どうやら謹慎は明けたらしい。
軽く夕飯を食べたところで本格的に準備に取り掛かる。
夕飯は心々音が材料を買って来てくれたようで、カレーを作ってくれた。
丹精が込められており、なにより温かくて凄くおいしかった。
心々音の意外な一面に驚いたが、それよりも今日は配信に集中しなければいけない。
「準備できたー!枠も取ったし概要欄も書いたよー!」
元気な声でみるくが俺にパソコンの画面を見せて来た。
概要欄にはリンクが貼られており、みるくのTwltterアカウント、そして俺のVtubeのアカウントとTwltterのアカウント。
Twltterのアカウントをみるくに作るように言われていたが、まさかこうなるとは。
視聴者は配信が始まる前にこの概要欄を確認できるからコラボの場合などでは配信終了後にリンクを貼る事が多い。
配信前にリンクを貼ってしまうとコラボなどの告知をしていない場合でも、すぐに概要欄が拡散され「コラボでは!?」とザワついてしまう。
といっても今はもう配信開始30分前。
どうやら運営からこんな形でと言われたようなので今回は気にしないようにした。
「ぶへー、りょーくん緊張するよー」
「緊張してるようには見えんがな」
「涼真くん、女の子はこういう時、気遣って欲しいものなのですよ?」
不敵な笑みを浮かべた心々音がそっとみるくを抱き抱える。
「ほーら、みるくちゃん、大丈夫だよ~?」
「お前は母親か」
「うえーん、お母さーん、胸がくるしいよー」
「お前も流れに乗るな、配信があるんだぞ」
「ちぇ、涼真くんってほんとにつまんないですよね」
「どうしてそうなる、俺は真剣に考えてるんだが」
心々音は抱えていたみるくを離すと、ぷくーっと頬を膨らませた。
「良いですか、涼真くん」
「なんだ急に」
「配信において、つまらないというのは一番ダメなんです」
「はあ……?」
「みるくちゃんのように清楚だけど、ハイテンポの曲が歌えたり本当は幼馴染にベタ惚れだったりとギャップがあるというのは配信において武器になります」
「ああ」
「だけど、今の涼真くんは何においてもマジレス、マジレス、マジレスの嵐です。確かにああいうマジレスしか出来ないってのもキャラになりますし、荒れた空気を抑える役にもなれます。ですが、そのキャラが悪手になってしまうこともあるんです」
「ちょっと、心々音ちゃん!?今幼馴染にべ――」
「ちょっと黙って?」
心々音の圧に屈したのかみるくは言おうとしていた言葉を引っ込めた。
「ですから、全てをマジレスで返すのではなくメリハリを付けましょう」
「メリハリなぁ……」
「大丈夫です、今回だけは私がサポートしますから」
「じゃあ、頼りにするか」
「その意気です!」
心々音から配信の意義を教わった所で最終チェックをして配信に臨んだ。
チェックしている間、みるくはずっと顔を赤くして口をモゴモゴさせていたのは、俺だけ知っている秘密。
「じゃあ、押すね?」
みるくの声と共に配信開始のボタンが押された。
開始までは多少のラグがある。
その間、みるくは咳払いをすると声を大人な声に変えた。
「皆さん、こんみる~。staraliveの中野みるくです」
パソコンに表示されているコメント欄が凄い事になっている。
コメントの数が多いのかスクロールしたかのように流れが早くて正確に読み取る事が出来ない。
「今回は運営さんからもアナウンスがあったように、私の配信に乱入した幼馴染のりょーくんがstaralive所属のストリーマーとなったので、今回は彼の自己紹介を含め復帰配信をしようかと思います」
コメントが「マジか」「アニメ的展開きちゃあ!」など歓喜の声で溢れかえり、目が慣れて来たのかコメントが何とか読み取れるようになった。
案外、アンチと呼ばれる層は居ないようで一安心だ。
「では、早速自己紹介してもらいましょうか」
みるくが肩を触った後、「りょーくんの番!」と耳打ちして来た。
それに反応するように俺は少し声を変え、自己紹介を始めた。
「こんにちは、いやこんばんは、RYOです。まずは視聴者の皆様に誤解を招いた事を謝罪させてください、すみませんでした」
俺は謝罪を入れた後、自分の趣味、これからどのように活動していくかなどを説明した後、みるくに引き継いだ。
「はい、ありがとうね。りょーくん」
「ああ、問題ない」
この一つのやり取りだけでコメント欄が「てぇてぇ」で埋まったのは謎だが、取りあえず視聴者に受けたのだろう。
「では、復帰&りょーくんデビュー記念という事で明日にりょーくんの枠が取られるのですが、私の枠で質問コーナーをやりましょうか」
みるくのこの一声により、質問コーナーをする流れになった。
だが、飛んでくる質問は酷かった。
俺の何かは分からないが経験人数を聞いてくるやつだとか、初キスはいつだとか、付き合ったことはあるかなど、恋愛事情に関することばかり。
自己紹介で趣味などは言ってしまったから、質問するものが限られているのは分かるが、これはちょっと酷くないかと思ってしまう。
そんな中、みるくが一つの質問を拾った。
「お二人の出会いは何ですか?だって、りょーくん」
「出会いか、もう何か生まれた時から一緒!みたいな感じだから分かんないな」
「そうだね、これからもずっと一緒なのかな」
「まあ、一緒だろうな」
このやりとりにより後ろに居た心々音が音もなくぶっ倒れたのを知ったのは少し後の事。
「そうですね、大分お話しましたね」
「ああ、そうだな」
配信を始めて1時間程経過した。
以前、質問はマシンガンのように飛んでくるが流石にずっと話すのも疲れる。
みるくも久々の配信で少し疲れたのか汗をかいている。
「じゃあ今日はこのへんで、明日はりょーくんのデビュー配信がありますので」
「ここでもうデビューしたようなもんなのに、明日デビューか。何か面白いな」
「ふふっ、そうですね。私も明日、そちらにお邪魔しましょうかね」
「まあ、歓迎できるか分からんがな」
「そうですか、それでは皆さん今日はこの辺で。おつみる~」
「お、おつみる~」
みるくがマウスを操作して配信終了のボタンを押した。
「ぶへぇー、疲れた」
「それな、マジで疲れた」
「お二人とも、お疲れ様でした」
そう言うと心々音は、俺とみるくにコップを渡して来た。
白い湯気がほんのりと見えている、それでいて温かみを感じる。
「ホットミルクです。疲れた時には最適ですよ?」
「ありがとー!心々音ちゃん」
「サンキューな」
「いえいえ、みるくちゃんとは同期ですが涼真くんからしたら先輩ですしね」
ニヤニヤしながら心々音は俺を小馬鹿にしてきたが、俺の方が動画投稿者としての歴は断然上だ。
だが、配信に関しては心々音の方が上、見下してやろうと思ったが動画投稿と配信は全くの別物、くそっ。
「まあ、あとは明日のデビュー配信を乗り切れば何でもできますね」
「そうだな。あ、そういえばTwltterのアカウントを作ったんだが、運営の人と繋がれないしプロフィールの設定もいまいち分かんないんだが、教えてくれないか?」
「良いですよ」
心々音が「スマホを貸してください」と言うのでスマホを貸すと、ものの5分ほどで設定が完了したらしい。
Twltterを見るとプロフィール欄に【staralive所属 ストリーマー】と表示されており、DMに行くと運営の人と会話できるようになっていた。
運営とのDMを開くと「三星夏南です。今、みるくちゃんの家で配信を見ていました。RYOさんが操作に難航していたので、私が今代理で操作しています。」とやり取りをしていた。
俺も確認のため「RYOに代わりました」と運営に送って画面を閉じた。
「心々音、助かった」
「いえいえ、多分今日の夜は通知がうるさくなると思いますよ?」
「え?」
この時、俺は心々音の言葉の趣旨を理解できなかった。
読んでくださりありがとうございます。
今後の展開、難しいですね。
ですが、一人でも読んでくださる方がいるなら私はこの作品を書き続けます、完結まで。
言い切るのは良くないかもしれませんが頑張っていきます。
最後に投稿者のモチベーション維持に繋がりますので評価、ブクマの方をよろしくお願いします。