トオル06
村人たちに捕らえられた僕は、なんとか誤解を解くことに成功していた。
そしていまは農作業に勤しんでいる。着替えもゲットしてようやく変態スタイルを卒業。見事僕は、村人へと進化していた。
……ごめんなさい。
自分に嘘つきました。村人というよりは奴隷に近いです……。
彼らに捕まった僕は、王国(?)とやらに突き出されそうになった。なんでも村から半日ほど歩いたところに、その王国に属する城塞都市があるのだそうだ。そこに突き出されたら最後、魔女は殺されてしまうだろう。彼らはそう言って僕を脅かしてきた。
『そ、そんなのあんまりだ……!』
間違いで殺されては堪らない。僕は必死で彼らに訴えた。
『ちょ、ちょっと待ってください! 僕は魔女なんかじゃないですってば! 話を聞いてください! 大体、男じゃないですか、僕は! 見ればわかるでしょ!』
彼らも最初は取り合ってくれなかった。けれども、何度も何度も繰り返し訴えているうちに、僕の話に耳を傾けてくれるようになった。
『魔女じゃない……。僕は魔女なんかじゃないんですよぉ……。うぅぅ……信じてくださいよぉ……。あぁんまぁりだぁぁぁ……』
『……なぁ村長。こんなのが魔国の魔女なのか? 言う通り男だしよ』
『お、男でも、魔女の手下の魔人かもしれんが……。う、うぅむ……』
実際のところは、まぁこんな感じである。そうして結局、僕は解放された。
一応ながら魔女疑惑が晴れたとはいえ、僕は彼らにとって相当怪しく見えたようだ。監視役がおかれることになった。いまはその子の指導の下で、過酷な農作業に従事させられている。
「ほら、あんた! 休んでないできりきり働く!」
言葉の鞭で僕を急かしてくるこの子は、コロナ。村長の娘である。
歳は見た感じ僕と同じか、少し上くらい。でも村人たちは西欧風の顔立ちだし、地球で西欧人が少し老けて見えるのと同じなら、もしかするとコロナは僕より年下なのかもしれない。
「手を止めないの! こっちの刈り入れが済んでないわよ!」
「ひぇぇ……。ちょっと休ませてくれよぉ」
「さっき休んだばかりでしょ! さぁさぁ、働く働く!」
とは言っても、さっきから働いているのは僕だけだ。この娘はなんにもしていない。きっと体良く自分の仕事を、押し付けてきているんだろう。
(おのれ……。僕は奴隷じゃないんだぞ!)
思っても口に出す勇気はない。だから僕は、心のなかだけで毒づいた。
日が傾いてきた。ようやく今日の農作業は終了だ。
「はぁ……。疲れたー」
ぺたりと座り込む。これは肉体的な疲れというよりも、どちらかといえば精神的な疲れだ。こき使われたはずなのに、なぜか体はあまり疲れていない。もしや竜になったことが、なにか関係しているのだろうか。
「情けないわねぇ、あんた」
コロナがため息を吐いた。
というか、なんだその態度は。自分は仕事を全部僕に押し付けて、楽をしていたくせに!
「あんた、そんな黒髪黒瞳の見た目じゃ行くあてなんてないでしょ? 村に置いてもらえることに感謝して、がんばって働きなさいよ?」
そう、それだ。その見た目の話が気になっていたのだ。
彼女に尋ねてみようか。
「見た目って、この髪と瞳のことですよね? そんなに珍しいんですか、黒いの?」
彼女がきょとんとする。
「……そんなことも知らないの? あんた魔国から逃げてきた、逃亡奴隷か何かなんでしょう? ここは王国と魔国の、ちょうど国境あたりの村だし」
村人たちの間では、僕はそういう存在と判断されたのか。というか魔国ってなんだろ? よくわからないけど、口裏を合わせることにする。
「黒髪黒瞳なんて、魔女くらいしか聞いたことないわよ。有名じゃない。王国の宿敵、魔国オイネを統べる呪われし『黒の魔女』」
そんな怖そうなのがいるのか。
「……あんた、ほんとに魔女の手下じゃないんでしょうね」
コロナが疑ぐりの目を向けてきた。
「ち、違うよ! 僕はただの……」
「ただの……なに?」
「ただの……営業マンです……」
「はぁ? わけわかんないこと言わないでよね」
彼女は怪訝そうに眉をひそめた。立ち上がってお尻をはたく。
「まぁ、こんなのが魔人なわけないわよね。……とにかくあんた。魔国に追い返すか、王国に突き出すかされたくなければ、これからもしっかり働くのよ!」
コロナが立ち去っていく。
彼女の後ろ姿が見えなくなるまで見送ったあとで、僕は盛大にため息を吐き出した。
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