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六話 見ていた人

 ──シャルプ・クルアは小道を歩く。

 家の仕事は先ほど終わり、簡単な食事も済ませた少年は分厚い本を持ち森の小道を進んでいく。

 この森は鬱蒼としているわけでもなく、この時間は気持ちのいい木漏れ日が小道を照らし、ひんやりしていて少しだけ湿った空気が顔に気持ちいい。

 クルアはこの小道を通って原っぱへ抜け、そこで本を読むことが習慣だった。

 いつも通り一本杉から小道を外れ少し行くと、木々の隙間から原っぱが見えてきた。


 しかし、そのお気に入りの場所に人がいた。

「ここらでは見ない人だな・・・」


 警戒し木の影から様子を伺う。

「なんかキョロキョロしてるな」

「あ、脱ぎ出したぞ」

「なんか体をジロジロ調べてる?」

「うわ、なんか泣き笑いみたいな顔してる」

「変態さんかなぁ」


 これは早急に大人に知らせに走った方がいいかと思った矢先、男が動きを止めた。かと思ったらいきなり空に巨大な光の塊が現れた。

「わっ!」


 あまりの明るさに思わず目を閉じ身をかがめる。何かの爆発かと思ったが音も衝撃もない。

 恐る恐る目を開けると光は消えていた。男は何か驚いたような表情をしている。

 気味が悪い。しかし、少年はワクワクもしていた。辺境の村に生まれ、持っているがほとんど読めない本を読む以外に楽しみのない退屈を持て余している少年にとって、この非日常はすこぶる魅力的だった。


 観察を続けると、どうやら光の塊は男が出しているようだ。先ほどよりも半分ほどの光の塊を出したり、それをさらに半分にしてみたり。握りこぶしほどの大きさになったのをみて男は満足したようだった。これは──魔法である。


 しかもライトの魔法のようだが、こんなに強力なものは見たことがない。魔法に詳しい村長ですらせいぜいあの握りこぶしほどの大きさしかつくれないだろう。

 気になる。怪しい。変態?何者なんだろう。

 怪しむ。しかし恐怖は感じない。不思議と無害な印象を受けるその男にクルアは興味津々だった。


 クルア少年が引き続き観察していると、反対側の森の奥から巨大な獣が現れた。

「あれは北の神獣グロ!山から降りてきたのか!?」──でもなぜ・・?

「ハッそうか!あの光か!」


 北の神獣グロ。ここから北に行ったところに天を貫く山がある。神山グロプスだ。グロはその山の主であり、クルアが生まれるずっと前、村長の祖父の代にはもうその山に棲んでいたと聞く。かなりの大食らいで見つけた生き物はすべて食べてしまうと言われ、神山グロプス周辺は生き物がいない。しかしグロが山を降りたとは聞いたことがない。実はグロは魔力を食べる。生き物を食べるのは体内の魔力を狙っているのである。神山グロプスは山頂から天然の精製魔力が産まれるのでグロはそれを餌にしているのである。

 先ほどの光球は山頂から出る魔力よりも濃い魔力が使われていた。グロにとってはご馳走なのだ。


 クルア少年はそんなことは知らない。ただ単に遠くの山から見えた光に反応して降りてきたのだと思っている。

「まずいよ!あのおじさん食べられちゃう!で、でも早く村にも戻らないといけないし!ああっもうどうしたらいいんだっ!!」

 男の身も心配だが、グロの下山は何を引き起こすかわからない。もし気まぐれに村の方に向かった場合、村人は間違いなく全員食べられてしまうだろう。

「ぼ、僕が・・・し、しらせないと・・・っ!」

 しかし体がすくんでしまい動かない。涙目になり怪しい男の方を見る。これから悲惨な目に会うであろうその男は、しかし不遜に何かよくわからない言葉を喋った。

 意味はわからないがその態度からグロを挑発したのははっきりわかった。

「あいつなにやってるんだ!」クルア少年は混乱で目の前がクラクラした。なぜあの化け物相手にそんな態度が取れるのだろう。もしかしたらなんとかできるほど強いのだろうか?まさか、そんな人間がこんな場所にいるはずもない──。


 神獣グロが叫ぶ。怒っているのか獲物を見つけた喜びか。離れているうえに隠れていてもピリピリと肌をつく恐ろしいほどの威圧感をもって。そしてクルアがごくりと喉を鳴らすよりも早く、獣は突進した。

 男はグロの突進をかわそうとしたが吹き飛ばされ、地面に墜落する。

「あぁっやっぱり全然ダメじゃないか!」

 クルア少年の絶望感溢れるこえが小さく響く。

 男が立ち上がる。グロはすぐにでもまた飛びかかりそうだ。

 男は体を強く打った様子で、口元には血がついている。次に襲われたらひとたまりもないだろうと直感した。クルア少年は哀れな男を、つまらない日常に束の間の色をさしてくれた男を見て祈る。逃げてくれと。

 左右に二、三歩動いた後グロが飛びかかる。


 終わる!

 クルア少年がそう思った瞬間。

 男の周囲に白いオーラが溢れ出る。と同時に男の周囲で何かがチカチカと発光し始める。

「ま、魔素が発光している・・・?」

 ありえない。自然界においては魔素の濃い神域と呼ばれる場所にだけ発光現象が起こると聞いたことがある。しかし何百年と溜り続けた結果起こる現象だ。先日までこの原っぱは至って普通の魔素量なのは間違いない。しかし起こっている発光現象。考えられる原因はただ一つ。おかしなあの男だ。

 グロが飛び掛かってくる中、男はスッと拳を引いた。

 クルアが見得たのはここまでだ。ドパンッ!という衝撃音とともに次の瞬間には男の拳がグロの鼻先に刺さっていた。

 一拍置いて空のかなたに吹っ飛んでいく神獣グロ。

 少年は短時間の内に多くのことが起こったため混乱していた。

「なんだよ・・・」

「おじさん一体何なんだよぉおおお!」

 と、混乱のあまり大声で叫びながら男の前に飛び出してしまっていた。



短いですが。新しい登場人物です。

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