どうやら俺は女子の団結力には勝てないらしい。
心々音音痴改正計画二日目に突入した。
今日も北野のカラオケに来ている、時間は昨日と変わらず3時間コース。
心々音が7時から配信があるようなので3時間が最大とのこと。
今日も昨日と同じような方法でやってもらってるが、今のところ成長した部分は見られない。
「ああもう、全然上手くならない」
心々音は弱音を吐いているが「弱音を吐いたら上手くならん!」とみるくと俺で諭した。
諭したところで二日目は終了した。
心々音音痴改正計画三日目。
今日も今日とて同じ北野のカラオケ、同じく3時間コース。
今日は一つの曲ばかり練習するのではなく色んな曲を歌わせてみた。
すると、少しだけ光が見えた。
心々音はとにかくハイテンポな曲が苦手だ。
リズム、テンポが速くて歌詞についていけない、そして焦ってしまって歌詞があやふやになる。
その点、演歌はテンポが遅い、そのため歌詞もあやふやにならないし冷静にビブラートなどを付けることが出来る。
試しにテンポが遅い曲を歌ってもらうと、音程がズレている場所もあったがリストアップしてもらった曲と比べると天と地の差があった。
「心々音、お前の配信上でのキャラはおっとりしたキャラだ。確かにハイテンポな曲を歌えたらギャップ萌えになるかもしれない、だが今のお前じゃ無理だ」
「……でも!」
「しかし、今の曲は練習すれば披露できるレベルだ。だから、テンポの遅い曲を中心を練習していこう」
心々音自身もやる気が出たのか、表情が明るくなっていた。
両手でグーを作り「よし!」と言うと心々音は再びマイクを握った。
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「ふー、今日もいい汗かいたねー!」
「お前だけだがな」
今日も見事に歌い切った心々音だが、喉の方が気になる。
ここ三日間ほぼ毎日3時間歌いっぱなし、喉の方もそろそろ限界が近いだろう。
「心々音、確かに上手くはなったが喉も大切にしろよ?」
「もちろん!そこら辺は調べてちゃんとケアしてるから大丈夫だよ」
「そっか、なら良いや」
「それでね……」と心々音は何か言いたそうに歩いていた足を止め、体をモジモジさせ始めた。
俺とみるくが立ち止ると心々音は頭を下げて来た。
「その、私の為にここまでしてくれるなんて思って無かった……その、ありがとうね?私ね、最初誘う時遊び半分で誘ったんだけど……涼真くんも最初は乗り気じゃなかったかもしれないけど、ここまでしてくれたら何か信頼されてるんだなって思っちゃって、その何言ってるんだろ私……」
心々音はいつも通り「それじゃあ私、電車あるから!」と言い走って行ってしまった。
あと謹慎期間は一日あるが、心々音の喉を心配してこれで企画は一旦終了とした。
去り際、心々音の顔が凄く赤くなっていたのを俺とみるくは見逃さなかった。
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謹慎期間が明け、今日は復帰配信の日。
俺とみるく、そしてなぜか心々音はみるくの家に集結していた。
「なぜお前がいる」
「えーだって、同じ企業のライバーだし?」
「あざといポーズをするな」
心々音が人差し指を顎に当て、【私何もわかんなーい】みたいなポーズをしやがったので一発デコピンをお見舞いしといた。
そして、みるくはというと
「ど、ど、どうしよ……」
体全体が小刻みに震え、マウスを操作している右手は大きく震えている。
そのせいでカーソルはあっちにいったりこっちにいったりと全く操作出来ていない。
見兼ねた俺がみるくの手の上に俺の手を置き、操作手伝おうとするとうしろから「ごふっ」とまた変な声が聞こえた。
後ろを振り返ってみると心々音がまた倒れていた。
「お前、何やってんだ」
「そ、そそそそんな簡単に手を置いて操作を手伝うとか……オタクには反則級の技です」
なんなんだこいつと思っていると俺は一つ思い出した。
俺の家の電話番号を教えた犯人は誰なんだと。
てか、もう犯人は決まっているようなもの。
まず亮や学校のクラスメイトは俺たちがこんな活動をしているのを知らない、そして心々音は俺たちと同じ配信者、しかし俺の家の電話番号までは知らないはず。
となると犯人は一人しかいない。
俺が今、操作を手伝っているこの中山胡桃一人。
「おい、みるく」
「何?てか操作手伝ってくれてるの?優しいりょーくん好き」
ぐっ、この好き好き攻撃は意外に心にくる。
このまま好き好き言われたらなんでも許してしまいそうだ、だから一気に終わらせる。
「少し前にな、俺の家にFAXが届いたんだよ」
「ふぁっくす?」
「まぁ、連絡用紙みたいなのが来たのよ」
「うん」
「それって、俺の家の電話番号知ってる人しか出来ないわけよ」
「うん」
「それで、送り主がさStaraliveの運営からだったの」
「……うん」
操作を手伝っていた手が急に止まった。
みるくの体の震えはいつの間にか止まっていて、首筋を見ると汗をかいていた。
「お前、やったな?」
みるくは体をビクっとさせた後分かりやすく「ち、違うよ!」と否定した。
後ろで見ている心々音はとろけた顔のまま何も変わらない。
心々音は使い物にならないと判断し俺は畳みかける。
「そうか、やっていないのか」
「そうだよ、私何もやってないよ!」
「そっか~、いや~残念だ。せっかく運営に所属の表明をしようと思っていたのに、あれは偽物だったのか~」
「……」
「偽物なら仕方が無い、あれを送り返すのはやめるとしよう。せっかく配信に出れると思ってたのになぁ~」
「ごめんなさい、私が教えました」
みるくは観念したのか俺が握っていた手を離し、俺の方を見て土下座した。
「なんで簡単に教えたんだ」
「えっと、運営さんが教えてくれって……」
「バカか!もしそのやり取りしている運営が偽物だったらどうする!俺の家の電話番号が流出するんだぞ!」
「ひえぇ、そんなに怒んなくても……」
「怒るわ!くそ、おい心々音からも何か言ってやってくれ」
後ろでとろけた顔をしていた心々音にも喝を入れてもらおうとしたが、それは逆効果だった。
心々音はみるくの方に行き、みるくを抱くと「なんでそんなこと言うんですか!」と俺にキレて来た。
「なんでお前がそっち側に行くんだよ!」
「こんな可愛い子をイジメるなんて、涼真くんはよっぽど心が狭いんですね!」
「どうして俺が悪いことになってるんだよ!」
「みるくちゃんをイジメるからです!」
「ええ……」
女子の団結力とは怖いもので、完全に俺が不利になってしまった。
みるくは泣いた真似をして心々音に抱き着いているし、もうなんなんだこの状況。
もう、俺が折れるまでこの状況は続くようだったので早々に諦めた。
だが、勝手に漏洩させるのは良くないという事だけは知ってほしい。
「分かった、今回はお前らの勝ちだ。だが、勝手に個人情報を教えるな、せめて俺に相談してから教えろ」
「ふんだ」
「おい、分かってるのか……?」
「心々音ちゃん、りょーくんがイジメてくるよー」
「涼真くん、いい加減にしてくださいね?」
みるくは心々音の胸の中に完全に蹲っていて、心々音はそれを離さないように抱いている。
心々音の声はワントーン下がっていて、目からは殺意が見受けられた。
どうやら俺はみるくを教育することはできないらしい。
俺は諦めて、二人に「準備するぞ」と声を掛けて配信の準備を進めた。
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