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トオル11

 意識を失った女のひとを、大樹のうろの家まで運んできた。

 ベッドに寝かせて様子をみる。その女性は「はぁ、はぁ」と荒い息をしたままだ。


「ど、どうしよう……」


 額に手を当てると、凄い熱だった。これ、大丈夫なんだろうか。

 慣れない状況におろおろしてしまう。


「ど、どうすれば……。あ、そうだ」


 たしか、このひとの荷物があったよね。あのバッグのなかに、薬はないかな?

 外に出る。そこには彼女と一緒に連れてきた、傷付いたワイバーンがいた。背中に装着された鞍には、彼女の荷物と思わしきバッグが取り付けられている。


「うーん。薬はないなぁ……」


 ガサゴソと漁ってみるけれども、バッグには簡単な携帯食料と、手拭いくらいしか入っていなかった。


「ギュァ……」


 竜が僕を見て、弱々しく鳴いた。彼女のこともそうだけど、この竜のことも介抱してあげないと。


「ちょっと待っててね」


 家の貯蔵庫から数匹、取り置きしていた魚を持ってくる。


「ほら。お食べ」

「ギュァア!」


 ワイバーンは凄い勢いで与えた魚を食べ始めた。大きな口には不釣り合いなほど小さな川魚を、パクッと咥えては丸のみにしていく。


「ギュァ、ギュァア!」


 これは『もっと頂戴』と、催促されているのかな? 多分そうだよね。


「ごめん。もうないんだよ。でもあとで、たくさん獲ってきてあげるから!」


 こっちも酷い怪我だけど、これだけ食欲があるならきっと大丈夫だろう。竜の生命力に感心してしまう。


「ともかくいまは、あの女のひとだよな……」


 看病のためベッドに戻った。




 金髪の女性は豪奢な鎧を着込んでいた。でも脇の隙間から、血の跡がみえる。これは怪我をしているに違いない。発熱はそこからくるものだろうか。


「傷口を清潔にしなきゃ」


 化膿したり、破傷風にでなったら目も当てられない。ちゃっちゃと傷を手当てしてしまおう。


「ちょーっと、失礼しますよぉー」


 触れた肩は、筋肉質だけど柔らかい。引き締まった細い体を、そっとひっくり返した。

 なんとか鎧を脱がせようと試みる。でもこれって、どうやって脱がせればいいんだろう。あれこれ試行錯誤してみると、カチャッと音が鳴って、蝶番が外れた。

 ようやく鎧を脱がせることが出来た。みればインナーシャツには血が沁み込んでいる。どうしよう……。


「こ、これも脱がせたほうがいいよなぁ」


 シャツに手を掛けた。これは治療である。決して変質的行為では決してない。自分にそう言い聞かせながら脱がせていく。

 固まった血が肌に貼りついて、ベリベリとなった。

 痛そうだ。思わず僕のほうが顔を顰めてしまう。


「…………ぅ、……ぅう」


 うぇ!?


「あ、ごご、ごめんなさい!」


 もしかして気が付いた!? シャツを思い切り引き上げつつも、反射的に謝ってしまう。


「……はぁ、……はぁ」


 なんだ。呻き声をあげただけか。

 一瞬、目を覚ましたのかと思って焦ってしまった。


「……って、これはぁ……っ!? はわぁ!?」


 シャツの下から出てきたのは、豊満な肢体だった。白くてしなやかな肉体に、玉のような汗が浮きでてくる。女性らしい丸みを残したその体は、だが相反するように引き締まっていて、どこか野性の獣を思わせる。

 女のひとが苦しそうに息をするたびに、大きくて艶やかな乳房が上下した。


「う、うわわわ……」


 見ちゃ悪いと思いながらも、胸から目が離せない。新雪のような肌に覆われた双丘にぽつりと咲いた、薄桃色の突起が、僕の目を釘付けにする。


「……はっ!? な、なにをしてるんだ僕は!?」


 傷口を綺麗にするためにシャツを脱がしたんじゃないか。これじゃあまるで変質者だ。鼻の下を伸ばしていないで、しっかりしないと!

 彼女のバッグから拝借した手拭いで、汗を拭き取っていく。凝固した血をお湯でぬぐった。


「う、うわぁ……。な、なんだか……。なんというか……」


 柔らかい。ドキドキしてしまう。僕の心臓が、破裂しそうなくらい激しく脈打っている。


「なんて綺麗な、体なんだろう……」


 透き通るみたいにきめ細やかで滑らかな肌を見つめていると、頬が自然と赤くなってしまう。端正な顔に目を移す。整った眉が歪んでいる。苦し気ではあるけど、いくら眺めていても飽きない美しさである。

 ……とはいえやはり、一番目を引くのは胸だ。これはもう、男の性だ。


「ちょ、ちょっとだけ……」


 自然と手が伸びる。胸のうえに、手のひらを置いてみた。


「ふわぁあ……ッ!?」


 熱い。こりっとした硬さのある先端に触れたかと思うと、ふにゅっと沈み込む。女のひとの心臓がどくどくしているのが、手のひらを通じて伝わってきた。


「……こ、これはぁ……っ。あ、もうだめ……」


 頭がくらくらしてきた。荒い呼吸を繰り返す彼女から目を離す。

 僕は知らぬ間に流れ出していた鼻血を、袖で拭った。




 ひと晩が明けた。今日も天気のよい朝である。


「どれどれ、お熱のほうは?」


 額に手を当ててみる。やはりまだ発熱したままだ。

 ちなみに鎧の下に着ていた服は、ちゃんと洗って乾かしたあとに、着せ直してある。名残惜しい気もしたけど、いつまでも上半身裸で寝かせておく訳にもいくまい。


「うーん、これはまずいなぁ……」


 彼女はいまも荒い息をしている。このままだとこの女性は、体力を消耗していくばかりだ。なんとか熱を引かせて、ご飯を食べさせないと。


「薬、薬……。やっぱり薬だよねぇ……」


 どうにかして解熱剤なりを手に入れたい。ここは覚悟の決めどきかも。


「……ぃよし。村に潜入しよう」


 逃げ出してきたあの村だ。きっと村には薬のひとつくらいあるだろう。

 そういえば僕は、あそこで何日も無理やり農作業に従事させられたけど、報酬も貰っていない。もちろん退職金もだ。

 代わりにちょいとお薬を頂戴しても、バチは当たらないと思う。

 そうと決まれば実行あるのみ。表に飛び出して、翼を広げた。


「とうっ、ドラゴンウィング! いくぞ! 目指すは村長の家!」


 僕は大空を加速して、村へと向かった。


8時、12時、15時、18時、21時、0時の、一日6回更新になります。

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