七話 ロリ?ショタ?
「*************!」
う〜む、トラを殴り飛ばしたと思ったら何事か叫びながら子供が飛び出してきた。
「*****!****!」
なるほど、言語が違う設定のようだ。異世界ものではよくあることなので驚くことはないが、面倒だなー。
「****!」
「あ〜、はいはい。ちょっとまってね。」
こういう時はあの魔法だな。魔法の出力調整が難しいけどライトの魔法で大体の目安はつけたし、なんとかなるだろう。
周囲の魔素から魔力を精製する。すぐに容量いっぱいになる。やっぱり少ないな。
握りこぶしほどのライトの魔法の3倍くらいの魔力を使い魔法を発動する。
「翻訳魔法!」
体の周囲が少しだけ光り、消える。目の前の子供にも同じことが起こる。子供は目をパチパチさせて驚いたようだ。
「あー、わかるか?」
「!?言葉が通じた!」
子供はさらに驚いたようだ。よしよし、とりあえず意思疎通できるようになったな。翻訳魔法万歳。
翻訳魔法。「王と戦の物語」という結構真面目なファンタジー物語がある。戦が千年も続く世界でとある国の王様が経験する小さな戦争の話だ。平和を愛する王と容赦なく迫ってくる戦火。そんな中現れたのは戦いを司る悪魔の子供で、王と悪魔の問答と奇妙な心の交流がちょっと面白いくらいの本だ。
翻訳魔法はそんな世界で生まれた魔法で、元々は洗脳や尋問用の心魂魔法だ。俺が本に入って知り合った魔法使いが心魂魔法の第一人者で、頼み込んで教えてもらった。おかげでその後の様々な本の世界で意思の疎通に苦労することはなかった。
「お、おじさん?どうしたの?」
いかん。意味もなく頭の中で解説をしていた。子供は恐る恐るといった様子だ。
しかしこの子供可愛らしいな。男か女かよくわからんが。
「なぁ、子供よ。」
「え、な、なに?」
「お前、ついてる?」
「な、なにが?」
おいおい、言わせんなよ?
ちん、と言いかけたが、ちょっとまて、人気のない場所で知らない子供にそんなこと聞いて大丈夫か?いや、大丈夫ではない。逆なら即逃げる。元の世界ならもしもしポリス案件だ。
「いや、なんでもない。まずは自己紹介でもしようか。俺はワタリツカサだ。」
「あ、はい・・・?えっと、僕はシャルプ・クルアです。」
「この辺りに住んでるのか?」
「はい、あ、いや違います。遠くから来ました!」
「ん?なんで言い直した?一人でってそんな格好で一人旅か?」
「えっと、に、荷物は向こうで仲間が見張ってます!みんな力も強いし剣も持ってます!」
一人旅。いや、嘘だろ。めっちゃ目が泳いでるし。しどろもどろだし。どうやら警戒しているようだ。おそらく村の場所を教えたくないんだろう。10歳くらいに見えるがしっかりしている子供だな。
「お、おじさんはこんなところで何やってるんですか?」
「俺は──。あーうん。記憶がない。気がついたらここに居た。名前くらいしかわからん。」
こういう時の誤魔化し方はなれたもんだ。
「とりあえず君に会えてよかった!シャルプ君!あ、君でいいのか?ちゃん?」
「ぼ、僕は男です!」
残念。男だったか。よく訓練された奴なら大丈夫だろうが俺はそっちの趣味はない。
「あ、あの、さっき、何をしたんですか?グロを吹き飛ばしちゃうなんて!」
「さっき?ああ、あのトラみたいな奴か。ちょっと殴ったら飛んでっちゃったな〜。」
「殴った!?」
「あ、もしかしてまずいことだったか?飼ってたとか?」
「神獣が飼えるわけないじゃないですか!」
「あ、そうなの?よかった。」
「な、なんなのこの人・・・」
クルア少年のつぶやきを聞こえないふりをして、俺はどうするか考えていた。先ほど獣をなぐりとばす場面を見られていたようだ。流石にあれだけの威力を目撃されてちょっと殴ったで誤魔化せるとは思っていないが、相手は子供である。大人の話術で丸め込んでやろう。
「いいかいクルア君。さっき起こったことは奇跡なんだよ。」
「奇跡。」
「そう!太陽があの位置にあって風がちょうどいい感じで吹いた時に北と南で鳥が転ぶとウソナン・ダーケドネー現象が起こって俺に不思議ことが起こったんだよ。
「ウソナン・ダーケドネ現象。」
「そう!神と悪魔の不思議な因果関係で神秘な秘密がシークレットコンプライアンスなんだ。」
「しーくれっとこんぷらいあんす」
しめしめ、うまくいっているぞ。
これぞ秘儀!急に難しいこと言われたら思考停止で受け入れちゃうよねアタック。
「わかったかな?だからおじさんは全然変じゃないんだ。そうだろう?」
いい笑顔で笑ってみせる。にちゃっと効果音が鳴る。
「え、でもそれ嘘ですよね。」
な、なぜばれたし!馬鹿なこの俺の対子供戦術が効かないだと。見た目通りの年齢じゃないのかこのガキ。転生キャラか!?
「ワタリさんが何をやったかはわからなかったんです。でもあの時魔力は確かにワタリさんから出ていました。」
なんと!君その年で魔力感知できるのか!天才?もしやこの本の物語の重要キャラか?いやいや、それよりすぐに答えねば!何かスマートな返答をしないと!
「い、いやぁなんのことやら。へ、変なこと言うなぁ君は。」
・・・泣ける。世界をいろいろ渡って経験も相当積んでるはずなのに肝心の時頭がポンコツなままだ。
「あんな魔法はこの辺りでは見たことも聞いたこともありません。」
「きっとワタリさんは人に言えない何かがあるんでしょうね。はじめは変態かと思いましたけど。」
「だから深く聞きません。なんなら見たことも忘れます。僕はワタリさんの前から消えて、二度と現れません。それでどうでしょう?」
あ、すごい。めちゃめちゃ警戒されてる。何も見なかったことにするんで見逃してくださいって心の声が聞こえる気がする。正直言ってせっかく遭遇した人間だし、近場の集落にでも連れて行ってもらいたい。情報も集めたい。でもここまで警戒されちゃしょうがないか。
「あ、うん。それでいいよ。」
こんな子供が一人でくるような場所だし、近くに集落があるんだろう。ゆっくり探せばいいさ。
「じゃ、じゃ僕は行きますね!な、仲間も待ってるんで!」
「うん、さよなら〜・・・」
ちらちら後ろを振り返りながらクルア少年は森に消えた。
「へ、へこむーへこむわ〜。なんかこの世界でうまくやってける自信ないわ〜。いきなり接触失敗したわ〜。」
バターンと仰向けに倒れた俺は両手で顔を覆いながらゴロゴロと転がる。
いきなり精神を削ってくるとはなかなか恐ろしい世界だな。と思いながら体を起こし、森の方を眺める。とにかく、あの少年の村を探そう。あ、あの少年が大人にいろいろ話しちゃったら村に入れてくれないかも?・・・また判断間違えたか・・・。だから俺はブラック社員なんだよなぁ〜情けねぇ。
「よし、ま、とにかく、元気出して行きますか!」
と、声に出すが体は動かない。
「はい!今動く!さっ!はっ!いよ〜ぉ!ほっ!むくり、すたすた」
口には出すがピクリとも動かない。
心が折れると体は動かないもんだな。体は筋肉で動かしてるんじゃない!心で動かしてるんだ!って勇者が言ってたな。元気かなあの勇者。
この後三十分ほど掛け声を続け、少し気が済んだので森に向かうことにした。
***
森に入ると妙な騒がしさを感じる。
森の中の魔素がやや荒れている。
経験上こういう状態の時の森はモンスターが争ったり気が立っている時だ。
シャッ!
木の陰からキツネのような獣が飛びかかってくる。
「身体強化魔法1/100」
慌てず魔法を使い獣を叩き落とす。
ぎゃん、と鳴き地面に叩きつけられた獣はフラフラ立ち上がると森の先へ走って逃げて行った。
その後も猿に似た獣やイノシシに似た獣、蛇に似た獣なんかを殴ったり蹴ったりしながら進む。この獣たちがモンスターなのかただの獣かはわからないが、こんなに襲ってくるものだろうか。
「あの子供大丈夫かなぁ」
こうなると一人森に消えて行った少年が気にかかる。すると
「やめろ!こっちにくるなよ!」
森の先から声が聞こえる。この声はクルア少年だ。
声の方に走る。と、森が終わり小さな小道に飛び出した。
小道には分厚い本を振り回すクルア少年と、その社周りを囲うように三匹の狼のような獣がいた。
「!お、おじさん!」
「よ!またあったな!ちょっと待ってろ助けてやる。」
そういって魔力を精製する。
「バーニングボウ1/00!」
手を獣の方にかざし魔法を発動する。
細い炎の矢が3つ現れると獣たちに向かって飛んでいく。狼に似た獣たちは避けられず体の真ん中を貫かれ倒れる。ジタバタとしていたがすぐに動かなくなった。
「大丈夫か」
少し震えているクルア少年に声をかける。さっき原っぱで見た時とは違い怯えているクルアは年相応の子供に見えた。
「なぁ、俺が怪しいってのはわかる。俺も逆の立場なら絶対怪しむからな。」
「・・・」
「ただ、今この辺りは何か騒がしい。トラの獣みたいな奴がまた出ないとも限らないし、ここは俺を信じてくれないかな?村まで送るし、絶対に悪いようにはしないから。」
ダメ元で提案してみる。仮に断られてももうほっとくつもりはないが。
「・・・わかりました。」
おお!
「本当に悪い人なら最初から僕の捕まえて村の場所を吐かせればいいだけですもんね。それをしないってことと助けていただきましたし、信用してみようと思います。」
「そうか、ありがとう。」
「え?なんでお礼なんか言うんですか?」
「いやぁ2回目の遭遇はちょっと上手くいったから、嬉しくてさ。メンタルハッピーさ」
「ふふ、なんですかそれ」
お、笑った。めっちゃ可愛いな。天使かよ。男だけど。
その後クルアに質問しながら村への小道を進んだ。相変わらず森の方から騒がしい気配は漂ってくる。何匹か獣も殴り飛ばしたりした。クルア少年は獣を殴って追い返すことに驚いていた。
「ワタリさんは魔法を使うのに魔障石を使わないんですね。」
クルア少年が気になるワードを口にする。この世界の設定がわかるチャンスだ。
「魔障石って何だ?」
「え、あ、そっか記憶がないんでしたっけ?魔障石って言うのはほら、この胸についてる石のことです。」
そう言ってクルアはシャツの首元を引っ張り胸を見せてくる。男とわかっていてもドキりとする光景だ。クルアの胸には俺の胸についているような石がくっついていた。なるほど、これが魔障石か。魔力反応はするが何なのかわからなかった。
「何でこんなもんがついてるんだ?」
「魔障石は生まれつき備わっていて、普通はこれで魔素から魔力を取り入れて魔法を使うんです。大きさや色が違ったりして得意な魔法の属性が変わったりしますね。」
ふんふん、つまりこの世界の魔力精製に必要な機能か。いわゆる魔石みたいなもんだな。魔力を蓄えて使用するんだな。どうりで魔素から直接精製しようとするとすぐ容量いっぱいになるわけだ。使われていない機能だからそういう風に肉体が構築されたのだろう。もしかしてこの石を使えばにならもっと魔力が貯められるのか?
「なぁ、この石の色はどんな属性なんだ?」
そういってクルアに自分の石を見せる。
するとクルア少年はちょっと驚いた後哀れむような顔をしてきた。
「色は透明なので無属性です。ワタリさん、言いにくいんですがその・・・」
クルア少年は変に言い淀んでいる。
「なんだ?何でも言ってくれよ。記憶が戻るかもしれないからな。」
記憶喪失は嘘だが何もわからないという意味では記憶喪失と変わらないので、情報は集めておきたい。
「あのー、ワタリさんは15歳は超えてますよね?」
「あぁ、大体この見た目だからな、30近いんじゃないか?」
「実は魔障石は15になると大抵何かしらの色がつくんです。」
「ふん?ども俺は透明だぞ?」
「はい、ごく稀にそういう人もいます。大抵そういう人達は魔法が上手く使えなくて・・・あまりいい扱いをされません。」
「欠陥扱いか?」
「悪い言い方をすればそうです。すいません。」
欠陥か。ルールでモブとして生まれる時にこういう事はある。肉体的個性は全て平均にならされるので、魔障石も色無しになったのだろう。
「まぁそれはいいや。でどうやって使うんだ?。」
「へ?えーっと、村長さんが教えてくれたやり方だと、魔障石に魔素を集めて押し当てるイメージです。僕はまだ上手くできないんですが・・・。」
そういってちょっと俯くクルア
「魔法が苦手か?まぁ俺も最初は苦労したよ。魔力を感じるのだって十五年かかったしな。」
「記憶戻ったんですか?」
「いや、そんな気がするって話。」
危ない危ない。記憶喪失キャラがもう崩壊し始めてる。もうバレてる気がするけど。
魔素を押し当てるイメージって何だそりゃ。そう思いながらやってみる。
周囲の魔素を感知する。それを胸の石に集めるようにイメージすると石が少し熱くなる気がする。石に意識を向けると魔力が精製されている。
「おぉ」
思わず声が出る。やってみてわかったが、この魔障石はフィルターのようなものだ。石の構造それ自体が魔素を捉えて魔力を濾すようになっている。ただ精製される魔力は荒い。穴の大きい網で砂をすくうと大きい小石も漏れてしまうようなもので、魔障石の精製精度は俺の直接精製に比べるとスイカと米粒ほどの差がある。わかりにくいか。
「う〜ん、面白いけどこれじゃ不便だな。」
「もう魔力精製できるようになったんですね。記憶がない割に早いです。」
「才能だよ才能。俺はスペシャルなんだよーん。」
「・・・」
クルア少年はまた黙って俯いてしまった。
何か悪いことでも言ったかな?調子乗りすぎたかな?
「実は・・・」
「まて・・・この先で争ってる。」
クルア少年がなにか言いかけた時周囲の魔素に微弱な揺れが起きた。
魔力の爆発が原因で、戦闘用の魔法でよく起こる現象だ。
「ちょっと急ぐぞ」
「わわ、ちょっと!」
驚くクルア少年を小脇に抱えると身体強化を使い跳ぶ。
駆けつけた先で見たのは複数の倒れた人間と、フードを被り長い剣を構える人間、それを囲い込む緑色の人型の化け物。いくつかの本の世界でも見たことがあるそいつらは、ゴブリン。
作者がバカなんでクルア君を上手く説得できませんw
力技しかないのか。(絶望
更新間隔空いちゃいますね。一万文字とかどうやって書くんでしょう。
まだ遅々と進んでいくんですがどこかでテンポあげたいですね。キャラがこなれたらもうちょっと書けるようになるかなって感じです。
誤字脱字おかしなところあったら教えてください。