どうやら最近の配信者は化け物揃いらしい。
キャラクター選択時間が終わり、いよいよマッチが始まった。
デュオトリオとなると人数差で一気に押し切られてしまう事が多いため、立ち回りが鍵となる。
俺が選択したキャラクターは相も変わらず『フォン』を選び、偲が選んだのは『ハートビート』というキャラクター。
偲が使っているこのキャラクターだが、デュオトリオで基本となる攻撃に特化したキャラクターではなく、エリストスと同じ様な探知キャラクターになる。
カウボーイのような見た目をしていて、体の中心には四角形のコアが埋められている。
エリストスと違う点は、このキャラは名前の通り心拍を聞くことが出来る。
詳しく言うと範囲80m以内の敵の心拍を聞き、どこに敵がいるのかを探知することが出来る。
そしてこのキャラのスキルは継続で使うことが出来て尚且つ、相手の回復や蘇生、アビリティなど何でも止める事が出来てしまうチートキャラ。
と文面だけ見たら思うかもしれないが、実際は使うのが難しくてまずエリストスと比べると探知範囲が狭いし、なによりこの相手の行動を止めるには『フォーカス・オブ・アテンション』という一直線に飛んでいく難しいスキルを敵に当てなければならない。
だから、使用率はかなり低めになっている。
「やっぱり先輩はフォンですか……」
少し嬉しそうな偲が話す。
「ん、何か文句ある?」
「いえいえ、全然ありません。実はデビュー前から先輩の配信とか見ててフォンの使い方上手いなって思ってたんですよ!」
「そうか、ありがとう」
新しく入って来た新人が俺の視聴者だったのか、何かおかしくはないが何とも言えない気分になってしまう。
今は同じ企業の人間に当たる訳だが、俺の配信はどんな風に思われているのだろうか。
「このままだと気まずい感じになりそうだから質問させてもらおう」
偲はさっきよりも嬉しそうに「はい! 何でもどうぞ!」と言った。
「元視聴者? として俺の配信は面白かったか?」
俺がそう聞くと偲は何も考えもせずに「はい、凄く面白いです!」と答えた。
「いや、全然面白くないです」とか棘のある返しじゃなくて素直に面白いって言ってもらえると嬉しいな。
高揚感に染まりつつ、雑談は続く。
幸運な事に、俺たちの降りた町には敵が下りなかった。
「それはありがたい。じゃあ逆に俺に何か質問はあるか?」
偲は「んー」と考えるような声を出した。
そして数秒後「あ、ありました!」と大きな声を出した。
頭に響くような甲高い声、少し痛みを覚えながらも話を聞く。
「先輩のHEROXの腕前を教えてくださいよ! 私、全然知らくて……」
「あーなるほど、良いよ。まず最高ランクはシーズン2、3のエクシャスで、4000ハンマーと虐殺者は全キャラ所持、後は……古参を証明するんだったらシーズン1バトルパスのエリストスのスキンを持ってるとか?」
偲が急に声を出さなくなった。
一回コメントを見ようとしてサブモニターに目を移すと、コメントの流れが一気に速くなった。
【過去にエクシャス行ってんのかよ!?】
【シーズン2、3は確かマスターが無かったはずだけど、それでもエクシャスはヤバすぎだろ】
【シーズン1から課金してんのか……ガチ勢や……】
コメントでも言っている通りシーズン2、3はマスターと言う概念が無かったため、今のランク制度とだいぶ違うがとりあえず1000ポイント稼いだら誰でもエクシャスになれた。
そのため、俺の最高ランクはエクシャスだしちゃんと証明するための称号とバッチも持っている。
因みに当時は1キル1ポイントで順位ポイントも無かったため、単純計算1000キルすればエクシャスになれたのだ。
「……この人怖」
「あんたもだいぶやり込んでると思うけどな」
「褒めてくれるんですか!? ありがとうございます、この讃岐偲、先輩のために一生懸命頑張ります」
「良きかな良きかな」
変な子芝居をしながら、気づけば最終局面。
いつものEMカップならば最終アンチで10部隊ほど残っているはずなのだが、今は違う。
どこのパーティか分からないが『義妹』という名前の『フライトル』というキャラクターを使っている人が驚異の15キルを達成していて、残り部隊数は6部隊となっていた。
このフライトルというキャラクターはアビリティの『フライトルワールド』が強力で、自信を中心に味方二人を左右に装着し、上空に飛び上がる事が出来る。
このアビリティによって、不利対面でも簡単に移動が出来てしまい、一瞬で有利ポジションや高所を取れる。
スキルの『フライランチャー』も他のキャラと比べれば優秀で、指定した場所に16発のミサイルを撃ち込み、当たった敵はスタン状態になる。
「確かこの名前って、最近出てきた『義兄妹のゲームチャンネル』っていう人たちでしょうか」
聞いた事の無い名前に俺は反応した。
「なんだそれ」
「先輩知らないんですか? 最近人気沸騰中の人たちで確かHEROXを初めて一カ月だかでマスターに到達しただとか」
一カ月でマスター……?
昔の環境ならば分かるが、最近の環境は初心者にはかなり厳しいはず。
マスター帯には常にエクシャスプレイヤーがいてダイアなんて狩り殺される。
それに、そもそも初めて一カ月でダイアに到達出来るだけで凄い事なのに、マスターとなるとかなりの実力者。
腕が鳴るとはこの事だろうか。
「そいつら、強そうだな」
「はい、しかもプレイスタイルもとんでもなくて、AIM練習は一切せずそのままランクマに行って、エクシャス軌道が見えたら必ずそのパーティに被せるらしいです」
「……」
エクシャス軌道に被せる、そんなの自ら死にに行くような物なのにそれを毎回……
しかも、AIM練習無しでマスターまで昇り詰めたのか。
何か匂うな、もしかしてチーターか?
「一応チート疑惑がかけられてたんですけど、しっかりと白証明されて完全実力で昇り詰めた実力者だと噂になってるんですよ」
白証明もされたのか。
「なるほどな。まて、目の前に今フライトルが見えた」
一瞬だがフライトルのミサイル部分が見えたような気がした。
「了解です、実はさっきから心拍で見てたんで三人はいるのは確認済みです」
「先に言えい」
「すみません、話が面白かったのでつい……てか、バレました! 突っ込んできてます!」
偲の言う通り、敵のフライトルとフォンが突っ込んで来ている。
幸い、距離は離れているためまだ時間はある。
「俺が目の前に竜巻を発生させるから、浮かんでいる間のカバー頼む!」
「了解です! ショットタイムしますね!」
ハートビートのアビリティの『ショットタイム』が展開された。
これはハートビートについているコアを好きな位置に設置して、敵の行動を完全に追跡するという効果がある。
相手がしゃがむと映らなくなってしまうのが難点だが、それ以外は動いてなくても追跡する。
相手が固まっているコンテナ裏に竜巻を発生させて、投げ物を投げ込む。
「おっけ、グレで2枚割った!」
「自分前出ます!」
偲が前に出つつ、スキルで相手の回復を阻止。
その効果のおかげでフォンとエリストスをダウンさせたが、敵のフライトルが完全に回復してしまった。
「うわっ、マジか! この人ショットガン上手すぎ!」
偲がフライトルにダウンさせられてしまった。
ログには『義妹』と表示されている。
これが、15キルの化け物フライトル。
緊張でマウスを操作している手が震える。
「先輩! フライトル割ってます! 詰めてください!」
偲の声で一気に緊張が無くなり、俺はマウスを動かす。
持っていたARをショットガンに切り替えて前に詰める。
「おらっ、よっしゃあ! いや、この人マジで上手い」
「ナイスです! 先輩!」
詰めるのが遅れて少し回復されていたが、ショットガンの高火力で何とか押し切れた。
しかしこのフライトル、本当に上手くてショットガン一発で俺のアーマーを破壊してきた。
これが巷で噂の『義兄妹のゲームチャンネル』か、恐ろしい。
因みにこの試合は、偲を蘇生させている所で漁夫が来てしまい3位という結果で終わった。
「うぅ……あそこで私がダウンしなければ……」
「まあ仕方ない、人が足りないんだからむしろここまで行けたのが凄いと思う」
「ご気遣いありがとうございます……次はチャンピオン取りましょ!」
「ああ、そうだな」
そう言いロビーに戻って、次の試合の準備を始めた。
空き時間にちょびちょび書いていたのが完成したので投稿します。
まだ忙しくて来週も二本投稿出来るかわかりません。
ブクマして待っていて下さると嬉しいです。




