表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/40

イネディット01

 竜騎士どもとの小競り合いを終えて、余は国境から、ちょうど国へと戻ってきていた。

 宮殿への道すがら、上空より国を眺める。枯れた大地に痩せ細った民たち。彼らには笑顔が絶えて久しい。その貧しい暮らしぶりに、胸が痛くなる。

 民の不幸はすべて、余の力が及ばぬがゆえ……。己の不甲斐なさを恥じる。


(……いずれ……必ず……!)


 彼らの働くさまを眺めながら、余は新たな決意を胸に固めた。




 宮殿へと帰ってきた。

 余の帰還を認めた老人が、ホッと息を吐いて近寄ってくる。真っ白な頭で、顎には髭をたくわえた老人だ。


「無事のお戻り、なによりでございますじゃ」

「……少し出ていただけであろう」


 この男は、幼い頃よりの余の世話係だ。そして、女王たる余への助言機関である、元老院の一員でもある。


「して陛下。やはり、件の人間は『迷い人』でしたかな?」

「……わからん。見つける前に邪魔が入った」

「はて? 邪魔、でございますか?」

「ああ。憎き王国の、竜騎士どもだ……」


 昨日、国境警備を担う兵より知らせが届いた。『王国側国境付近の村にて、我ら黒髪黒瞳の娘を目撃せり』との報だ。

 知らせを受けた余は、その娘を保護すべく単身村まで足を運んだ。だが王国の竜騎士に邪魔をされて、こうして空振りに終わったという訳である。腹立たしいことだ。


「まったく……。いつもながら陛下は、無茶が過ぎますぞ。人ひとりの保護であれば、斥候隊にでも命じればよろしいものを」

「……そなたも知っておろう。かの国では黒髪黒瞳の人間は、魔の者として裁かれるのだぞ? 悠長なことは言っておられぬ。余が出向くのが、一番はやい」


 爺はまだ反論を続けている。


「そうは申されましても、女王たる陛下御自ら――」


 相変わらず小言が多いやつ。

 余はもうその言葉には耳を傾けず、意識の外に追い出してしまうことにした。




 この世界には、稀に黒髪黒瞳の人間が現れる。その者らは迷い人と、先祖返りに大別される。

 ここ解放国家オイネの建国者で、最初の女王たる『開祖オイネ』も、黒髪黒瞳の迷い人だったそうだ。

 『迷い人』とは、彼方の世界より此方の世界へと迷い込んできた者をいう。

 そして迷い人は世界を渡る際に、例外なく不思議な力を授かるのだ。開祖オイネの場合は、黒竜へと変じる力を授かったと伝え聞く。


 一方の『先祖返り』は、その名の通り、迷い人への先祖返りである。

 この世界に居着いた迷い人も、当然子を成す。その多くは茶や金の髪、緑や青の瞳といった普通の容姿で生まれてくるのだが、稀に黒髪黒瞳で生まれてくる子がいる。その者らは迷い人の先祖返りとして、何かしらの強い力を授かって生まれてくるのである。

 そして余は、開祖オイネの先祖返りだ。余が授かった力は、6つの魔力球の創造である。


「では陛下。『望郷の鏡』は、仕舞っておいてよろしいですかな?」

「……なんの話だ?」


 爺が深くため息を吐く。


「陛下が飛び出すときに、申し置いていかれたでしょう? 『迷い人であれば、送り返すやもしれぬ。鏡を用意しておけ』と……」

「……そうだったか?」


 どうだろう? そうだったかもしれないが、一々そのような些事は覚えておられぬ。

 爺は再びため息を吐いた。

 さっきよりも、深く長い吐息。なんとも、これ見よがしなことである。


「それよりも余は、自室に戻る。少し疲れた故、火急の用以外は、誰も通すな」

「畏まりました。……しかし珍しいですな? 陛下がお疲れになったなどと申されますとは」

「ああ……。久しぶりに、手応えのある戦いをしたからな」


 あの竜騎士……。たしか名をセルベシア・ウェストマールと言ったか。

 余の巻き起こす暴風にも、飛び交う業火にも怯まず、勇猛果敢に剣を打ち込んできた、若き女竜騎士を思い出す。


「……まぁ、あの真っ直ぐな瞳は、余も好むところではあった」

「なにか申されましたかな?」

「…………なんでもない」


 手酷い傷を負わせてやったことを思い出す。だがあの者が、あれで死んだとは到底思えん。


(……生きていれば、また相見えることもあろう)


 余は考えることをやめ、自室に戻って、ベッドに身を投げ出した。


8時、12時、15時、18時、21時、0時の、一日6回更新になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ