3(女の子の部屋)
ひとり、またひとりと、子供たちは息を吐く。身体を震わせ、のそりのそりと動き出す。琥珀の中から抜けて出る。手足に絡むハチミツ色の糸。ぽたりぽたりと床に滴る。
少女は微笑む。「動作試験、正常」
〝野良〟鬼が改造牛追棒で子供たちを叩く。閃光。青い稲光が走る。追われた家畜がコンテナから転び出る。
少年少女が保安官を見る。溶けた琥珀が靴にべったり。保安官は呆然と突っ立ったまま。
「さぁどうぞ」少女は闇に溶け消える。「鬼ごっこのはじまりよ」声が闇にこだまする。
性別のない子供たちは、夜の街へと去って行く。
保安官は荷物の受取人を探る。たらい回しの末、行き着く〝地下〟診療所。保安官は〝闇医者〟に行き当たる。無線。「保護した子供が殺されました」助手から保安官へ。
「どこにいるんです、ジョー?」助手は懇願する。保安官は無視を決め込む。無線の電源を切る指の、爪の間に乾いた血。
「これでいいんだな?」保安官が確認する。
「ああ。そうだね」ヤブ医者が微笑む。保安官も微笑む。そして、首筋に、ニードルの冷たい感触。ずぶりと深く突き刺さる。ぶつりと脊髄が断ち切られる。正確無比な診療所の〝助手〟。電機仕掛けのメカアーム。サーボモータとオイルシリンダー。四方八方から保安官を搦め捕る。ヤブ医者は手を洗う。保安官はヤブ医者の手に落ちる。ヤブ医者は愛用のメスに手を伸ばす。
うすのろバーニー、死んじゃった。
ちょっと勿体なかったな、とそっと思う。
保安官助手は街を流し、見つけたのは歯抜けのチンピラ。勘が疼く。チンピラを伸縮警棒で打擲。チンピラが嘔吐く。助手は吐き気を堪え、再び打擲。チンピラが倒れる。血の混じった唾液が滴る。
「保安官はどこ?」助手は腹を蹴りつける。何度も/何度も。「保安官はどこ!?」
チンピラが呻く。助手が蹴る。答えはもう目の前。助手は蹴る。チンピラは盛大に吐く。
暗転。
明転。
清潔なシーツのにおい。ベッドの上。助手は起き上がる。水色のカーテンが揺れ、女が顔をのぞかせる。「おはよ」
「誰?」
「さぁて、誰かな」女は戯ける。「皆からはヤブ医者って呼ばれてる」
白衣の女は白い歯を見せ、「名医にならなくても、カネ稼ぎは出来るってね」邪気無く微笑む。
女は椅子を持ち出し、ゆったり座る。困惑する助手に構うことなく、黒いストッキングに包まれた長い足を悠然と組む。つっかけサンダルを揺らしながら、〝ヤブ医者〟は口を開く。
保安官は細切れだ。
二〇人がとこ、子供たちが持っている。街のあちらこちらに散っている。子供たちは逃げている。ひとり10ポンドの肉塊を持って。
提案:全部集められたのなら、繋いであげよう。
助手は吐き気をこらえる。邪気に当てられ、息が苦しい。
「最初の欠片よ」
真っ赤なリボン。二枚の穴あきフランジを、アルミ棒で上下に繋いだ円形ケース。チューブと電極に繋がれ、ワイヤで固定された男性器。
「仕掛けはガルヴァーニ電流。スイッチを押すと」痙攣・勃起。「電気仕掛けのコックさん」エリコは笑う。
「ハイ、ご安全に」
オフ・萎縮/沈降。
オン・痙攣/勃起。
ジェーンは吐く。制服を汚す。
「君のお腹の中に、脳幹、つまり〝ワニの脳〟を入れた──大丈夫、処女膜には触れていない。でも、困ったら」スイッチ・オン。痙攣・勃起。「これとファックするといい」スイッチ・オフ。萎縮・沈降。「天啓がひらめくかもしれない。試してみる価値はあると思うよ」
手渡された一欠片。助手はきつく目を瞑る。
「排泄時は注意し給え。変な力み方をすると、〝女の子の部屋〟からつるりと出るぞ?」
細切れの生命維持は、バッテリー次第。ヤブ医者はわざとらしく手首に埋めた時計を見て、「最短48時間。長くても60時間が限度」立ち上がって、手を叩く。「急げ、急げ」
助手はタオルで被った保安官の一部を車の助手席に置き、ベルトを締める。ハンドルにもたれ、続く吐き気と下腹部の違和感を押さえつける努力をする。郡及び周辺自治区へ至急報。
おかしなものを持った少年(或いは少女)の保護または確保あるいは、遺体の持ち物を探すように。少年(或いは少女)は、おそらく性器に細工がされている。
助手は、保安官に負けず劣らず、手も足も出ない。時間だけが無為に過ぎる。
連絡:個人回線。ケヴィン〝巡査〟は警察学校の同期。「おい、ジェーン。お前の妙な注文、取り消されたぞ」
「なんですって?」
「上からの圧力」ケヴィンは端的に答える。「新治だ。新治の娘」
「連絡先、分かる?」
巡査は直通を教えてくれる。情報の出所は訊ねない。「ありがとう」
「細切れの保安官?」新治キララは小首を傾げる。「知らないわ」
助手は無力感に苛まれる。やっと掴んだ細い糸。ぷつりと切れて垂れ下がる。
ハイスクール時代のジェーン、初恋は実らない。助手は講師を訪ね、懇願する。
「わたしにファックのやり方、教えて」




