表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/40

セルベシア03

 魔女出現の報を受けた私は、矢も盾もたまらず飛び出した。竜騎士たちを引き連れて、国境の村を目指す。徒歩では半日かかる道のりも、ワイバーンなら直ぐだ。


「セルベシア団長! あそこに魔女がいます!」

「わかっている!」


 村の上空に、魔女がいた。

 そいつはまるで、そこに地面があるかのように、空に浮いている。


「……後続がくるまで待ちますか?」

「すぐに仕掛ける。それが足止めにもなろう!」


 ここまで先行してきたのは、王竜騎士団のなかでも、特に翼の速い騎竜だ。少しすれば遅れている竜騎士たちも到着するだろうし、聖銀騎士団からも部隊が出ている。


「では散開しろ! 前後左右上下を囲い込め!」

「はっ!」


 距離を置いてぐるりと魔女を取り囲む。これでもう逃げ場はない。


「魔女イネディット! 引導を渡してくれる! 覚悟せよ!」


 魔女が首を回して、私たちを見回した。だが、彼女にはまったく焦った様子がない。

 強者ゆえの奢りか。はたまた真の実力に裏打ちされた余裕か。

 魔女の話は父からよく聞かされている。しかし実際に相対するのは、私もこれが初めてだ。

 繁々と目の前に佇む女を見定める。


 黒髪黒瞳で黒のドレスを纏った彼女は、見たところ20代後半ほどに見える。魔女の周囲には六色の光玉が浮かんでいた。ぐるぐると音もなく、彼女の周りに浮かんでは、旋回している。

 私はこれについても、父より聞かされていた。これこそは、魔女の恐るべき力の発露。各々に地・火・風・水・光・闇の異なる力を宿した、6つの魔力球なのである。魔女はこの魔力球を自在に操り、天変地異をすら引き起こす。

 物憂げな顔をして私たちを睥睨していた魔女が、億劫そうに口を開いた。


「……竜騎士か。だが、たかが8騎の人竜で余を相手取ろうとは、いささか蛮勇が過ぎるのではないか?」

「ぬかせ!」


 幅広の大剣を、鞘から抜いて構える。配下の竜騎士たちに目配せをし、一斉に魔女に向けて攻撃を仕掛けた。




 荒れ狂う暴風が、あたり一帯に吹き荒れる。風を司る緑の魔力球が、妖しい光を放つ。

 このような嵐のなかでは、さしものワイバーンも思うようには飛べやしない。だと言うのにこいつは、暴風などものともせずに、悠然と宙に浮いていた。


「こ、このお……!」


 業を煮やした竜騎士のひとりが、強硬に突撃を仕掛けた。しかし今度は赤の魔力球が光り輝き、爆炎がワイバーンを襲う。


「う、うわぁぁあ!?」


 騎士は辛くも炎の直撃を回避するも、騎竜の翼を焼かれ、錐揉み状に落下していく。


「おのれ! よくもやってくれたな!」


 私は巧みな操竜で騎竜ハービストンを操り、魔女に攻撃を仕掛けた。配下の竜騎士たちは、魔女に近づくことすら難儀している。そんななか私だけが、彼女に剣が届く位置まで斬り込み、激しく戦っていた。


「……貴様。ほかの竜騎士とは、どうやら少し違うようだな?」

「王竜騎士団団長、セルベシア・ウェストマールだ! この名を胸に刻み込んで、墓の穴まで持っていけ!」


 魔女が薄く笑った。


「王竜騎士団団長。そしてその騎竜。……ふむ。貴様、あの男の後釜か?」

「そうだ! 父の無念、ここで晴らさせてもらう!」


 我が父たる先代騎士団長は、常勝無敗の竜騎士だった。

 ただひとつの例外。目の前のこの魔女との戦いを除いては。


「……そうか、娘か。……女子供を後任に据えようとは。人材でも不足しておるのか?」

「この私を愚弄するか! 父はお前から負わされた手傷で、一線から退かざるを得なくなった! その無念を晴らすべく私が跡を継いだのだ! 私はお前を許さない!」


 激しく剣を振るい、騎竜をけしかける。しかし魔女は燃え盛る炎で、氷の礫で、私の攻撃を弾き、迎撃してくる。徐々に戦いは、一騎討ちの様相を呈してきていた。




「……どうやら、ここまでのようだ」


 戦いの手が止まった。遠くにワイバーンの羽ばたく姿が見えてくる。もう間もなくすれば、遅れていた騎士たちが到着するだろう。


「黒髪黒瞳の者。果たして迷い人か先祖返りか……。気にはなるが仕方あるまい……」


 魔女が撤退を始める。


「待て! まだ勝負はついていないぞ!」


 去っていく彼女を呼び止めた。


「……ならば単騎でも追ってこい。その覚悟があるのならな。だがもし追い縋ってくるのであれば、そのときは余も女とて容赦はせぬぞ?」


 再び魔女が去り始めた。私はその後を追う。


「駄目ですセルベシア団長! 悔しいですが魔女は強い。ここは皆を待って、態勢を立て直してから追うべきです!」

「そんな悠長なことが言っていられるか! いまこそが、先代団長の恥辱をそそぐべきときなのだ!」


 部下たちはもう疲労困憊している。ここは私ひとりで追いかけるしかない。

 制止する配下の声を振り切り、私は魔女の後ろ姿を追って騎竜を羽ばたかせた。


8時、12時、15時、18時、21時、0時の、一日6回更新になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ