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4(知っていたのね)

 講師は申し出を断る。助手は非常識なオブジェを持ち出す。講師は顔色も変えず、オブジェを眺め、スイッチを入れ、電気を流す。

 講師は常識を説く。「君は担がれたんだ」

「なら、このお腹の違和感は何?」

 講師の瞳に、哀れみの色。助手は胸を締めつけられる。羞恥で消えてしまいたい。

 三日経って、ヤブ医者から保安官事務所に伝言が届く。「おいで」お待ちしているわ。

 助手は逃げたい。消えた保安官の行方を、誰にも話せない。

 ヤブ医者の診療所に保安官がいる。全身の毛を剃られ、灰青色のかさかさの肌に、白く走るつぎはぎの痕。淀んだ瞳に沈んだ自我。つまりそれは何か。保安官の姿をした何か。

「使えない部位は交換しておいたよ」ヤブ医者は足下に積まれた樹脂塊(アンバーブロック)をサンダルの先で小突き、「新古品でも、文句はないよね」保安官に良く似たデクノボーを指で小突く。「それでも、どうにも足りないけどね」

 医療廃棄物専用樹脂で固められたぐちゃぐちゃの子供たち。1フィート角の琥珀の塊。助手の直感──ガラス素子を取り除き、お払い箱にされた。

 水槽メアリは溶液の中。たぷんと揺れても、誰も気がつかない。

「最初のピース、持ってきた?」

 初恋相手を訪れた後、粉砕機(ディスポーザー)に突っ込んだ。

「まぁ、いいや。コックとナッツの予備はある。彼、結婚してる? よしよし、パール入りをお値段据置の大サービスだ」

 そして助手に向き直り、「あとはキミだね」

 助手は下腹部の違和感に呻く。疼きとも痛みとも違う、何か。

「横になって。足を開いて。お腹の中身、掻き出してあげる」

 学校に、亜生物管理局、来訪。ミスター・グッドとミスター・バッド。二人の捜査官。後者は腕を組んだまま、口を真一文字に結んでる。生物担当の〝講師〟キットは、前者の捜査官に助言を求められる。

 先の深夜、湾岸倉庫で火災あり。コンテナの中から多数の子供の焼死体。性別不明(ビリケン)。性器が存在していない。「儀式的なものではないようです」管理局のミスター・〝グッド〟捜査官が云う。「ウチの者によると、除去をされていたようで」

〝講師〟キットは困惑する。「性別のない子供(キューピー)でなく?」

「性別を消した子供ですね」

「それはわたしの専門外です」

 ああ、そうですか。お邪魔した。捜査官が立ち上がる。ジャケットの襟を正しながら、折り目正しく、礼を云う。お忙しいところ、お邪魔しました。

 いいえ。〝聖人〟キットは如才なく答える。お役に立てなくて残念です。

 ええ、まったく。

〝聖人〟キットは聞き流す。

 ああ、ところで。捜査官は帰り際に一言。先生、少しばかりお時間頂けますか。

 講師は市民の義務を果たす。しかし、知らないものは知らない。知っていることも口にしない。

「これは尋問ではありません」

 ええ、そうですね。

「任意です」

 ええ、そうですね。

「ご協力、感謝します」

 ええ、もちろんです。

 ああ、ところで。「弁護士は?」

〝聖人〟キットは首を横に振る。

「ありがとう」

 彼らは、何に感謝をしているのか。〝聖人〟キットは帰れない。もう暫くと、足止めされる。〝聖人〟キットは出されたコーヒーを飲む。美味しくないが、することがない。〝聖人〟キットは、格子の嵌った窓を見る。曇りガラスが夕陽を通す。古い知人が訪れた。「知っていたのね」

 保安官助手がなじる。「偽りの〝聖人〟」

 吐き捨てられた言葉。彼の心は傷つかない。誰かが勝手に云い出しただけ。自分はただの非常勤講師。講師だった。これまでは。

 話は急速に転がり出す。

 逮捕。拘留。尋問。起訴は免れ、しかし辞職。そして離婚。親権の放棄と、接近の禁止。

「冷たい人ね」元妻の捨て台詞。車の窓越しに、悲しげな目をした息子の姿。走り去る。

 ミスター・バッドが冷たく云う。「お前たち人狼は全員去勢されるべきだ」

 キットは静かにバッド・マンを見返す。「今の言葉を人狼委員会に報告します」

 ミスター・グッドが引き離す。「申し訳ない。同僚に代わって謝罪します」グッド・マンが頭を下げる。「どうか、ご容赦を。不適切です。許されるものではない。上司に報告し、しかるべき処分を──、」

「わたしは、彼に謝ってもらいたい」〝人狼〟キットは遮って、ミスター・バッドを平坦に見据える。ミスター・バッドは素直に詫びる。

〝聖人〟キットは受け入れる。しかし世間は彼とは真逆の対応。

 鼻摘みの〝罪人〟キットは爪弾き。〝凡人〟キットは安堵する。〝流転〟キットは、家を売る。

 移った小さな戸建ての家。暗くなって幼なじみが訪ねてくる。警察官のケヴィン・(ルー)。失業中のカンジ・ムラカミ。

 三人は、玄関先のポーチに座って、会話の代わりにビールを飲む。ちびちびと瓶から飲む。今を憂うこともない。昔を懐かしむこともない。未来を思って嘆くこともない。

「ぼくは避妊している」キットは穏やかに口を切る。

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