世界の音
プルルルルル、ガチャ
「お待たせしました。担当の成田と申します。」……
俺はいつも通りテンプレでクレーム対応をする。
(相変わらずめんどくさいなぁ)
そんなことを思いつつ電話対応を済ませて休憩に入る。
「おう!どーしたよ、浮かない顔して!」
同僚の宮本が話しかけてくる。
「この仕事、結構きついなーって」
おそらく電話対応を生業としている人たちが一度は感じたことがあるだろう。しかし、実家暮らしの俺には家族に少しでも貢献する義務がある。やめることはできない。
仕事が終わり帰路に着く。
(うるさいなぁ。)
夕方の街は嫌いだ。特に帰宅ラッシュのこの時間帯は車が多すぎる。俺は人も車も少ない道を選んで帰る。周りの人が自分のことをどんな顔で見ようが俺には関係ないが、自分のせいで不快に思う人がいると思うと表通りを歩けない。
家に着くと母が出迎えてくれる。この年にもなって母の出迎えとは、と思うこともあるが実際とてもありがたい。我ながら良くも悪くも年齢に似つかない精神を持ってるなぁと思う。
一服しようとくしゃくしゃになったタバコの箱に手をかける。
(あれ、入ってないや)
コンビニまで買いに行こうと家を出る。
カツンカツン
夜の街は好きだ。車も人も少ない。
「おっしゃ!次、いくぞ!」
酔った男の声が聞こえる。
ピッポ、ピッポ、
信号の音が聞こえる。通りを挟んだコンビニに入ると視界が少し白くなる。
(明るいな)
俺はレジに直行し
「12番で」
よく知りもしないタバコの番号を述べる。
「420円です」
その声はとても綺麗な女声だった。
「カードでお願いします」
俺は決済を済ませて家に帰る。帰宅中、いつもは意識する信号の音も意識の外に弾かれるくらい店員の声が頭にこびりついて離れない。
(危ない、危ない)
庭で一服して家に入る。
「あんた、どこに行ってたの!」
年甲斐もなく母に叱られる。
「ちょっと、コンビニ」
「コンビニくらい、妹に頼みなさいよ!」
「いや、タバコだし...」
流石に未成年の妹には頼めない。そして、頼み癖は付けたくない。
「おいおい、若ぇのにタバコかぁ?やめとけ、やめとけ」
父さんにも叱られる。
「いいだろ!別に。」
「おにーちゃん、くさーい」
「風呂、入ってくる...」
流石に高校生の妹に臭いと言われて無視はできない。食事を終えて風呂に入る。
風呂では一日の出来事に思いを馳せる。
俺はこの生活や家族が大好きだ。
仕事がどれだけしんどくても、家族といると暖かい雰囲気が俺を包んでくれる。
もっとも家族の顔は見ることはできないが...
世界の音〜完〜
※後書きにはネタバレが含まれています
はじめまして、にことけと申します。この度は数ある作品の中から見つけていただきありがとうございます。これが僕の処女作なので、展開や登場人物のやり取りなど拙いとこはご容赦ください笑
さて、最後まで読んだ方は分かったと思いますが、今回書いたお話は目が見えない成田という男の日常を描いています。読み返していただけると分かりますが、ちょこちょこ目の見えない感を出させていただきました。カツンカツンという杖の音だったり、信号の音を意識の外に弾いてしまったことに対して危ないという反応だったり、いろいろ匂わせを意識しました。本当ならキーワードを多数つけて検索にかかり易くしたいという算段まであったのですがネタバレになり作品の楽しみ方が減るのではないかと思い「目」や「盲目」などのキーワードは入れませんでした。ただの日常作品に見えますが、読んでいただいた方には感謝してもしきれません。
作品については、世界の音というタイトルに因んで擬音を多用しました。これはダサい文章にならないように意識するのが大変でしたね。壮大なタイトルの割には小さな話かもしれませんがこれは成田の世界を表しています。彼の世界はあまり広くありません。そんなことを考えているとタイトルの割には話が小さくなりました笑
このお話を読んで、「成田は目が見えないのに仕事はできるのか」や「成田は目が見えないのに買い物は一人でできるのか」など疑問が浮かんだと思います。できるだけ現実に即したお話にしたかった為、目が見えない方の取材記事やブログ等を参考にさせて戴きました。そこで知ったのが「目が見えないにはたくさんの意味ある」ということです。例えば視野が狭いとか、光が取り込めないとかですね。その度合いも様々だそうです。成田は光が取り込みにくいといったところです。
まず仕事の方ですが、その疑問を解消するためにコールセンターに成田を就職させました。調べてわかったのですが、目の見えない方でもマッサージ師やコールセンターなどしっかり就職できるそうです。音声入力を使ってプログラミングをする方までいるそうです!すごいですね。
そして、買い物に一人で行く方も多いそうです!商品にめちゃめちゃ寄って凝視している人がいたら見えにくいのかもしれません。そんなわけで成田はあのコンビニの12番のタバコ以外吸いません。彼のことですから違う銘柄は冒険できないのでしょう。54番とか言って54番ないんですけどって言われたら恥ずかしいから若い番号のやつ買ったとか買わなかったとか笑
長くなりましたがここまで付き合ってくれた方、本当にありがとうございます。
またいつか別のお話で会える日を待っていてください!