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トオル07

 お腹が空いた。

 さっきからぐうぐうと、僕のお腹の虫は鳴きっぱなしである。


「ぅう……。アテが外れたなぁ……」


 この村にやって来た頃のことを思い出す。もう十日ほど前になるだろうか。あのときはお気楽に、お肉なんかにあり付ければいいなぁ、なんて考えていたのだ。

 なのにこの現実はなんだろう? 来る日も来る日も、過酷な農作業の繰り返し。配給される食事も質素に過ぎる。お湯でふやかしたご飯に、クズ野菜のスープってなんなんだよ!


「うぬぬ……。やってられるかー!」


 近くにあるらしい城塞都市のほうに行ってみようか? いやいや、この黒髪と黒瞳だ。捕まって投獄されてしまうかもしれない。下手をすれば魔女裁判で火炙りなんてことも……。


(ひぃぃ……!?)


 想像するだに恐ろしい。都市にいくのはやめておこう。

 いっそ国境を越えて、魔国というところに行こうか? でも現状では、あまりに情報が少なすぎる。魔国がもしここより酷かったら……。

 この村にいれば、最悪でも殺されることはなさそうだし、しばらくは現状維持に努めよう。森に戻ってもいいんだけど、現地人との接点はもっていたいしね。


 ……ぐう。


 またお腹が鳴った。ひもじい。なにか、お腹にたまるものが食べたい。

 食生活に関しては、森にいた頃のほうがまだましだった。あそこなら川魚が食べられる。


「あ、そうだ」


 ちょっと森までひとっ飛びして、魚を食べてこようかな? いまは早朝からの農作業も終えて、お昼の休憩中。午後の作業開始まで、まだ少し時間がある。コロナがやって来る前に、パパッと食べて戻ってこよう。

 思い立ったら即行動である。僕は自分用にあてがわれた、簡素な作りのあばら家を出て、キョロキョロと辺りを伺う。……大丈夫。誰もいないみたいだ。


「ドラゴン、ウィーング!」


 バッと竜翼を広げて、天高く舞い上がった。純白の翼が陽光をキラキラと反射する。やっぱり大空を自由に飛び回るのは、気持ちがいい。


「目指すは大森林! いっくぞー!」


 ビュンと風を切って加速した。




 沢についた僕は、膝まで水に浸かっていた。


「ドラゴンイヤー!」


 気配を殺す。竜化した僕の耳は、どんな些細な物音も聞き漏らさない。

 水がほんのわずかに跳ねた。


「……そこっ!」


 サッと手を払う。水面をさらうように、腕を振り抜く。


「ぃよし! お魚ゲットー!」


 鮎をひと回り大きくしたような川魚が、手のひらに収まっていた。ピチピチと跳ねている。僕に掛かれば、この程度朝飯前なのである。

 沢から上がって、獲ったばかりの獲物の調理準備をする。鉤爪でうろこを削いで、内臓を掻き出し、口から尾にかけて小枝をぷすり。


「じゃあ、さっそく! ……すぅぅぅ」


 大きく息を吸い込んだ。加減をしながら息を吹き出すと、ごうっと音を立てて口から炎が吹き出される。


「……ふぅぅぅ!(……ドラゴンブレスゥゥ!)」


 まるで火炎放射器である。

 火力に注意して、魚を丸焼きにしていく。息を吹き終えると、ほかほかの鮎(?)の丸焼きが出来上がった。じゅうじゅうと鳴る音が食欲をそそる。


「うへへ……。いっただっきまーす!」


 大口を開けてかぶりついた。パリッと皮がなる。この食感が堪らない。染み出た脂が口いっぱいに広がって、空腹感も相まってなんとも言えない幸せな気分になる。


「ん!? うまーい! 最っ高!」


 これであとはお塩があれば完璧だ。

 今度、村の貯蔵庫から、くすねておこうかなぁ?




 都合3匹もの鮎(っぽい魚)を食べた僕は、ルンルン気分で大空を舞い、帰路についていた。

 狩りと食事は手早くすませた。

 コロナが午後の農作業を急かしてくるまで、まだ少しだけ余裕があるはずだ。


「ふぅ、満腹満腹! なんだか眠くなっちゃうなぁ」


 久しぶりに味わう満腹感。あくびを噛み殺しながら、のんびりと空を舞う。

 遠くに村が見えてきた。ドラゴンアイで確認するも、僕のあばら家の周りに人影はない。


「ぃよし。いまのうちに戻るとしますかー」


 家のまえに降り立って、手早く玄関を開ける。さっと中に入るとコロナが待っていた。


「やっと帰ってきた! せっかく話でもと思ったのに。ちょっとあんた! どこに行ってたのよ! もう午後の……作業の……時……間……」

「あ、あはは! ごめんごめん。ちょっと散歩してたんだよ!」


 危なかった。

 空を飛んでいるところは、見られなかったよね? 内心、冷や汗を拭う。


「い、いやぁ! さ、散歩は気持ちいいよねぇ!」

「あ、あんた……それ……」

「そうそう。午後の作業の時間だっけ? まだ少し時間があると思ってたよ。ごめんなさい、すぐに用意するからね!」


 誤魔化すように早口で捲したてる。彼女がキョトンとした表情で、僕を指差してきた。


「あんた……それ……。羽……生えてる……」

「……はえ?」


 指摘をされて背中をみる。そこには、しまい忘れたドラゴンウィングが生えていた。

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