五話 とりあえずどんな設定?
「オカルトかと思ったらSFで異世界ファンタジーの宇宙戦争」
声に出したらバカっぽすぎる。
少し前に妙に長いタイトルをつける流行りがあったがこれは酷い。
オカルト──っていうとUFOとかお化けとかUMAとかだよな。それにSF・・・。科学と魔法ものは割とあるからそういうやつか?異世界ファンタジーってワードでモンスターとか魔法とか示唆してるしな・・・。でもそれに宇宙戦争っていうと・・・。あ、ス◯ーウ○ーズ!?スーフォー的な力って魔法っぽいし宇宙人ってモンスターっぽいし。
ま、そんなわけないなー。
とりあえずこの件はそっとしておこう。
まずはこの本の世界でのステータスを調べよう。とはいえメニューが出てきてパラメーターが分かる訳ではないので、まずは体の特徴を調べる。
ルールによって本の世界で体が新たに構築される。世界によっては耳があったり尻尾があったりするのが普通の世界もある。大きく世界観を損なわない限りは元の自分とあまり変わらない外見になる。サイバーパンクな世界では半分くらい機械化されてたりした。
上着を脱いで(服はそれぞれの世界の一般的な服装になる。今回の世界では生成りのシャツにブラウンのパンツ姿。足はサンダル。)体を念入りに調べる。黒髪なのは変わらず、身長はよくわからないが元の自分と同じくらいの感じがする。体つきは太すぎず細すぎず、筋肉なんかは元の自分よりも付いている。この世界の人間はメタボではないらしい。
胸の中心に透明な石がくっついている。カットされた宝石のよう規則的な面を形成している。
俺の体に石がついているってことはこの世界の住人は皆石がついているってことだ。設定的に何か意味があるんだろうが──うん?少し魔力を感じる・・・。
しかしまぁそれは置いておいて、一番気になるところをチェックしないとな。
ちらっ
おお、元の自分より大きい!喜ぶべきか悲しむべきか!!
しばらく念入りに観察しよう。
・・・ふぅ。くだらないことをしている場合ではないな。
さて、体の特徴はわかった。胸の石を除いて元の自分とはほぼ変わりないようだ。筋力が上がったくらいだな。
魔力を感じたし、魔法も使えるんだろう。さた、この世界ではどういう設定だろう。
本の世界によって魔法の設定は変わる。大まかには3種類で、魔素と呼ばれる自然界にある元素から魔力を取り出して使用する方法、己の体内で魔力を生成して使用する方法、神や精霊、悪魔や魔神などから魔力の加護を受けて使用する方法がある。
石に魔力を感じるので体内で生成するタイプかと思いきや、この世界では魔素が大量にある。過去様々な本の世界を渡り歩いてきたお陰で、魔力の扱いはお手の物である。
周囲の魔素から少しだけ魔力を精製する。
「いっつ!」
ほんの少しだけしか精製していないのにもかかわらずズキりと頭の中心が痛む。
魔素からの魔力精製は無尽蔵に魔力が使える。しかし精製容量が存在し、それは個々の才能で決まっていて成長もあまりしない。
しかし幾ら何でもこれっぽっちの容量しかないとは・・・この世界の人間はあまり魔力精製ができない人間ばかりなのかもしれないな。
とにかく精製した魔力を使ってみよう。
「ライト!」
光の魔法で初歩の初歩魔法。魔力の消費は最少でお手軽な魔法である。これまで渡ってきた世界でも名前は違っても同じ魔法が必ずあった。魔力消費が最少とはいえ、先ほど精製した魔力量ではこの魔法が五、六回使えればせいぜいといったところだろうか。効果も野球ボールほどの大きさの光球が現れてあたりを照らす程度のものだ。しかし──。
バッ!
「うぉ!まぶし!」
上に向けた手のひらから飛び出したのは直径十メートルはありそうな巨大な光球だった。
昼間の原っぱを強烈な白い光が覆い尽くしている。眩しくて目が開けていられず慌てて魔法を消す。
「効果が強まってる・・・?」
それから何度か実験した結果、この世界は魔素が他の本の世界のものよりも量が多く、埋蔵魔力量も多い。ということであった。その結果精製された魔力は通常のものよりも純度が高く、魔法へ変換も容易になっているようだ。ただのライトの魔法があれほどの大きさになったことから変換効率は100倍近い。最初に火の魔法とか使わなくてよかったと胸をなでおろす。
胸の石の事はわからないが、魔法が使えるということで、身の安全は守れることが判明した。これからどうするか。
「先ずは人里でも探すかぁー」
と上着を着ようとした その時。
原っぱの先にある森の木々が大きく揺れ始める。ドンドンと地響きが鳴り、だんだんと大きく近づいてくる。太い木々をなぎ倒して現れたのは高さが五メートルはありそうな大きな獣であった。
「あらぁ?トラかなぁ?」
間抜けなつぶやきを漏らす。トラにしては大きい。体は犬のようだが顔はネコ科である。
「モンスターさんのお出ましか。異世界ファンタジー部分は回収してきたな」
ニヤリとする。大型のモンスターは辺りをキョロキョロと伺っていたが、原っぱの真ん中にいる俺を見つけると大きく吠える。やはり虎のような声だ。
「ファンタジー世界ということで獣でも言葉が通じるかもしれんので一応言っておくぞ。構わず帰れば見逃してやる。向かってくるなら大火傷も覚悟しろよ?」
言っても無駄だろうが──という言葉を待たずにモンスターは突進してくる。
巨体に似合わない疾さで距離を詰めてくるモンスター。
それを華麗にかわそうとするが──「やばい、モブに戻ってたんだった!」
先ほどあれだけ調べたのにもかかわらず、すっかり忘れてしまっている辺りに自分のポンコツ具合が悲しい。
かわしきれずに前足でぶっ飛ばされる。浮遊感を感じた後地面に背中を打ち付ける。痛い。
「ゲホゲホッ!油断しすぎだろ俺!」
咳き込みながら自分に対して愚痴を言う。立ち上がり口元の血を拭うと、モンスターをまっすぐ見据えてニヤリと笑ってみせる。こんな攻撃へでも無いとありありと伝える目で。モンスターは二、三歩左右に動き、再度突進してくる。
「身体強化魔法!」
魔力を精製した俺はその全てを込めて魔法を使った。身体強化魔法はその名の通り魔力により身体の能力を高める魔法で、新しい世界に行くたびに鍛えた身体がリセットされる俺にとっては重要でそれゆえ使い慣れた魔法である。
発動した瞬間身体が軽く感じる。と同時に周囲の世界がスローになる。ここまではいつも通りの身体強化魔法の効果なのだが、このよくわからない本の世界ではさらに体の周りにオーラのような光が出ており、体の周囲では時々チカチカと光が瞬いている。先ほど吹っ飛ばされたダメージも全く感じない。
スローで突進してくるトラのモンスターの顔面に拳を合わせ思いっきりストレートで打ち付ける。メキョリとモンスターの鼻先に手首が埋まる。と同時に魔法の効果が切れ、ドパン!!という衝撃音とともに鼻をぐしゃぐしゃに潰されたモンスターは空の彼方に吹っ飛んでいった。衝撃を中心に原っぱにも小さなクレーターができている。
「い、威力上がりすぎだろ!あぶな!」
そこまでするつもりはなかったのだ。死んでないといいなと思いながら空に向かって手を合わせる。
今のモンスターがどのくらいの強さだったのか知るよしもないが、完全にやりすぎであった。魔法の出力の調整が今までの感覚ではダメなようだ。なるべく抑えていく必要があるだろう。
お話の続きってこんなに書くの大変なんだって書いて気づく。バカですいません。
毎日更新してて面白い作品の作家さんたちはすごいなぁ。
後五話くらい投稿したらコメントとか評価をお願いしていきたいと思います。