表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/40

トオル15

 数日が経過した。

 彼女の体調も、順調に回復してきている。ワイバーンと揃って食欲も旺盛だ。

 ここ最近の僕は、熱心に彼女の世話を続けていた。


 僕は毎日、彼女のために、魚を捕まえてくる。そうすると彼女は、もともと持っていたナイフで、器用にそれを調理して食べる。なんでも戦場料理は、騎士の嗜みなのだそうだ。

 作った料理を、僕にも食べさせてくれた。味付けは塩が効いて豪快だったけど、なかなか美味しかった。

 お風呂も沸かした。岩のバスタブをそのまんま持ち上げて、沢までひとっ飛び。戻ってきてブレスで温めてから、彼女に入浴を勧める。すると彼女は、ひと言礼を言ってお風呂に入る。その間に僕は、木ノ実なんかを探しにいくのだ。


 彼女に悪いし、入浴を覗いたりはしない。木ノ実を集めて戻ってきたときに、彼女がまだお風呂から上がっていなければ、チラッと横目で視界に収めるだけである。だからいつも木ノ実集めはスピード勝負。速さが肝心なのだ。




 そんな日が続いた、ある日のこと。


「……ぐるぃ?(……どうしたんですか?)」


 僕は彼女が、騎士の鎧を身に纏っていることに気付いた。


「……世話になったな」

「……ぎゅるぅ!? ぐ、ぐるぁ!?(……え!? で、出て行くつもり!?)」


 どうしてそんな急に!? まだ体調だって、完全には戻っていないのに!


「王国に……、戻ろうと思う」

「ぐ、ぐらぁ! ぐるぇ!?(だ、だめですよ! 第一、どうやって帰るつもりなんだよ!?」


 ハービストンだって、まだ回復しきっていない。とてもじゃないけど、彼女を乗せて空を飛べるような状態じゃない。


「ぎゅるり……!(ちゃんと回復するまで……!)」

「聞いてくれ、白竜よ」


 彼女が僕を見上げた。とつとつと語り始める。


「……ここには元々、人間が住んでいたのであろう? それも私が意識を取り戻す、ほんの少し前までだ」


 彼女の言葉に耳を傾ける。

 たしかに言う通りだ。ここには『僕』という、人間がずっと住んでいる。


「きっとその家の主が、私の傷を手当てし、あの食事を用意してくれたのだろう?」


 コクコクと頷く。


「だから私はその者に礼を言おうと、ずっと待っていた。……けれども、待てども待てども、家の主は現れない」


 いや、ずっといるんですけどね。いまもほら、貴方の目の前に。


「……恐らくかの者は、私の前に姿を現せられぬ理由があるのだ。それゆえに私がいる間は、家に戻って来られない」

「……ぐるぇ?(……はぇ?)」


 だ、だからずっといるんだけど。なんか勘違いしちゃってるような……。


「私は、恩人の負担になるわけにはいかぬ。……故に今日、ここを去ることに決めた。そこを退いてくれ、白竜よ!」

「ぎゅりぅ! ぎらぁ!(待って! それ、勘違いだからぁ!)」


 なんとか彼女を宥める。すると彼女は不承不承ながら、あと一晩だけ、泊まっていくことにしてくれた。

 僕は全力で考えを巡らせる。ど、どうしよう……。

 このままでは、彼女が出て行ってしまう。またひとりに、戻ってしまう。


(そ、そんなのは、いやだ!)


 被りを振ると、ピコンと閃いた。要は人間がいればいいんだよな、……人間が。こういうことを頼めそうな相手に、ひとり心当たりがある。

 思い立ったら、即実行。

 僕は翼をはためかせて、村に向かってすっ飛んでいった。


8時、12時、15時、18時、21時、0時の、一日6回更新になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ