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ダブルソウル  作者: 夏みかん
第1章 邂逅する魂
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廃村

今朝もまた1人で駅へと向かう。そのまま1人で電車に乗り、1人で学校へと向かう明人は今日は休むという連絡を健司から受けていた。そして何故か京也もまた休んでいる。2人とも体調が悪いとのことだが、風邪が流行っているわけでもないのに何故こうなるかが不思議だった。いや、可能性としては通り魔に遭遇したことか。確か苺もそういう風貌の人物と接触した後で体調を崩している。それは単なる偶然だと思っていた。そう、昨日の健司のメールを見るまでは。メールの内容にあった霊という言葉がどうにも引っかかる。今までそんなことなど頭になかった。もちろん、そういった非日常的なことを全部否定するような明人ではない。そういうようなことも世の中にはあると思っていた。だが、苺の体調不良が霊的なものであるという可能性も出てきたこともあって、明人はこの日の授業はそっちのけで通り魔事件について整理していた。通り魔はヤンキーばかりを狙っているとのことだが、健司を狙った理由は不明だ。見た目もヤンキーではなく、中身も同じくそうではない。苺は偶然遭遇し、その時はその人物が通り魔だとは思っていなかった。だが、身近で接触した人間3人が体調に変調をきたしているのだ。年末に録画で見たエクソシストの番組もあって、明人はその線もありだと睨んで推理を続ける。霊と関係があると言った健司のメールからして、誰かがそれを指摘した可能性が高い。それが誰かが気になるが、健司とは音信普通だ。メールも電話も繋がらなかった。そしてそれは京也も同じだった。そこで明人は昼休みに歩の元へと向かった。突然のPGの訪問に歩のクラスメイトは浮き足立ったが、歩にしてみれば明人は彼氏の親友であり、また自分の友達でもある。クールでどこか近寄りがたい雰囲気を持つ明人に普通に接する歩に憧れと嫉妬のまなざしを向ける同級生を背に、2人は中庭へと向かった。昼食は終えていることもあり、中庭に人は多い。とりあえず校舎の角に位置する木のベンチに腰掛けた2人は端から見ても美男美女カップルのようだった。


「京也、体調悪いって?」

「はい・・・なんか昨日の夜中から熱が下がらないって」

「それに関して何か言ってなかったか?」

「何かって?」


その言葉から、京也がただの風邪だと思っていると悟った明人は鋭い目を正面に向けた。そんな明人の様子から京也の身に何かあったのかと思い、質問を投げようとした矢先、先に明人が口を開いた。


「昨日、健司が通り魔に襲われたらしい。京也も一緒だった時に、な」


そう言いつつ、明人はスマホを取り出してそのメールを見せた。歩はその中にあったある言葉を見て身震いし、そして怯えた目を明人に向けた。


「霊って・・・」

「俺もそれが引っかかっている」


明人はそう言うとスマホをしまった。健司がそういうことを言う人間ではないことは2人ともよく知っている。


「誰かの入れ知恵か、それとも別の何かを感じたか」

「別の、って?」

「わからん」


冷たくそう言う口調からそれが本音であろうことは理解できた。明人はそれきり黙りこみ、歩もまた京也の身を案じながらもさっき見たメールの内容を頭の中で反芻していた。


「2人揃ってこんなところで逢引?」


その声に歩は顔を上げ、明人は目だけを上に向けた。


「春香さん、久しぶりです」

「そうね」


歩の言葉に苦笑しつつ、春香はそのまま歩の横に腰掛けた。ここ最近は健司を避けていることもあって、明人や歩とも疎遠な感じになっていただけにこうして直に会うのは数日振りのことになる。それもあってか、歩と春香の間に微妙な空気が流れるが、明人はお構い無しに健司のことについて話を始めた。


「健司が昨日通り魔に襲われたらしいが、知っているか?」

「あ、うん・・・たまたま部活の帰りに、会ったから・・・」


気まずそうな春香とは違い、明人は無表情のまま顔だけを春香に向けていた。


「どんな様子だった?」

「どんなって・・・普通だったし」

「何か言ってなかったか?」

「別に、何も・・・・・ただ、話がしたいからって、明日は部活もないし、会う予定にしてたんだけどね」


今の言い方から健司が体調不良で休んでいることは知っていると悟った明人はそのまま顔を正面へと向けた。


「京也も体調が悪くて休んでいる」

「そうなの?」


明人ではなく歩にそう聞いた春香に頷く歩。昨日の様子からしてそんな素振りもなかった。ただ通り魔に遭遇した苺、京也、健司が皆体調不良で寝込んでいることが不可解この上ない。


「今日、健司の家に行ってみる」


明人が前を向いたまま静かにそう言った。


「私も、行こうか?」


喧嘩をしているとはいってもやはり彼女である。そんな春香に小さく微笑む歩は今日は無理でも自分も明日は京也を見舞おうと考えていた。


「いや、それはいい。一枝も京也を見舞うのは少し待て」


その言葉の意味が分からず春香と歩が顔を見合わせた。


「なんで?」

「もし、通り魔のせいでこうなったとしたら、このメールが意味するところが重要になる」


そう言い、春香にも健司からのメールを見せた。あまり驚かないその表情から健司本人から聞かされていることが分かる。その様子を見ていた明人はさらに言葉を続けた。


「霊など信じてはいないが、それでもいるとは思ってる。俺も苺を見舞ったのは2回だけで短時間だった。他人に影響はないにしろ、この異常な状態は警戒すべきだと思う」

「でも・・・」

「健司は通り魔と、それを霊と言った何者かと接触している。ならば、その人物に会う必要もある」

「その時は一緒していいってこと?」


春香の言葉に否定も肯定もせず、明人は立ち上がった。


「今日の報告は必ずする」


そう言い、明人はさっさと行ってしまった。相変わらずクールというか、人を寄せ付けない雰囲気は強大だ。それでも去年の事件を解決に導いた功労者でもあり、鋭い洞察力と判断力はよく知っているだけに従わざるを得ないだろう。ため息をついた春香だが、不安なのは歩も同じなのだ。


「我慢するしかないね」

「ですね・・・でも、明人さんの言うことですし、信じましょう」


小さく微笑むその笑顔にも不安が見え隠れしていた。そんな歩の手に自分の手を重ねる。


「健司とはちゃんと話をするよ・・・木戸の好意を無駄にしたくないし」

「京也、何か言ったんですか?」

「あいつ、おせっかいなところあるからね」


そう言って苦笑した春香を見た歩がにっこりと微笑んだ。


「私、あんたみたいにちゃんと向き合ってなかったからね・・・」


そう言い、暗い顔をして地面を見つめる春香を見た歩は自分の手に乗せられた春香の手を包むようにして両手を合わせた。


「大丈夫ですよ。健司さん、凄く悩んでました。春香さんに悪いことしたって、そういう感じだったし」

「素直じゃないんだよね、私・・・嫉妬深いしさ」

「同じですよ、私も・・・」


そう言い、ため息をついた。その意味を理解した春香は苦笑し、ぽんと歩の頭に手を置いた。


「あの子、まだ木戸を狙ってるんだ?」

「そうです」


あからさまに不愉快だという顔をした歩は唇を尖らせている。春香の言うあの子とは今年入った1年生で歩と交代する形でキューティ3になった波賀心愛はがここあだ。確かに可愛い顔をしているが、それを自覚した性格の悪さは学年問わず女子の中でも有名だ。その心愛が去年の事件の話を聞いて京也に興味を持った。いや、同じバスケ部の先輩である歩に対する嫌がらせもあって、京也にちょっかいをかけているのだ。キューティ3を選考漏れしながらも自分以上の人気がある歩に嫉妬しての行動だったが、それが元で性格の悪さがバレての自業自得なのだ。それ故、キューティ3でありながら人気は急下降の状態にあり、替わりにやはり歩の方がふさわしいという声も多いことからの攻撃だった。


「去年は風見で今年は波賀か・・・あんたも苦労が絶えないね」

「ホント、疲れます」


そう言い、笑いあった。こんな風に笑いあうなど久しぶりであり、やはり自分たちはこうでないとと思う2人であった。



朝9時に起きた司はパンを食べて昼前に家を出た。今日は大学の講義が夕方まであるため、凛は渋々ながら司に同行することをあきらめていた。去年に肝試しをしたあの場所は危険だと理解している。だが、その危険の大元が消えていることは凛にとっても興味深いことだ。来武は大学が休講とあって通り魔に関して調査をし、夕方には未来と合流して二見町に移動する手はずとなっていた。とりあえず信司から今日の除霊は免除されたが、明日以降は希望者が倍になるのは確実だ。さっさとこの多発する霊障を絶つ必要があるが、そのためにはまずここから始める必要がある。司は廃村に続くフェンスの前に立った。仰々しいほどに黄色のテープが巻かれ、警察が立ち入りを禁止している様が分かる。司はそんなフェンスの向こうを睨みつつ、警察が出入りしているフェンスの空いた部分へ向かった。案の定2人の警官がそこに立っている。夜に来た方が良かったかと思うが、それはそれでめんどくさい。そう思う司を見た警官がゆっくりと司に近づいてきた。


「ここは立ち入り禁止だ、帰りなさい」

「おたくは体調悪かったりしないの?」


唐突に変なことを聞いてくる司に怪訝な顔をした警官はすっと司の正面に立つ。司はジーンズのポケットに両手を突っ込んだままにんまりと笑った。


「いいから帰りなさい」

「出来たら奥に行きたいんだけど」

「無理だ。さっさと行け」


徐々に警官の口調が荒くなる。そんな険しい顔の警官にすらへらへらした笑顔を振りまいた司はフェンスの奥、廃屋が並んでいるであろう場所の方を覗き込んだ。


「気配もない、か」


さっきからわけのわからないことばかりを言う司にさすがの警官も頭にきたのか、司の腕を掴んで強制的にここから連れ出そうとしたときだった。


「どうした?」


正面からやってきた私服の2人を見た警官はさっと敬礼すると司の腕を離した。


「笹山警部・・・この子が奥に行かせろと言うもので・・・」


警官の言葉に笹山と武藤は司を見やる。司は笹山を見て少し驚いた顔をし、それからにんまりと笑った。


「どうしても奥に行きたいんですけど」


さっきまでとは違って敬語になる司にムッとした顔をする警官だったが、笹山は何故か小さく微笑みを浮かべた。そんな笹山に武藤もまた怪訝な顔をする。


「無理だと言ったら?」

「無理じゃないですけどね」

「何故?」

「あなたも感じてますよね?女の気配・・・死んだ女の霊圧を」


その言葉に笹山は目を見開いて驚き、逆に武藤と警官は呆れた顔をしてみせる。今の言葉からこの奥に死んだ女の霊がいるということだと理解できるが、常識で考えればそんなものなどいるはずもない。頭のおかしい子だと武藤がため息をついた矢先、笹山は司の前に立った。


「あなたには霊感がある・・・低いとはいえ霊力がありますからね」

「君は・・・?」

「神手司。まぁ、世間的にいう霊能者ってヤツ。奥に行っても何もしない。ただ見たいだけ」


そう言い、司は薄く笑った。笹山はじっと司を見つめていた。そんな笹山が司に背を向けたことで武藤も警官も司を無視するのだと思った矢先、笹山は司を振り返った。


「何も触るなよ?」

「あいあい」


にんまりと笑う司と小さく微笑む笹山にあんぐりするしかない武藤は去年の二見高校の事件でもこうして一般の高校生に情報を与えていたことを思い出した。結果としてそれは事件の解決に貢献したが、今回のこの男はどうにも信用できない。第一、武藤は霊など一切信じていない。


「警部、私は反対です。大体霊など・・・いるはずもない。こいつは精神的に破綻していると思います」


武藤の言葉に警官も頷いている。そんな2人を見た笹山はため息をついた。今まで誰にも話していないが、確かに自分には霊感がある。殺人現場で死んでいる男のそばにその死んだ男が立っているのを見たこともあるし、いろんな現場でそういうものを目撃している。小さい頃から見えていたこともあり、今ではもう慣れているが。勿論、頻繁に見るわけでもないが、それでも普通の人に比べれば異常だと思う。それを初対面であるこの少年は見抜いた。それに自分もまたこの奥で何かの気配を感じていた。女性とは分からなかったが、この少年の言うことは信用できるのだ。


「科学的根拠もない、霊なんてただの妄想ですよ」


吐き捨てるようにそう言った武藤を見た司は苦笑した。それが自分を馬鹿にされたように見えた武藤は冷たい目をして司の前に立った。


「何を笑う?」

「あんた、墓参りはするの?」

「それがどうした?」

「根拠もなく、霊もいない。なのに墓参りはするんだ?」

「先祖の魂と霊は違う」

「先祖の霊を慰めるのが墓参りだよね?霊は信じてないのに魂は信じてお墓は参る。殺された人の家に行って線香も上げるのに霊は信じない。矛盾すぎるよ」


その言葉に思わず司の肩を掴んだ武藤だが、司は口元の笑みを消さなかった。


「科学的根拠に基づいて動くのなら、死んだお母さんからのお守りは効力ないよね?」


その言葉に武藤の手が司の肩から離れた。何故、この男はお守りのことを知っているのか。初対面のはずなのに。


「信じることが力になることもある。これ、誰の言葉?」


暑さからくるものではない背中を流れる汗をそのままに、目の前で微笑む司から目を離せなかった。死んだ母親がよく言っていた言葉がそれだ。信じる者が救われるではないが、信じることが力になる。警察官になった時にもそう言われたことを鮮明に思い出し、武藤は2、3歩後ろに下がった。


「じゃ、行きましょうか」


笑う司に苦笑を返し、笹山はフェンスの向こうに移動した。司もそれに続き、よろよろとした足取りで武藤もそれに付いていく。


「なんで、その言葉を・・・・」


震える声でそう言う武藤を振り返った司は小さく微笑む。


「あんたのお母さんだよ。いつも後ろにいる。心配させたらダメだよ」


にんまり笑ってそう言うと、司はさっさと行ってしまった。武藤は無意識的に後ろを振り返るが、そこにいるのは母親ではなく警官だ。その警官もどこか戸惑った表情を浮かべている。その顔を見た武藤は我に返るとすぐに司の後を追った。既に笹山と司は廃屋の前におり、女性の死体があった場所で立ち止まっていた。


「女性の名前は南秋穂。東神大学とうしんだいがくの2年生だった」

「外傷も何もなかったって話だっけ?」

「ああ、死因は心臓発作、らしい」

「らしいってことは、原因不明なわけ?」

「そうなる」


世間的にはそうなっているが解剖しても原因を特定できずにいた。傷も病気もなく、ただ突然死んだということになるのだ。ありえない話に捜査員全員がこの地の曰くもあって身震いをしたほどである。


「もってかれたわけね」


その言葉に笹山は沈黙し、武藤は曇った顔をした。つまり今の司の言い方からして霊に魂を連れて行かれたということになる。そんな非科学的なことはありえないと思うが、それでも司の力を疑えない自分が歯がゆい。


「残りの4人は?」

「手足と首を生きたまま引きちぎられたことによるショック死」

「生きたまま、か。残留する霊圧もないってのが・・・気になるな」


ずっと笑っている印象があった司だが、ここで初めて鋭い目つきになった。しかもその瞳が金色に輝いて見えるのは気のせいか。


「あるのは女の小さな霊圧だけ、ね」


そう呟いた司の瞳は黒に戻っていた。目の錯覚だと自分に言い聞かせた武藤はさらに奥に進む司に付いていった。笹山も険しい顔をしたまま黙って付いていく。そのまま坂を上りきった荒れた土地の前で司は立ち止まった。見下ろす視線の先には高さ30センチ、奥行き20センチほどの石があった。上部分の大半が欠けたようになっているが、それはどこか墓石を連想させた。


「封じていたものが外に出たのか?」

「封じて?」


笹山の言葉に頷き、司は去年ここであった出来事を話した。肝試しに参加し、2体の悪霊と戦ったこと。その悪霊は元々この土地にいたものではなく、ここに封じられていたものに引かれてやってきたのだと説明をする。幸いにもその封じられていたもののテリトリー外だったのか気づかれずにすんでいたが、その2体を遥かに超える強大な霊圧を持っていた。


「多分、昔、誰かがそれをここに封印して石碑を建てて厳重に封じた。だけど、石碑が壊れて封印が解けて外に出たんだろうね。そのせいでここは廃屋だらけになり、悪霊のたまり場になった」

「今回の事件も、そいつの?」

「ま、多分ね」


薄く微笑む司はしゃがみこんで石碑をまじまじと見た。もう何の霊圧も感じられず、それどころかこの地に霊圧が全くない。普通こういった霊のたまり場には滞留する霊圧がある。霊はそれに引かれてやってくるのだが、ここにはこの地にいた地縛霊もいなければ動物霊すらいない。前回来た時とは全く様子が変わっていた。おそらく、封じられていたものが全ての霊圧を吸収して外に出たのだろう。


「通り魔がそれ、って可能性が高いかな、今んとこは」


その言葉に笹山は難しい顔をし、武藤は表情をなくした。2つの事件の関連性は見出せず、捜査も別の班が対応している。


「悪いんだけどさ、死んだ5人の情報を全部くれないかな?」

「出来るわけないだろ!」


武藤の言葉にも苦笑を返し、司は笹山を見た。


「俺、神社の跡取りなんだけどさ、ここ1週間でもうそりゃいっぱい除霊希望者が来てるんだよね。その全員が通り魔を近くで見た人ばっか。それでいてこの事件。どう思います?」


それを聞いた武藤は笹山を見た。今の話が本当であれば、猟奇殺人と通り魔事件に関連が出てくる。ただし、それは非科学的な根拠による関連だが。


「わかった。明後日の日曜日、でいいかな?」

「警部・・・」


武藤の嘆きに苦笑を返し、笹山は自分の連絡先を教え、司もまた同じようにした。


「あと、女の友達で久保善行くぼよしゆきって人、いる?」


突然の言葉に笹山が武藤を見れば、武藤は手帳を取り出してその名前を探すがなかった。秋穂の交友関係にそんな名前の人物はいない。


「いない」

「じゃ、調べて」

「何故?」

「その女が言ってる。彼を止めてくれって。通り魔がそいつなのかはわかんないけど、ヤバそう」


秋穂の死体があった場所を指差してそう言う司にさすがの武藤も背筋が凍った。ぎこちない動きで笹山を見れば、こちらも少々青い顔をしつつ頷いた。それを見た司は満足そうに笑うとさっさと2人に背を向ける。


「じゃ、明後日ね。連絡よろしく」


そう言い残して去ろうとする司を追おうとした笹山だったが、すぐに司が振り返ったためにその足も止まる。


「でも、警部さんはあんまり通り魔事件に首を突っ込まない方がいいよ」


笑いながらそう言う司の言葉に笹山は怪訝な顔をした。武藤はもう全身に鳥肌が立ちっぱなしだ。


「な、何故?」

「後ろにいる弟さんが心配してる。めんどくさいことは嫌いだけど、ああまで一生懸命お願いされたら、断れないしね」

「それって・・・」

「もともとは霊障の大元を絶ってめんどい除霊を終わらせようと思って動いてるけど、弟さんがあまりに必死だから、だからちょっとだけ本気でなんとかするよ」


にんまり笑ってそう言い、司は歩き出した。武藤はもう鳥肌を全開にして正気を保つのが精一杯だった。笹山は立ち尽くしたまま3年前に亡くした弟のことを思い出す。電車の事故で死んだ弟の遺体はほとんど原形を留めていなかった。奥さんと子供も失い、弟一家はあっけなくこの世を去ったのだ。あまり仲が良くなかったが、失って初めてその存在の大きさに気づかされたこともあり、笹山は少し肩を震わせた。


「まったく・・・死んでもお前は心配性なんだな」


小さい頃から怖がりで心配性だった。いつも無茶をする自分と違い、弟は臆病で慎重な性格をしていたのだ。笹山は今の司の言葉をしっかりと受け止めつつ、久保という人物を追うように武藤に指示するのだった。

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