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最悪な休日に見た空の色(昼食×強制編)

「お姉ちゃん、よく食べるねぇ……」


 心底呆れたような、感心したような微妙な声に、わたしはむっとしながら3個目のハンバーガーに手を伸ばした。

 仕方ないでしょ、お腹すいてるんだから。走るのも泣くのも、結構体力使うんだからね。「あー、見てて胸焼けする……」と気持ち悪そうに言う少年は無視して、2箱目のナゲットの箱も片手でこじ開ける。


 結局あの後、わたしは急に笑顔になった美少年に引っぱられて、人がごった返すフードコートに連れて行かれた。そして当然のように昼ご飯(某全国チェーンのハンバーガーショップのサラダセット)を奢らされ、現在、タイミングよく空いた席に2人で向かい合って座っている。


 この、顔は綺麗な癖にクソ生意気で偉そうな少年は、なんのつもりだか知らないけど、わたしの呼び方を「あんた」から「お姉ちゃん」に変えてからというもの、蕩けるような可愛い笑顔を振りまいている。

 そりゃ、こんな可愛い子に「お姉ちゃん」とか言われたら嬉しいけど?店員さんとか、周りの客がうっとりしてるのを見るのは気持ちいいけど? …………こいつ、明らかにわたしのことを見下して、馬鹿にしている。

 信じらんない、ほんと! 「お姉ちゃん」って言うときのイントネーション! ものすっごい嫌味に聞こえる!! 「あんた」の方がまだマシだった!!


「お姉ちゃん、ちゃんと噛んでる? 飲み込むの、早くない?」

「…………」

「それにしても、いくらあんだけ巨大な腹の虫鳴らしたからって、バーガー4個にナゲット2箱、ポテトLサイズ2個はないと思うなぁ。一応、自分が女だっていう自覚ある? 若いからって惰性で食べてると、太るよ?」

「…………」

「まぁ、お姉ちゃん、今でも神経は十分図太そうだから、別に体がぶくぶく太っても困らないか。あー、むしろ、そっちの方がお似合い?」

「…………」


 むかつく。

 

 むかつく、むかつく、マジむかつくこのクソガキ!!!

  

 何で天使みたいな可愛い笑顔で、そんな悪意と嫌味たっぷりな声で失礼なことが言えんの?! 女の子に対して太るとか、むしろそっちの方がお似合いとか、普通言う?! 大体、こいつちょっと中身が成熟しすぎじゃない?! こいつの言い方、ちょっとおかしいし!

 なんていうか、このくらいの年頃の少年が同級生の女の子に対して言う「ブス」とか「太るよ」とか、そういうときの言い方じゃない。明らかに自分より格下の人間に対するような、冷たくて軽蔑した言い方だ。幼いがゆえの悪意、とかそういうんじゃない。冷静に考えた上で、本気でわたしのことを馬鹿にしてるって感じの言い方。

 …………学校の担任とか、生徒指導の教師とかの言い方と同じだ。


「……あんた、一体何考えてんのよ」

「んー?」


 最後のハンバーガーの包みを開けながら、目の前で足をブラブラ揺らしつつケータイを弄っている少年に声をかける。相変わらず、キーを打つ手がめちゃくちゃ早い。……さっきから、何打ってんだろ。


「別に、お姉ちゃんには関係ないよ」

 またもわたしの心の中を読んだかのような返事をして、少年はケータイをハーフパンツのポケットの中にしまった。な、なんなのこの子……ほんとに心の中、読んでんの?

「……なんか馬鹿なこと考えてるみたいだけど、一応否定しとくよ? お姉ちゃん、顔に考えてること出すぎ」

「なっ……」

 鼻で笑って言われてしまった。…………むっかつくなぁ!!


「あのねぇっ」

「俺は別に、何にも考えてないけど?」

 …………やっぱり心の中、読んでるんじゃないの?


「さっきも言ったじゃん。友達と約束してたのが潰れちゃって暇なんだって」

「じゃ、じゃあ、一緒に来たお姉さん達と遊んでもらえばいいじゃない。彼氏と一緒にいるって言ったって、あんたみたいな小さい子をこんな人ごみに1人でほっぽっておくなんて、ほんとは心配してる筈よ?」

 ここぞとばかりに「あんたみたいな小さい子」って部分にたっぷりと嫌味を込めて言ってみたけど、それはあっさり流されて、

「無理だね」

 真顔で断言された。


「む、無理って……」

「和兄ちゃん……彼氏の方はともかく、俺の姉ちゃんにそんな思いやりの心があるはずがないだろ?久しぶりにこっちに帰ってきて、朝から晩まで大好きな彼氏といちゃつけるんだから、実の弟のことなんか気にするわけないじゃん」

「は……」

「今朝だって、一緒に行くって言ったら殺されそうな目で睨まれたし。もうすぐ日本を発つから、時間いっぱい彼氏を独占したいんだよ。女の嫉妬ってほんっと、怖いしみっともないよねぇ。俺だって別に一緒に来る気はなかったけど、彼氏の方が俺を誘ってくれたの知ってさ、すっごい拗ねてんの。バカだよねぇ」

「え、ええっと……お姉さんと仲、悪いの?」

 わたしの問いかけに、少年はきょとんとした顔をして、

「別に、普通に仲良いけど?」

 と言った。え、ええ~? あんたの今の言い方、明らかにお姉さんと仲悪いでしょ!


「わっかんないかなぁ。俺の姉ちゃんの話だよ?」

「そうだけど……」

「だーかーらぁ。俺の、姉ちゃんだよ?」

「………………」


 この、顔はずば抜けていいけどクソ生意気で口の悪い少年の、姉。


「……なんとなく、わかったかも……」

 きっと、顔は綺麗だけど、こいつと同じくらい性格が悪いんだ。


「うん。まぁ、大体合ってると思うけど、別に姉ちゃんは性格は悪くないよ?ただ、ちょっと頭のネジが100本くらいぶっ飛んでるとこがあるから」

「やばすぎじゃないの、それ」

 どんな姉よ。


 今いちよくわからないまま、わたしはバーガーを食べ終えて、ナゲットの残りを摘んだ。少年が「うわ、ほんとに全部食べる気だ……」とうんざりしたように呟いたけど、無視。うるさいな、わたしのお金で買ったんだから、別にいいでしょ!


「まぁ、そういうことだから、夕方まで俺とデートね、お姉ちゃん」

 にっこり笑った少年の神々しいまでの可愛らしさに、思わず頷きかけてギリギリで踏みとどまる。……あ、危ない……っ。

「デ、デートって、あんた何バカなこと言ってんの?!」

「うるさいよー、お姉ちゃん。食べ物を口の中に入れたまま話すのはマナー違反。きったねぇの」

「……っ!!」

 む、むかつくー!!いちいちむかつきすぎるんだけど、こいつ!!

 でも、確かに少年の言うとおりだったから、必死に口の中のナゲットを咀嚼して飲み込んだ。うー、全然味わえなかった!


「だってさぁ、お姉ちゃん、どうせ暇だろ?」

「べ、別に暇じゃないわよっ」

「嘘つき」

 すっと目を細めて少年はわたしを見た。うっ、とわたしは思わず怯む。この子、ほんとに何者?エレベーターの方にひっぱって行かれたときもだけど、偶に物凄く怖い目をする。


「なんか、髪とかうっすら濡れてるし。誰かに水でもかけられた? それに左頬、ちょっと赤くなってるよ。叩かれたの?」

「っ!!」

「目もちょっと充血してるなぁ。もしかしなくても、泣いたんだろ?」

 

 な……なんなの、こいつ。

 なんで、そんなことがわかるのよ?!


「あー、図星? やっぱりね」

 わたしの強張った顔をみて、少年は嬉しそうに笑った。何がそんなに面白いのよ、こいつ……!!

 また、急激に目の前の少年への怒りが再燃してきて、顔が熱くなる。ぎりぎりと両手を強く握り締めて、大声で怒鳴りつけたくなるのをなんとか耐えた。


「あんたねぇっ……」

「じゃ、そろそろ行こっか?」


 にっこり笑って、少年は椅子から立ち上がった。そして、わたしの中途半端に開いたままの口の中に、残りのナゲット3つをまとめて突っ込んできた。

 な、なにすんのよ!!


「ほ、ひょっよ、はひゃひゅふひょよ!!」

「ははっ、ごめん何言ってんのか全然わかんない」

 変な顔ー、と指をさしてけたけた笑う少年を、口の中に詰まったナゲットをほっぺたを目一杯膨らませて咀嚼しながら睨みつける。

 こ、こいつはっ……! いちいちわたしの怒るタイミングをずらすように行動して……!!


 あまりの悔しさに薄っすらと涙まで滲んできたわたしに、少年は憎たらしい、それはそれは綺麗な笑顔を向けてきた。


「ちょうどいいじゃん。俺は今日の予定が潰れて暇、お姉ちゃんも一緒にいた人に水かけられて叩かれて大泣きして暇。で、お昼ごはんもお姉ちゃんに奢ってもらったことだし、お礼にデートしてあげる」

「ひゃふひっへひゅひょよ?」

「その馬鹿面さっさとどうにかしなよ。すごい間抜けに見えるよ? 

 ――だからさぁ、俺が話を聞いてあげるよって言ってんだよ」

「ひょ……」

「ひょ、じゃなくって」


 にこにこと綺麗に笑いながら、わたしを思いっきり馬鹿にして見下した態度と声で、少年は言った。


「お姉ちゃんが水かけられて叩かれて大泣きした、その原因と過程を聞いて励ましてあげるから、俺とおいでって言ってるの」


 ぜ、絶対に嫌っ!! 馬鹿にする気満々じゃないの、このクソガキが!!


 ……という抗議の言葉を言う前に、少年に無理矢理、食べ終わった残骸の載ったトレイを持たされて背中を押されて歩き出した、口の中もごもご状態のわたし。

 

 きょ、拒否権なし?! せめて口の中のナゲット、全部食べ終わるまで待ってよ!!


 そう内心で叫びながら、わたしはまたしても、ずるずると少年に引きずられていったのだった。



 当初は、4話構成でした。

 …………無理!! 終わらん!!

 なので、中途半端ですが、前半部分を。

 もう少し、小生意気で口の悪い二人にお付き合いください。

 

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