最悪な休日に見た空の色(夕日×再会編)
「さあ、夕日が全部沈む前に戻らなきゃ。約束したよね?」
わたしの返事を待たずに、少年は掴んだままのわたしの右手を引きずって歩き出す。
全然、人の言うこと聞いてくれない。……むかつく。
少年に引きずられながら振り返って、さっきまで2人で眺めていた夕日を見る。
……綺麗な色。
「そんなに夕日が見たいのなら、また見に来ればいいじゃん」
わたしの方を見ないまま、少年が素っ気無く言った。
「今度は4人で、さ」
…………ほんと、むっかつく。
それに、悔しい。わたしばっかり、こいつと離れるのが嫌だって思ってるみたいで。
ほんとに、むかつく。
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少年に散々馬鹿にされてボロクソに貶されて説教されて慰められた(……んだよね? 多分。自分のことなのに、いまいち慰められたという自信がもてない……)後、わたしは少年と色々なことを話した。
何故か、正しい土下座の仕方や謝罪の仕方のレクチャーをされたけど……馬鹿にされてたのかな……。それにしては、少年の目が真剣だったけど。
とにかく、わたしと少年は夕方まで、屋上庭園にいた。
相変わらず、少年はわたしのことを馬鹿にしきった態度で、見下したような目で見てきたけど。
でも、楽しかった。あの、心底むかつくクソガキと話をするのは、本当に楽しかった。
馬鹿にされて貶されて鼻で笑われる内に、だんだん少年の態度にも慣れてきた。
……わたしは、別にマゾでもショタコンでもないわよ?!
ただ、わたしに対して遠慮なんて一切なしで、真正面から鋭く感情を叩きつけてくる彼との会話が、なんだかとても心地よく感じられただけ。
少年は、優しくない。自分の思ったままを、わたしにわかりやすいように、真っ直ぐにぶつけてくる。絶対にわたしに言い負けない。
強いなぁ、と思った。
どうやったら、こんな小さい子が、ここまで人の感情の機微に鋭くなれるんだろう。おまけに語彙も知識も豊富だし。年上の女の子に全然怯えないって、どうなの?どういう家庭環境にいるんだろう、この子。
そう思って、家族のことを尋ねてみたら、
「…………………………別に、普通だけど?」
長すぎる空白の後、あからさまに視線を逸らして答えられた。ものすごく気になったけど、怖い目で睨まれて続きは聞けなかった。あの迫力も、何なのかなぁ…。
でも、楽しい時間が過ぎるのは、あっという間だった。
やがて空が赤らんでくると、少年はケータイを取り出して、何やら物凄いスピードで指を動かしだした。お姉さんと連絡をとってるのかな、と思って見ていると、あっさりとした声で、
「もうすぐ、時間だから。俺、帰るけど?」
と言われて、思わず「え?!」と聞き返してしまった。
「え、じゃなくってさ。最初から、俺の暇潰しにデートしてね、っていう約束だっただろ?」
「え。デ、デートだったんだ、やっぱり……」
いや、明らかにデートらしいこと、全然してなかったけど。
そう思いつつ、ケータイから目を離さない少年の綺麗な横顔が寂しくて、わたしは彼になんとも言えないでいた。
まさか、口も性格も悪いけど、見た目は小学生のこいつに、「もう少しここに一緒にいて」とは言えなかった。まだ、家に帰ってお父さんたちに会う決心がついてないから、一緒にいてほしい、とも言えなかったし。
そうしたら、ふっと少年は顔を上げて、私を見て、にっこり笑った。綺麗な綺麗な、天使みたいな笑顔。わたしじゃなくても、あんなに綺麗な笑顔の子がいたら、見とれちゃうに決まってる。
「馬鹿面さらしてるお姉ちゃん。そんなに俺と離れたくないの?」
優しい声で嫌味ったらしく言われて、内心どきっとした。返事を返せないでいると、少年は「ふーん?」と呟きながら、じろじろとわたしを見つめた後、
「ま、いいよ。じゃあ、もう少しだけここにいようか。ここからだったら、夕日が綺麗に見えるしね」
そう言って、優しく笑った。
綺麗な笑顔だった。本当に、すごく優しくて、無邪気な笑顔だった。
その笑顔に、わたしの胸の奥がきゅんとなったのは、絶対に気のせい。
こんな、年下の口も性格もクソガキに、ときめいたなんて。
絶対に、気のせい。
…………そう思い込むことにした。どうせこのまま別れて、もう2度と会わないだろうし、ね。
わたしは少年と、黙って空を見つめた。さっきまで綺麗な青空だったそこは、だんだんと赤い色に塗りつぶされていく。
今日は、最悪な休日だった。
でも、今は、そうでもない。
綺麗な空を、綺麗な少年を見ながら、わたしは涙がこぼれそうになるのを、ぐっと堪えた。
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黄色、赤色、橙色。
色んな暖かい色が混ざり合ってできた綺麗な光が、わたし達を照らしていた。
「綺麗だね」
「うん……」
夕日が赤いって言うのは、嘘だ。
こんなにたくさんの色が混ざってるのに、ただ赤いだけに見えるなんて、皆、目が悪いんだ。
「夕日が全部沈む前に、帰ろうね」
「……うん」
わたしの返事に、少年は微笑んだ。
わたしの右手を握るでもなく、ただ掴んでいるだけの彼は、眩しそうに目を細めて夕日を見つめた。
あと少し。
あと少しで、奇跡みたいに楽しかったこの時間と、お別れだ。
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「……信じられない……」
あの最悪の休日から、1か月後の休日。わたしは1か月前に1人で怒って逃げ出した、例のレストランの一室にいた。
あの日、駅で少年と別れたわたしは、勇気を出してお父さんに電話した。
お父さんは、かつてないほど意気消沈した声で、電話口で一番に「真奈美、頬、大丈夫か?」と聞いてきた。少年の言ったとおり、お父さんはわたしを叩いたことを、とっても後悔していた。
そして、驚いたことに、お父さんと十河母子が、すぐに駅にわたしを迎えに来た。3人とも、店を飛び出していったわたしのことを、ものすごく心配していたらしい。
そして……、わたしを出迎えたお父さんと十河圭太は、なんと、既に十河由里から鉄拳制裁を食らっていたのだ。
お父さんの右頬は真っ赤に腫れ上がっていて、せっかくのかっこいい顔が台無しだったし、圭太は拳骨を食らって頭に小さなたんこぶを作っていた。わたしが店を飛び出した直後、わたしのことを叩いてしまったせいで呆然としていたお父さんを、十河由里が「女の子の顔をぶつなんて、何事ですか!」と言って左ストレートを決めて吹っ飛ばした後、圭太に「女の子の頭に水をかけるなんて、あんた何やってるのよ!」と拳骨を食らわせたらしい。
十河由里は、大人しそうな外見からは全然想像できない、びっくりするほどパワフルな女性だった。そして、わたしよりも、ずっとずっと大人で、「母親」だった。
わたしはほとんど土下座しながら、泣きながら3人に謝ったんだけど、十河由里はわたしの拙い謝罪の言葉を、最後まで真摯に聞いてくれた。
そして、
「ちゃんと謝ってくれて、ありがとう」
そう言って、わたしのことを優しく抱きしめてくれた。ぽんぽんと背中をあやすように撫でながら、「すぐにじゃなくていいのよ」と言った。
「私のことも、圭太のことも、すぐに受け入れてくれなくていいの。これから、少しずつ会って、ゆっくり決めてくれたらいいのよ。真奈美ちゃんが、私たちと家族になってもいいかどうか。私は彩加さんから真奈美ちゃんを取ろうなんて思ってないから、真奈美ちゃんが私のことを母親だと思うのが無理なら、別にいいのよ。でも、今すぐに全部を決めないで欲しいの。私も圭太も、真奈美ちゃんとは、今日初めて会ったばかりでしょう? 色々な話をして、もっと仲良くなりたいの」
優しい声に、わたしは頷いた。十河由里は、優しかった。わたしが混乱しないように、とても配慮してくれた。物凄く失礼なことを言ったわたしを、笑って許してくれた。
その日は、晩ご飯を4人で一緒に食べて、わたしは十河由里とケータイのメアドと電話番号を交換して別れた。ちょっとずつでいいから、彼女のことを知りたいと思ったから。
――――そして、一か月経った、今日。
「ごめんね、真奈美ちゃん。黙ってて」
わたしの正面の席に座って、本当に申し訳なさそうに、わたしに謝る十河由里。今は、わたしは彼女のことを由里さんって呼んでるんだけど、わたしは由里さんの方を見ずに、ひたすら彼女の隣の席に座っている、綺麗な綺麗な美少年を凝視していた。
わたしの隣の席に座っている圭太はきょとんとした顔で、美少年とわたしの顔を交互に見つめている。
「純と真奈美姉ちゃん、知り合いなの?」
「まあね」
心底不思議そうな顔の圭太に、「ジュン」と圭太に呼ばれた美少年はニヤリとして答えた。
………………ほんっとうに、信じらんない!!!
あの日から、わたしは由里さんと毎日電話やメールで話をした。圭太とも。
圭太は最初に会ったときに、わたしが由里さんのことを散々貶したから、初めはわたしと会話するのも嫌そうにしていたけど、ちゃんと謝ったら、少しずつ打ち解けてくれた。最初は頭の悪そうなガキだと思った圭太だけど、話してみると、年相応ですごく可愛い子だった。ちょっと恥ずかしそうに、でも嬉しそうにわたしのことを「真奈美姉ちゃん」って呼ぶのが、たまらなく可愛い。お互い一人っ子で、兄弟に憧れていたから、わたしも圭太のことがすぐに好きになった。最近では、「真奈美姉ちゃん、今度、一緒に遊ぼ?」なんて可愛いことを、もじもじしながら言ってくる。もう、本当に、圭太は可愛い子だった。
そんな、素直で可愛い圭太を、彼の父親は密かに虐待していたらしい。
圭太がまだ2歳くらいの時のことだったそうで、本人はあんまり覚えてないみたいだから、圭太にだけは内緒にしてね、と由里さんはわたしに言った。
由里さんは現在、とある警備会社に勤めていて、SPのような仕事をしているそうだ。会社の社長さんとか、そういう偉い人を、さりげなく悪者から守る仕事だって言ってた。
彼女がわたしのお父さんと初めて会ったのも、お父さんが残業で帰宅が夜中になってしまった帰り道に、柄の悪い男数人に囲まれて殴られそうになっていたところを、たまたま通りかかった由里さんが助けたのが始まりだったそうだ。人は見かけによらないっていうか……次々と男たちを華麗に投げ飛ばす由里さんに、お父さんはすっかり魅了されてしまったらしい。道理で、由里さんに殴られたお父さんの右頬が物凄く腫れ上がっていたわけだ……。女の人でも、最近は、強い人は強いものね。
それで、由里さんは仕事の関係上、当時、長期出張中だったそうだ。でも、圭太のことが心配だったから、彼女は同僚に頼んで、早めに家に帰ってきた。そこで由里さんが見たのは、父親に食事をろくに与えられず、放置されてぐったりとしていた圭太だった。
由里さんの夫は当時、運悪く勤め先が倒産してしまって、求職中だったそうだ。でも、自分が面倒を見るから大丈夫だと言って、由里さんを出張に行かせた。近所でも評判のいい、子煩悩なお父さんだったそうだ。――表向きは。
本当は、男で夫である自分より、女で妻のくせに稼ぎのいい由里さんが、憎くて仕方がなかったそうだ。そして、その由里さんに懐いている圭太も、同じくらい憎かったんだって。
信じられない、と思った。そういうの、テレビのニュースの中でしか、知らなかったから。でも、その日以外にも、その男は圭太を密かに怒鳴りつけたり、わざと食事を減らしたりしていたらしい。
由里さんは、それが原因で離婚したそうだ。すぐに圭太の状況に気づいてあげられなかった自分を責めて、一時期自殺にまで追い込まれたけれど、職場の同僚の人たちの励ましで、なんとか立ち直ったらしい。
由里さんは結局、夫のことを、警察には通報しなかった。一応、会社の社長と懇意にしている病院に圭太を入院させて、それで夫を警察に突き出そうとはしたらしい。でも、できなかったんだそうだ。
なんでかっていうと、由里さん、本気で怒って、夫を「ぐちゃぐちゃ」にしてしまったらしい。警察に通報したら、逆に由里さんが捕まる!って会社の同僚の人たちが止めて、ついでにその後自殺未遂に走った由里さんを必死に押さえ込みつつ、夫を強制入院。全治6ヶ月だったそうだ。
そういう、本当なら隠しておきたい過去を、由里さんはわたしに教えてくれた。あ、うん、「ぐちゃぐちゃ」の具体的な部分はあえて詳しくは聞かなかったわ。怖いから。でも、圭太を傷つけた奴だから、むしろ当然の制裁よ!
わたしも、由里さんに色々な話をした。そして、あの休日にあった、顔はいいけど口と性格の悪い少年の話をした後、由里さんは奇妙な沈黙の後、わたしにある提案をしてきた。
お父さん抜きで、由里さんと、圭太と一緒に、昼ごはんを食べない?って。
わたしは勿論、即OKしたんだけど。
……だけど、ね?
「お姉ちゃん、あんまり睨まないでくれる?」
な・ん・で、こいつがここにいるのよ?!
もう、絶対に、2度と会わないって思ってたのに!! その、「お姉ちゃん」の嫌味ったらしい、人を見下したイントネーション、やめてってば!!
わたしがあんまり怖い顔をしていたせいか、圭太が怯えたようにわたしの服の袖をひっぱって、「どうしたの?」と心配そうに聞いてきた。
可愛い。圭太は可愛い。そりゃ、顔の造りはわたしの目の前にいるクソガキの方が断然いいけど、圭太だって、結構整った顔立ちをしてるし、何より素直でいい子だ。ちょっと乱暴な言葉遣いも、クソガキよりは全然まし。年相応で、可愛いものよ。
ああ、天使っていうのは、圭太にこそ似合う言葉よね。
間違っても、この目の前の、ニヤニヤとわたしを見て笑っているクソガキに似合う言葉じゃないわ!!
「純、『お姉ちゃん』って……?」
「ああ。名前で呼ぶのが面倒くさかったから、そう呼んでただけ。気にしなくっていいよ」
「ふうん……」
なかなか答えないわたしに、圭太はクソガキの方を向いて話をし始めた。わたしは由里さんに視線を走らせて、低い声で聞いた。
「一体、どういうことですか? なんで、このクソガキが、ここに」
「クソガキって。相変わらず口が悪いなぁ、ま・な・み・ちゃん」
「なっ!!」
心の底からむかつく言い方で、クソガキがわたしに言った。真っ赤になって奴を睨むと、由里さんが溜息まじりに、「とりあえず、お話はご飯を食べながらね」と言った。うう……、一体、どうなってんのよ……。
圭太はクソガキとゲームや学校の話をしながら、もぐもぐと料理を食べている。わたしも料理を口に運びつつ、由里さんを睨んだ。
「で、どういうことなんですか?」
「……うーん。なんていうか…。彼、木崎純君って言うんだけど。私と部署はちょっと違うんだけど、同じ会社に勤めている方の息子さんで、圭太と同級生なの」
なるほど。こいつ、「キザキ ジュン」って名前なのね。うん、似合ってるかも。どんな漢字をあてるのかは、わからないけど。
……じゃなくって。
「圭太と同級生なのは、見てたらわかるわ。そうじゃなくて、どうしてこいつがここにいるの?」
「えーっと。あのね、ひと月前の、あの日。本当なら、私たちは真奈美ちゃんと隆司さんと、お昼ご飯だけ一緒に食べて、すぐにお別れする予定だったのよ」
「……うん」
「なんでお昼だけだったかっていうと、私が次の仕事でちょっとお世話になる臨時協力員さんがいるんだけど、その人と打ち合わせをしなくちゃいけなかったからなの」
「……うん?」
「で、その臨時協力員さんっていうのが、彼」
そう言って、由里さんはパスタを優雅に食べているクソガキ……じゃなくて、「ジュン」を示した。
「…………は?」
いや、そいつ、小学生でしょ?
ぽかんとしている私に顔を寄せて、ごく小さな声で、由里さんは言った。
「あのね。純君と半日一緒に過ごした真奈美ちゃんなら分かると思うけど、彼、年の割にすごく成熟してるし賢いでしょ?」
「う、うん……。それは、そうだけど……」
「それだけじゃないの。純君、コンピューター関係、物凄く強いのよ。詳しくは言えないけど、その……『コンピューター語』が完璧って感じなの。難しいプログラムをあっという間に構築しちゃうし、逆に物凄く厚いセキュリティを、簡単にすり抜けたり、破ったりできるの」
「へ……?」
「だから純君は、非公式の、うちの会社の臨時協力員さんなの。……それでね、彼がひと月前のあの日、真奈美ちゃんに会ったのは偶然らしいんだけど。真奈美ちゃんの独り言を聞いて、それが私と圭太に関係あることだってわかったみたい」
「は……?」
「真奈美ちゃんと接触した後、すぐに私の仕事用の携帯に純君からメールで連絡が入ったわ。彼とは駅で会う約束をしてたから。簡単に事情を説明したら、純君が、真奈美ちゃんは今、すごく混乱してて情緒不安定だから、自分が落ち着くまで一緒にいるって」
「え?」
「それから、一定時間ごとに純君から連絡がきたの。今、ご飯を一緒に食べてる。真奈美ちゃんは食欲はあるよ、よかったね、とか。今、屋上庭園で一緒にいるよ、真奈美ちゃんはもう落ち着いたし、叩かれた頬の腫れもひいてるよ、とかね」
「………」
あの日、「ジュン」が度々メールを打っていたのは、そういうことだったの……。
わたしは呆然として、由里さんを見た。
正直、まだ頭が話に追いついてこないけど、「ジュン」がとんでもなく凄い子だっていうのは分かった。
「黙ってて、本当にごめんなさい。でも、純君に口止めされていたから」
そう言って、本当に申し訳なさそうに、由里さんはわたしに謝った。
う、うん……。えっと、こういう場合、わたしは怒ったらいいのかしら。でも、「ジュン」のおかげで、わたしはちゃんとお父さんたちに謝れて、今、ここにこうしているわけで。
……一応、「ジュン」に感謝……はしてるから、怒る気はない。でも、なんていうか、なんていうか……。
わたしは、ちらっと「ジュン」を見る。圭太と楽しそうに話している彼は、無邪気で可愛らしい。
……なんで、口止めしておいて、今更会う必要があったわけ? 今日、この日に。
すると、わたしの心の声が聞こえたかのように、「ジュン」はわたしの方を見て、そうしてにっこり笑って言った。
「圭があんまり、毎日毎日『真奈美姉ちゃん』と『隆司父さん』の自慢ばっかりしてくるからさ。血みどろの殴り合いばっかりしてる、うちの馬鹿親父と破天荒姉ちゃんの荒みきった父と娘の関係改善のための参考に、真奈美ちゃんに会いに来たんだよ」
「……はぁあ?! 何よ、それ! 意味わかんないのよ、あんた!」
「はは、真奈美ちゃんは理解能力低いからねー」
「なっ、ば、馬鹿にしないで!」
何よ、その血みどろの殴り合いって!意味わかんない!!
ぎゃんぎゃん怒鳴るわたしと、思いっきり馬鹿にした調子で笑って受け流す「ジュン」との会話に、圭太がむっとした顔で口を挟んだ。
「純、真奈美姉ちゃんを馬鹿にすんなよ!」
「け、圭太……」
「ジュン」からわたしを庇う圭太にきゅんとした。か、可愛いなぁ!
「ごめんよー、圭。……………そのにやけた気持ち悪い顔なんとかしろよ、変態ブラコン女」
「ジュン」は爽やかに圭太に謝った後、わたしにだけ聞こえる小さな声で、わたしにそう言った。ちらっと一瞬だけ視線を向けた奴の目が、「気持ち悪いんだよ、お前」とわたしに向かって言っていた。思いっきり、遥か高みからわたしを見下して、馬鹿にしていた。
…………こ、こいつ、ほんっとにむかつく!! あのときちょっとときめいた自分、消えて!! あれは何かの間違いよ! 圭太の方が、断然可愛い!!
ギリギリと真っ赤な顔で「ジュン」を睨むわたし、何食わぬ顔で圭太と会話する「ジュン」、「ジュン」の性格の悪さに気がつかないで笑顔の圭太、そしてこの3人を見て苦笑する由里さん。
この関係が、この日の3ヵ月後、わたしとお父さん、そして由里さんと圭太が新しい家族になった後も続いていくことを、このときのわたしは、まだ、知らなかった。
児童虐待は絶対にいけません。あしからず。
「クソガキ」と「むかつく」をえらい大量に使用した話でした。はぁ…。
自分の立ち位置を見つめなおした女の子と、口の悪い少年の話でした。どっちも口が悪くて性格が捻くれてますね。真奈美はこれから圭太の純真さによって、少しは更生されるかと思われますが。
木崎家の3兄弟、これで出揃いました!
※簡易人物紹介
木崎純:木崎家三男。8歳、小3。口が達者で人の感情を読むのが得意な、嫌な子ども。機械関係、大好き。
遠野真奈美:遠野家長女。16歳、高1。自己中ワガママ甘えんぼ。圭太が可愛い。ファザコンのマザコン。その内、由里コンにもなるか? そして、ブラコン予備軍。
遠野隆司:遠野家の大黒柱。40歳、会社員。イケメンで仕事が出来る、会社で一番人気の貴公子さま。娘ラブ。
遠野彩加:故人。隆司の妻で真奈美の母。享年35歳。美しく、優しい母で、良き妻でした。
十河由里:十河家の大黒柱。39歳、警備会社勤務。合気道が得意。強くて優しい女性。
十河圭太:十河家長男。9歳、小3。かっこいいお父さんと、綺麗なお姉ちゃんがもうすぐできるよ。癒し系。