期待です! では二試合目勝利チームの『義兄妹とそのお友達』の皆さんでしたー!」


 本配信のインタビューはそこで終了し、実況の人が「では、本日最終マッチ、準備中ですので少々お待ち下さい」と言い、本配信は雑談ムードになってしまった。


 「ムカつくな、今の」

 「ですよね。二人でチャンピオン取って先輩と私が強いって事、あいつらに見せてやりましょうよ」

 「そうだな、絶対勝つ。もう本気でやります」

 「ちょ、先輩……そのキャラって……!」


 俺が選択したキャラは『ヴォイド』というキャラ。

 俺はこのキャラでとある日本記録を持っている。

 それは【一マッチダメージ数日本一位】というもの。

 フライトルが出る前まではこのキャラはメタキャラで使用率も常に一位を保っていた。

 フライトルが出た今では見る影も無くなってしまったが、使う人によるが今でも全然第一線を張れるような性能だ。

 

 このキャラは名前通り、虚空に入る事が出来る。

 なんども頻繁に使用できるわけではないが、スキル『次元の狭間』は回復、攻撃が出来ない代わりに虚空に入って前線から引くことが出来る。

 アビリティも強く『超銀河』は複数の次元の入り口を作り、それに入った者は必ずヴォイドの近くに帰って来るというもの。


 味方が離れていてダウンした時や、機転が出来た時などに使うアビリティ。

 因みにヴォイドがこの複数ある次元の入り口に入ると好きな入り口から出る事が出来るというチート機能もある。


 「先輩ってHEROX界隈で有名だった『リコラス』さんだったんですか……!?」


 ここ最近『ランキング』というものが出来て、HEROX内で打ち立てられた世界記録や地域ごとの記録は確認できるようになっていたが、俺がこの記録を取ったのはシーズン7。

 今がシーズン12だから5シーズンも前になるため、当時はTwltterや動画投稿サイトに写真やプレイ動画を載せないと記録にはならなかった。

 因みに未だにこの記録は破られていない。


 そして偲が言っているリコラスとは俺が以前作ったTwltterのアカウント名だろう。

 これも、ただ記録を載せるためだけに作ったアカウントだったので放置していたのだが、ここまで周知されていたのか。

 

 そして俺がリコラスだとバレた原因も簡単で、称号の部分に『ヴォイド一マッチダメージ数日本一位』という称号を付けているからだろう。

 これは、俺がもっと配慮するべきだった。

 

 「リコラス、そんなアカウントもあったね」

 「何ですか、その強者を連想させるようなセリフは……」

 「ごめん、ちょっとイキった」


 偲は「いや、だって強いですから全然イキっても良いと思いますけど、まさかこんなに凄い人が身近に居てちょっと驚いてます……」と感慨深そうな声で言った。


 ここでちょうどカスタムキーが出たので「偲、カスタムキー出たぞ」と伝えてから俺はカスタムに入った。


 14番チーム『義兄妹とそのお友達』と書かれたバナーの下に『義妹』『兄』『ジーナ』という人が順にチームに入っていく。

 

 俺はその隣の15番チーム『みるみなりょー』のチームに入る。

 少ししてから偲がカスタムに入り、俺の下の枠に入る。


 「まあまあ、俺は日本記録持ちだから。こんな雑魚に負けるわけないんだよ」

 「そうですよね、だって先輩お強いですもん!」

 「てのは冗談で、結構プレッシャー感じてる」

 「ちょっと先輩!?」


 フライトルが出てからメタパーティは『フライトル』『エリストス』『フォン』という構成になった。

 現環境で『ヴォイド』なんて使ってしまえば一瞬で轢き殺されてしまう。

 だが、このキャラはフライトルが出るシーズン11までずっと使っていたキャラ。

 キル数だってざっと4万は越えている、それだけこのキャラを使って来て立ち回りもしっかりと分かる。


 「ちょっと緊張し過ぎた。フォンに逃げようかなって思ったけど、やっぱりヴォイド使うわ」

 「先輩の好きにしてください! 私はハートビートで一生先輩のサポートをするので!」

 「ああ、頼んだ。頼りにしてる」

 「わはっ、先輩! 好きです!」

 「ありがとう。それじゃあ、頑張るか」


 偲の嬉しそうな声が耳に響き渡り、試合は始まった。

 『義兄妹とそのお友達』

 待ってろよ、今から潰してインタビューでボコボコに煽ってやるからよ。


 気合を入れるためにコップに注いであったお茶を一口飲み、俺はマウスを力強く握った。


 

一週間以上待たせてしまいすみません。

木曜日あたりから投稿ペースが回復すると思います。

迷惑をお掛けしてしまい誠に申し訳ございません。

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