仲間
夕食と入浴を終えた明人はパソコンを起動して司のことを検索するようにキーワードを打ち込んでいった。さっきまでしていたメールのやりとりで司が神木高校の3年であること、神咲神社の息子であることはわかっている。それにあれだけの霊能力だ、噂になっていてもおかしくない。そうしていろいろ検索かけた結果、それらしいことを書いているブログに行き当たった。
「レイプ?」
嫌に気になるその言葉に少し画面に近づいた。
『中学時代、好きな女に霊が憑いたと言い、裸にしてレイプをしたK!霊能力があるとか言ってたけど、こいつはマジサイテー。ま、高校でもハブられているからいいけどね、いい気味』
Kとは司のことだろうと思う。だが、そんなことをするような人間には思えなかった。そのままこのブログを読んでいく。そこには司に関する悪口が書かれていた。
『心が壊れているとは言うけど、Kは変質者。レイプされたHがかわいそうだよ。H、転校しても友達だよ!』
心が壊れている、それが真実だと思えた。レイプ疑惑もあり、そのせいかとも思うが本人に聞ける内容でもない。何より、このブログの主が本当のことを書いているとも思えない。ならば、直に会った司を信頼するしかなかった。何より、苺の体調を戻したのは間違いなく事実なのだから。それにあの通り魔が触れた際の不可解な痛みも司が来てからは無くなった。霊能力は実在し、彼は本物の霊能者だと思う。
「猟奇殺人と通り魔か・・・」
明人はその夜、遅くまで2つの事件に関して検索を続けた。どこにも関連性を見出せないが、司の話からしても多分そうなのだろう。何よりあの笹山と接触した司だけに、信じようと思う。
「千石の時とはうって変わった状況だな」
呟いて苦笑するが、それはすぐに消えた。神隠しのようにして女子生徒をさらい、海外に売り飛ばしていた事件と今回の猟奇殺人と通り魔の事件は正反対だ。犯人の目的もわからず、不可解なことが超常すぎて複雑な点がまさにそれだ。ただ、霊能者が味方にいるのはどこか頼もしい。そう思う自分を笑うように表情を緩ませた明人がパソコンを落としてベッドに入ったのは深夜の2時だった。
*
翌日の10時に二見中央の駅で待ち合わせをした明人と司だが、もちろん2人だけではない。10分前に駅の改札前に立っているのは明人と苺、そして春香だ。そうして5分後、歩もやってきた。今日は学校の改修作業があるために全面的に部活は休みとなっているのだ。昨日の夜に事情を話し、ここに集合をかけていた明人だが詳細はまだ話していない。とりあえず通り魔に関係した者が霊的な障害を得ていることを告げ、知り合った霊能者が苺を治したとだけ話していた。それを聞いた春香と歩は健司と京也の体調不良もそのせいかと思うがやはり半信半疑だ。それに霊能者といえば胡散臭い占い師みたいなものしか想像できないだけに不信感も持っていたが、明人の言うことだけにそれは口にしなかった。そして約束の時間、ちょうど10時に電車が到着する。階段を上がって来る見た顔に苺が手を上げれば、にんまりと微笑む前髪の長い男が軽く手を挙げた。
「ぴったりすぎたかな?」
「ああ」
明人の言葉に苦笑し、司はそこに並ぶ面々を見た。
「ども。神手司。神木高校の3年」
どこか上から目線の自己紹介ながらにんまり笑う顔は人懐っこく、春香も歩もその笑顔を見て警戒心を解いた。
「桜園凛です。よろしくお願いしますね」
眼鏡にポニーテールのその美女を見た春香と歩が顔を見合わせた。
「桜園凛って・・・・あのCM出てた?」
「まぁ、そうですね」
照れた顔でそう言う凛の両手を掴んだ春香は尊敬のまなざしを向けていた。歩も興奮した様子でまじまじと凛を見ている。
「私、芸能人に会ったの初めてだよ・・・いやぁ、なんかテンション上がる」
「元芸能人、ですけどね」
「でも本物だもの!」
「あのCM、可愛かったもんなぁ!いやぁ、マジ可愛い!」
そう言われてますます照れた顔をするが、明人の咳払いで我に返った春香と歩はあわてた様子で自己紹介をした。興奮して忘れていたのだ。
「私、今井春香。高校3年で水泳部です。よろしく」
「一枝歩です。高2です」
「よろしくね」
そう言って微笑みあった。
「戸口明人、高3だ。よろしく」
「志保美苺です。明人君の彼女で春香や歩ちゃんの親友でーす」
硬派な感じの明人と明るく砕けた感じの苺が付き合っているとは思えなかった。その後、2人が幼馴染だと聞いたことで納得した凛。そして幼馴染という言葉に苦笑した未来が司を見やった。
「蓬莱未来です。司の幼馴染です」
「ってことは、蓬莱さんも司君と?」
「残念ながら。司は凛さんと付き合ってるよ。私の彼氏はこっち」
「未生来武です。大学生で司の弟子、ってところかな」
「弟子にした覚えはないけどな」
いつも陽気な司にしては珍しく嫌そうにそう言い、言われた来武は苦笑した。とりあえずその場でわいわい言い合い、打ち解けあう。みんながみんな砕けた感じもあってすぐに仲良くなり、まずは京也の家を目指すことになった。
「事件のことに関しては、とりあえず除霊を終えてからになるけど、いいかな?」
年上で理的な感じのする来武の言葉に全員が賛同した。どこか明人に似た空気を持つ来武は頼れるお兄さんといった感じもあって苺や春香の中では高感度抜群だった。
「未生さんも霊能者なのか?」
「まぁ、そんなとこ」
少し素っ気無い返事だが、女性陣は盛り上がる。勿論明人は無表情のままだった。他人に深く踏み込まないのか、それ以上の興味がないのか、とにかく司にとってはありがたいことだ。女性陣はわいわいと会話が盛り上がるが、男性陣はあまり会話がなかった。時折、来武が明人に質問をする程度で司と明人に会話はない。そのうち来武は女性陣の方に混ざり、並んで歩きながらも明人と司は黙ったままだ。そんな状態で前を歩く来武が立ち止まり、司を振り返る。司はそのまま歩いて来武の横に立つと小さく微笑んだ。
「えらい濃いなぁ・・・」
「俺じゃ無理だ」
「だな」
司はそう言うと両手の数珠を外した。そして目の前にあるアパートに目を向けた。
「ここは誰さんの家?」
司は前を見たままそう尋ねた。
「京也・・・木戸京也の家です」
そう言う暗い顔の歩を見た司はにんまりと微笑む。不安そうな顔を見せる歩の肩をそっと抱いた春香に弱々しいながらも笑顔を見せた。
「ほんじゃ、みんなはここにいて」
そう言い、歩を見た。にっこり微笑んだその顔に少し心が休まった感じのする歩も笑みを返すと、満足そうにしながら司は京也の家に向かった。歩から預かった合鍵で中に入る様子を見る全員に緊張が走った。とはいえ、司をよく知る未来や来武、凛は普段と変わらなかったが。胸の前でぎゅっと拳を握る歩を見た凛は春香がいる反対側に立ってそっと歩の背中に手を置いた。
「大丈夫。司君は世界最強の能力者。祓えない霊はないよ」
自ら進んで魔術の呪いを体内に入れた者以外で救えなかった人はいない。凛のその言葉に歩は頷き、黙ったまま京也の部屋を見据えた。そして3分ほど経ち、扉の向こうに顔を出した司は笑顔を全開にして手招きをした。歩は心底ホッとした顔を見せ、春香と凛に笑顔を見せた。そのまま全員が早足で部屋に踏み込むと、そこは一気に狭くなった。なだれ込んできた人数の多さに面食らいつつ、そこに歩の顔を見つけた京也は優しく微笑んだ。そのまま女性陣がコンビニで買ったジュースを準備する中、司は歩を呼んだ。
「お酒とか、この家にないよね?」
「あ、はい・・・未成年だし・・・・ないです」
「だよね、じゃ、いいか。表面的だけだったしな」
司は京也を見つつそう言い、歩はお酒など何に使うのかと疑問がわき上がるが、とりあえず納得してその場を離れる。
「木戸、何があったんだ?」
布団を畳む京也はそこに座り、事の経緯を説明し始めた。昨日の夜、突然全身が気だるくなり、高熱を発したのだという。常備していた風邪薬を飲むも一向に改善されず、寝れば悪夢にさいなまれた。精神的にも肉体的にも疲れてしまい、食欲も無くただ寝ることしか出来なかったらしい。苺はそこまでひどくはなかったが、突然の高熱と気だるさに関しては同意していた。
「通り魔と激しく接触した?」
司の言葉に頷いた京也は昨日のことを詳しく話した。帰宅途中で通り魔に遭遇したこと。その狙いが健司であり、とっさに戦うことにしたことを話して聞かせる。
「で、ま、咄嗟に大蛇っていう関節技を極めたんだけど、そしたら全身が痛くて・・・」
「大蛇?」
技に興味があるのかそう呟く明人に苦笑を見せ、それから京也は来武を見た。
「で、この人たちが来てくれて、何とかなった」
「関節技を極めたことで普通より濃い波動を受けた、ということか?」
そう言った来武を明人が見るが、その来武は難しい顔をしている。
「だろうね・・・けど・・・・」
自分を見ながらそう言う来武の言葉を聞きながら司は立ったまま柱にもたれるようにしてみせた。
「敵意を持つ者に対して敵意を返した結果だろうね。一種の呪いみたいなもんだよ」
「敵意を持つ?」
「呪いって・・・」
京也と歩の呟きに司が頷いた。
「あいつ、通り魔は人間であって人間じゃなく、霊体であって霊体じゃない・・・曖昧な感じがした。人なら、敵意を向けられればそれに反応する。でも霊はそうじゃない」
「目的が遠山君なら、敵意がどうであれ、彼を最優先に狙うな」
司の言葉に追従するようにそう言った来武の言葉に苦笑を浮かべた司が頷く。
「でもなんで健司が?」
春香はその疑問を司に投げる。だが司は小さく微笑みながらわからないといった身振りをした。
「会えばわかる、かな?」
他人事のようにそう言う司を睨む春香だが、今は何もわからない。通り魔の目的も、健司を狙った理由も。
「じゃ、会いに行こうか、その彼に」
司のその言葉を合図に片づけをし、京也を加えた一行は駅へと引き返すのだった。




