クソみたいな現実と次の世界
3 クソみたいな現実と次の世界
暗い部屋の中、ランニングとトランクス姿で目覚める俺は、入っていた本、ラノベを放り投げ仰向けにベッドに倒れこむ。
ベッドの上も様々な本が乱雑に放ってある。
能力のルールで、本の中から出てきた場合入った時と同じ時間となる。そして記憶以外は何も持ち帰ることはできない。
鍛え上げた身体も、元の痩せ型の不健康そうな身体に戻っている。
能力に目覚めてから俺は、ほとんど間をおかずに本に入り続けている。そのため何百という本に入り何十年と生きた記憶があるのに、元の世界ではまだせいぜい2日過ぎた程度だ。
「うは〜リーシャちゃん可愛かったよー!チクショー!!」
枕をひっつかみ顔を覆いながら独り言を言う。
「キスとか久々だわーお金払わないで若い子とキスとか死んでもいいわー。いや死ぬのはいやだわー。ルールさえなきゃあの世界で猫娘とイチャイチャライフ送ってもよかったわー!クソッ!厳しすぎるぞルール!」
小一時間怒ったり泣いたりした後、むっくりと起き上がり次に入り込む本を物色し始める。
「なーに、世界は本の数だけある。女も本の数だけいるさ!いつかルールをねじ伏せる!限界は超えるためにある!よーし!ファンタジー世界が続いたから、今度は日常モノにするか?学園ラブコメもモブとしては楽しめそうだな?」
独り言が多くなるのは独り身の病である。
「SFもいいなぁ童話もいいな短いし。」
「そういえば今何曜だっけ」
スマホで確認すると土曜の深夜である。
「金曜の朝から会社無断欠勤して本に潜り始めたから、だいたい2日か・・・うわ〜会社からの着信こんなに・・・」
108件の着信履歴に少し罪悪感を覚える。
「もうこんなクソ会社行くかい」
しかし、暗い部屋でそう呟くと自然と笑みがこぼれる。
33歳、Fラン大学からブラック企業に入り次々と辞めていく同期たちを横目にダラダラと企業に時間を捧げ続けた。
別にやりがいもなく苦しい仕事を続けたのはなんのことはない。自らの能力を把握していた俺は自分のできるような仕事は、こういうブラックな環境にしかないと思っていたからである。
毎朝5時に起き、眠い頭で会社へ向かい、やりがいなど微塵も感じないデスク業務を終電ギリギリまでこなす。同期が辞め、新人も入ってすぐに辞めていく職場では、いつの間にやら古参扱いとなり、面倒な仕事はすべて押し付けられる。下げたくもない頭を下げ、高圧的な上司には人格を否定され、なおかつ給料は低い。心はすり減ってボロボロなのだが、現状を変えようという気力は無く、ただ毎日を流されて生きていた。
だから、この本の世界に入り込める能力が発現した時は動揺した。
中学時代オタク趣味にはまっていたおれはラノベを読み漁り、思春期的な痛い妄想を良くしていたものだった、大人になってからは押し入れの奥にしまっていたラノベ。たまたま押入れを整理した時に顔を出した一冊を手に取ったとき、能力は目覚めた。
モブ、いやモブ以下の自分がこんな能力に目覚めて何をしたらいいというのか。
初めて入った本の世界。俺の能力はまさにモブ並みである。しかし、登場人物や本の世界の裏側まで、全て知っている。現実ではありえない不思議な世界が現実としてそこにある。
これらを体感した時、俺の悩みや動揺は全て吹き飛んだ。現実の世界が一気に無価値に思えた。生まれた世界を間違えたのだと思った。
そして俺は最初の本の世界から出た後、すぐに古本屋へ走り片っ端から本を買い込んできた。
そのまま延々と本の世界に入り続けている。
本の中の世界は、俺の新しい現実となった。
「よし!次は短めのミステリー小説にするか。三日で出てこれるしな。えーと『鮮血!美人女将の崖告白!』ってタイトルでそのまんま女将が犯人だったなこれ。」
入る本を決め手をかざす。
小さく本が光ると光の中から文字が溢れ出す。
タイトルの字が光の文字となって頭の中に入ってくる。
『オカルトかと思ったらSFで異世界ファンタジーの宇宙戦争』
・・・・うん!?
なんだこのタイトル!?
ここまでで導入部は終わりです( ^ω^)・・・たぶん。