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関係ないプロローグを終えたら関係ないエンディング

2 関係ないプロローグを終えたら関係ないエンディング



 俺はとりあえず近場の街まで帰ってくると、門の見張りに軽く挨拶をし、町の宿屋まで来た。


 ふぅ。

 この本での目的は達成した。ひとまずの達成感と、可愛いヒロインちゃんの顔を思い出せば、自然と顔が緩んでくる。よかったなぁ。

 しかし、すぐに帰れる訳ではない。

 俺の能力は本の中に入ることができるものだ。しかしこの能力には色々な制限がある。それを俺はルールと呼んでいる。

 このルールの一つに、作品のストーリーが最後まで進むまで(今回は作者行方不明で未完のため書籍化されているところまで)は、この世界の中から抜け出すことはできない。というものがある。

 このお話の最新話は、真の力を手にした黒幕が配下の魔神達を呼び出し、洗脳から溶けた王国に攻め込む。という所までである。

 しかし、そこまで待ってたら非常に面倒臭い。なんせ早送り機能もスキップ機能も無いのだ。作中で一年過ぎるのであれば一年待たなければならない。10年ならお同じく10年だ。なので短縮できるように手を打った。

 黒幕が真の力を手に入れるための道具はすべ破壊してあるし、黒幕の計画も勇者くん達には暴露済み。黒幕が捕まり処刑された時点でお話は収束し、終わる。

 勇者くん達が帰ってきたら二、三日でこの本の世界から抜け出せるだろう。


「あ!ワタリさんおかえりなさい!」

「ただいま。」


 宿の受付の猫耳娘と挨拶を交わす。

 思えばこのお話に入って出現したのはこの町のそばだったな。

 能力のルールで最初の出現場所は選べない。本の世界の時間は勇者たちのストーリーの導入から始まるため、目的のシーンへはそれなりの長い待機時間がかかる。その間この世界で生活する必要があるのだが、ここでもルールがある。俺の体は完全にお話の世界のモブ、つまり完全平均的な能力しかないのである。

 特に力に優れているわけでもないし魔法が強いわけでもない。運や素早さも平均なので、ちょっと強いゴロツキには歯が立たない程度である。しかし、鍛えればそれなりに伸びる嬉しい仕様なので、長い待機時間は体を鍛えたりお金を稼いだりと、この世界の生活を楽しんでいた。


(この猫耳娘とも色々とイベントがあったな・・・。)


 借金取りを追い返したところから始まり、病弱な母親のために魔界の薬草を取りに行ったり、証文を燃やしに金貸しの家に殴り込んだり、元気になった母親が娘と俺を結婚させようと母親の知人である魔王を使った恐ろしい深遠なる計画で追い詰めてきたり。

 今となっては楽しかった思い出である。

 まぁ猫耳娘だけでなくこの世界に滞在中知り合った色々な人々とも何かしら事件があったり交流があったりで、待機時間はあっという間だったのだが。

 そんな生活もあと数日で終わると思うと感慨深いものである。

 俺は世界中の知り合いたちに別れの手紙を書きながら思い出に浸る。

 そんなことをして帰還の時はすぐにやってきた。


「それじゃ、いつかまたな。」

 

そう言いながら猫娘の頭を撫でてやる。


「ふ、ふにゃうあ“あ”あ“」


 顔をくしゃくしゃにしながらこくこくと頷くかわいい猫娘の姿は俺の心をちくりとさす。


「また、いつでもおよりください。街の皆、ワタリさんが旅立ってしまうことを心より残念に思っています。」


 猫娘の母親が柔らかく微笑む。目尻には小さな涙が溜まっている。


「ワタリさん!」

「絶対また帰ってきてくれよ!」

「また美味しい飯用意するからよ!」

「ワタリー行かないでー」

「ワタリ殿、またいつか。」

「ふわぁあ”あ“あ!ワタリさん大好きですぅぅううう“う”」


 別れの言葉を言う街の人々に軽く頷いて見せる。号泣する猫娘は俺の胸元に爪を立ててへばりついている。


「すまんな。またいつか会えるさ。この街の生活は本当に楽しかったよ。またな、リーシャ。」


 優しく声をかけ名前を呼ぶと、リーシャはゆっくりと胸元から離れる。


「ま、また、ぜ、ヒック!ぜったい、ヒック!、ですよぉ”」

「あぁ。」


 数秒見つめあったあと俺はくるりと背を向け街から離れ歩き出す。

「わ“ぁたりざぁあああん!」

 数歩歩いたところでリーシャが叫びながら走ってくる。

 振り向いた瞬間、猫娘は両手を広げ飛び込んでくる。

 そのまま頭をがっちり捕まれたかと思うと、リーシャの唇は俺の唇と重なっていた。


 目を白黒させている俺を見ながら、真っ赤な顔のリーシャは言う。

「この責任はいつか取って下さいね!」


 その瞬間、俺の体が透け、光に包まれていく。どうやら勇者くん達は早めに黒幕を倒したようだな。リーシャは驚いた顔をしている。そんな顔も光に包まれ見えなくなる。

 周りが光によって真っ白になったところで、俺は暗い部屋のベッドの上で目覚めるのだった

とりあえず投稿練習ということで二話目です。

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