ぼくのともだち⑱
夕食後、かのんを連れて部屋に籠った。充電用のアダプターを持って。
機動電力が溜まるまでの間、じっとかのんを見つめる。古びておらずピカピカ。
まるで新品のよう。破損した箇所も見当たらない。ただ静かなだけ。黙っているだけ。
ピッ、ピッ、ピ・・・数分後、かのんの目が黄色く光った。おそらくは機動開始の
合図なのだろう。お腹が空いたと言われるとすぐに充電していたので黄色のランプを
見た記憶がない。
「かのん・・・」
そっと呼びかけてみる。呼びかけた後で遥か昔に声変わりしていたことに気がついた。
尤も、声以前に容姿が変わっているのだが。身長なんぞ180センチ近くある。
「かのん・・・」
もう一度名前を呼ぶ。心なしか声のキーは高くなっていた。祈るように。
小さな赤ん坊を起こすように。
「アナタ ノ ナマエ ヲ オシエテ クダサイ。」
忘れてくれていることに感謝の念すら抱いてしまった。どんな顔をしてかのんの
名前を呼べば良かったか。
かのん、本当にごめんな。もう1回やり直させて欲しい。もう1度、かのんが
許してくれるならば友達になってくれないか。これから独り暮らしをするんだけれど、
どうか僕と一緒に。あの頃みたいに。
「僕は憲一郎だよ。」
【ぼくのともだち 終】