トオル15
数日が経過した。
彼女の体調も、順調に回復してきている。ワイバーンと揃って食欲も旺盛だ。
ここ最近の僕は、熱心に彼女の世話を続けていた。
僕は毎日、彼女のために、魚を捕まえてくる。そうすると彼女は、もともと持っていたナイフで、器用にそれを調理して食べる。なんでも戦場料理は、騎士の嗜みなのだそうだ。
作った料理を、僕にも食べさせてくれた。味付けは塩が効いて豪快だったけど、なかなか美味しかった。
お風呂も沸かした。岩のバスタブをそのまんま持ち上げて、沢までひとっ飛び。戻ってきてブレスで温めてから、彼女に入浴を勧める。すると彼女は、ひと言礼を言ってお風呂に入る。その間に僕は、木ノ実なんかを探しにいくのだ。
彼女に悪いし、入浴を覗いたりはしない。木ノ実を集めて戻ってきたときに、彼女がまだお風呂から上がっていなければ、チラッと横目で視界に収めるだけである。だからいつも木ノ実集めはスピード勝負。速さが肝心なのだ。
そんな日が続いた、ある日のこと。
「……ぐるぃ?(……どうしたんですか?)」
僕は彼女が、騎士の鎧を身に纏っていることに気付いた。
「……世話になったな」
「……ぎゅるぅ!? ぐ、ぐるぁ!?(……え!? で、出て行くつもり!?)」
どうしてそんな急に!? まだ体調だって、完全には戻っていないのに!
「王国に……、戻ろうと思う」
「ぐ、ぐらぁ! ぐるぇ!?(だ、だめですよ! 第一、どうやって帰るつもりなんだよ!?」
ハービストンだって、まだ回復しきっていない。とてもじゃないけど、彼女を乗せて空を飛べるような状態じゃない。
「ぎゅるり……!(ちゃんと回復するまで……!)」
「聞いてくれ、白竜よ」
彼女が僕を見上げた。とつとつと語り始める。
「……ここには元々、人間が住んでいたのであろう? それも私が意識を取り戻す、ほんの少し前までだ」
彼女の言葉に耳を傾ける。
たしかに言う通りだ。ここには『僕』という、人間がずっと住んでいる。
「きっとその家の主が、私の傷を手当てし、あの食事を用意してくれたのだろう?」
コクコクと頷く。
「だから私はその者に礼を言おうと、ずっと待っていた。……けれども、待てども待てども、家の主は現れない」
いや、ずっといるんですけどね。いまもほら、貴方の目の前に。
「……恐らくかの者は、私の前に姿を現せられぬ理由があるのだ。それゆえに私がいる間は、家に戻って来られない」
「……ぐるぇ?(……はぇ?)」
だ、だからずっといるんだけど。なんか勘違いしちゃってるような……。
「私は、恩人の負担になるわけにはいかぬ。……故に今日、ここを去ることに決めた。そこを退いてくれ、白竜よ!」
「ぎゅりぅ! ぎらぁ!(待って! それ、勘違いだからぁ!)」
なんとか彼女を宥める。すると彼女は不承不承ながら、あと一晩だけ、泊まっていくことにしてくれた。
僕は全力で考えを巡らせる。ど、どうしよう……。
このままでは、彼女が出て行ってしまう。またひとりに、戻ってしまう。
(そ、そんなのは、いやだ!)
被りを振ると、ピコンと閃いた。要は人間がいればいいんだよな、……人間が。こういうことを頼めそうな相手に、ひとり心当たりがある。
思い立ったら、即実行。
僕は翼をはためかせて、村に向かってすっ飛んでいった。
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