表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/40

セルベシア08

「レーベンブロイ隊は最前線で防御陣を構築!」


 黄金色の鎧を纏った騎士たちが、慌ただしく駆け回っている。


「グロールシュ隊とヒューガルデン隊は後詰だ! 陣に崩壊の兆しが見えたら即座に交代しろ!」


 彼らはペルエール王国が誇る黄金騎士団。王都の防衛を任とする金色騎士たちだ。

 黄金騎士団の陣頭指揮は、副団長のキルケニーが執っていた。団長が王族近衛についていて、この場にはいない為だ。


「救護班はわきに控えておけ! 怪我をしたものはすぐに下がるんだ! 誰一人として命を落とすことは罷りならないぞ!」


 キルケニーのやつも声を張り上げていた。こいつとは長い付き合いになる。だが普段飄々とした彼が、こうも厳しい表情をしているのは、私も初めてみる。


「早く動け! もうすぐやって来るぞ!」


 状況は切迫していた。

 早打ちの騎竜にて、魔国最前線の城塞都市より受けた知らせ。

 息を弾ませて私の元に駆け込んできた竜騎士は、こう報じた。


『滅びの黒竜現る。城塞都市突破されり。被害は甚大なり』


 その凶報は王都を震撼させた。


 突如として現れた黒竜は、その進路を王都へと向けているらしい。

 いま王都には主力軍たる聖銀騎士団がいない。間の悪いことに、鋼鉄騎士団の鉄騎士たちを打ち破った、シャハリオン元辺境伯軍の制圧に向かってしまったからだ。

 城塞都市の聖銀騎士団も当てにはできない。黒竜の通ったあとに、魔国の大軍勢が侵攻をはじめたのだ。都市の聖騎士たちは、その対処に手一杯との話である。


「……タイミングが、符号しすぎるな」


 シャハリオンの台頭。黒竜の出現。魔国の進軍。

 作為的なものを感じてしまうが、それを考えるのは迫る危機を脱してからである。


「セルベシア団長! 王竜騎士団、全団員配置につきました!」


 報告をあげてきた配下に、神妙に頷く。


「わかった。以降、私が命を下すまで待機だ」

「はっ!」


 王竜騎士団と黄金騎士団は、共同して王都手前のこの平原で防衛ラインを構築している。

 黄金騎士団、五千。王竜騎士団、八百。

 総勢五千八百からなる騎士と騎竜と歩兵、傭兵の混成部隊が、竜を阻むべく待機していた。


 ここは最終防衛ラインである。

 突破されれば、もう王都を守る盾は残されていない……。




「やぁセルベシア。大変なことになったね……」

「……ああ」


 キルケニーのやつが歩み寄ってきた。


「まさか『災厄の黒き竜』が、本当に現れるなんてさ」

「……聖教会の竜伝承か?」

「そう、それそれ。……まったく、こんなことならもっと真面目に、宣教師の話を聞いておくんだったよ」


 とはいえ伝承を聞いたからと言って、どうこうなる事柄ではないだろう。軽口で緊張を解そうとしているのか。だがその軽い口調とは裏腹に、キルケニーの頬には汗が伝っていた。


「……でもさ、セルベシア」

「なんだ?」

「『災厄の黒き竜』が本当に現れたんならさ。『救いの御手たる白き竜』も現れてはくれないのかな?」


 白き竜……。真っ先に思い浮かぶのは、彼だ。

 別れの時にみた屈託のない眩しい笑顔が、脳裏を掠める。


「……でも伝承なんかを当てにしちゃダメだよな。王都は、俺たちの手で守り抜くんだ」


 きっとこいつにも、守りたいものがあるのだろう。


「……そうだな」


 トールはいま、どうしているだろうか。こんなところで決して私は、命を落とすわけにはいかない。

 いつかまた……。私は彼と、そう約束したのだから。




 ――……憎む。余は、王国を憎む……!――


 なんだ、今の声は。

 周りの騎士たちも、ざわついている。どうやら私だけに聞こえたのではないらしい。


「こ、黒竜です! 黒竜が現れましたッ!」


 その竜は悠然と現れた。周囲に破壊を振りまきながら、ゆっくりと飛んでくる。

 騎士団に緊張が走る。

 漆黒の竜はその身に、闇と光を同時に纏わせていた。暴風、地割れ、焦熱、氷結……。それらが渾然一体となって、辺り一帯を崩壊させていく。


「防衛ライン! まもなく接触します!」


 配下の竜騎士たちを見回す。団の全員が、覚悟を決めた顔で見返してきた。


「……王竜騎士団、参る! 勇猛果敢な竜騎士たちよ! 私に続けえええええッ?」

「おおおおおおおおおおおおおおおッ?」


 ビリビリと大気を震わせる雄叫びをあがる。

 私は皆を率いて黒竜へと突撃を開始した。




 飛び交う巨大な雹を躱し、襲いくる猛火を剣で引き裂きながら、私は黒竜へ攻撃を仕掛ける。

 だが振るった刃も、嗾けた騎竜の蹴りも、分厚い黒竜の竜鱗に阻まれ、衝撃をその身に通すことが叶わない。纏う闇が竜の身を護り、眩ゆい光が目を眩ませてくる。


「くそ……! 化け物め……!」


 黒竜の体高は、人間の十倍ほどもの大きさだ。地上では黄金騎士団も奮闘しているが、その圧倒的な質量を前に、苦戦を強いられている。


 ――滅びを……! 王国に滅びを……!――


 飛び交う人竜に向けて、黒竜が業火を飛ばした。竜騎士たちは辛くもそれを回避するも、的にされた何騎かは翼を焼かれて墜落していく。


「弓隊! 魔術師隊! 一斉射撃だ……放て!」


 キルケニーの号令と共に、地表から矢と魔法が放たれた。大部分は届く前に暴風に阻まれるも、いくつかの魔法が黒竜へと着弾し、矢が鏃を突き立てる。


「グルゥオオオオオオオオオオッ!!」


 竜が咆哮する。

 有効なダメージを与えられているとは思えないが、騎士たちの奮戦により、少なくとも竜の侵攻を食い止めることは叶っている。


「……いける! このまま押し返すぞ!」


 気勢を上げて突撃する。しかしそのとき黒竜に変化が起きた。喉元が赤熱し始めたのだ。

 なにかが――来る!


「退避ぃいい! 総員、退避するんだぁああ!」


 地上でも異変を悟った騎士たちが、回避行動を取り始めた。だがもう間に合わない。


「グルァアアアアアアアアアアッ!!」


 ブレスが放たれた。

 熾烈な破壊のエネルギーが地表へと着弾する。轟音がとどろき、大地震でも起きたかのように大地が揺れた。もうもうと立ち上った土煙が晴れていく。


「……な……んだ、……と……?」


 空から見下ろす。

 ブレスが着弾した箇所から先に向けて、大地が抉れたかのようにひび割れていた。直撃した場所は、クレーターのように大きく陥没している。

 地表の黄金騎士団は……半壊していた。


8時、12時、15時、18時、21時、0時の、一日6回更新になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ