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ダブルソウル  作者: 夏みかん
第3章 重なる魂
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交友

神殿に集まったのは信司と司、それに来武と未来、さらに凛だった。近くに住む中学生から持ち込まれた箱を前に難しい顔をする信司に来武。少し離れた位置にいる未来と凛が身を寄せ合う中、その木で出来た30センチ四方の箱に手をかける司の両手に数珠はなかった。神殿の入り口付近には中学生の男女4人が神妙な面持ちで正座をしていた。


「じゃ、開けるよ?」


重い空気に似合わない明るい声を出し、全員が頷くのを見た司はそっと木の箱の蓋に手をかけた。蓋にはかすれた文字だが、大きく『禁』と書かれていた。その蓋をゆっくりと持ち上げると中には無数のお札が入っていた。顔をしかめる信司と来武はそこから発する強烈な怨念に吐き気を催すほどだ。だが司は平然とそのお札の中に手を突っ込んでごそごそし、底の方から小さな黒い石を取り出した。凄まじい怨念はこの石から出ている。来武は未来たちにその怨念が届かないようにふせぎの術を使うが、効果は薄い。


ふせぎ


静かに司がそう言うと、信司と来武も気分が良くなり、未来と凛も変わらずにそこにいる。


「これって呪いの品だろうね。何十年に渡って人の血を染み込ませたんだろう。箱の中に石を入れて失血死するほどの人間の血で満たし、怨念を込めてそれを何度も何度も何年も繰り返し、それを殺したい相手に送る」


そうしてその家の者を呪い殺して箱を回収し、また次のターゲットを見つけては新たに血を満たす。そうすることにより、今日までこの箱は残されてきたのだろう。役目を継ぐまでお札を入れることで血の効果を薄めたのだろうが、その箱を中学生が開けたために呪いがお札の効果を打ち消したのだった。


「まったく、夏だからってめんどくさい」


ぶつくさ言いつつ、司は石を戻してそのまま手を入れたままで祝詞を唱える。


ぜつ


そう言った矢先、不思議なことにお札が燃えるようにして一瞬で灰になり、それもまた消えた。箱の底にあった石は真っ二つに砕けている。ふうと息を吐き、そのまま立ち上がると箱を持ったまま怯えた顔をしている中学生たちの方へと向かって歩いた。そうして4人の前に座って箱を置くと蓋をかざした。


「禁って書いてるだろ?これには2つの意味がある」


1つは開けることを禁じるという印、もう1つは内部にあるものが外に出るのを禁じるという印。今回、箱の蓋に書かれている文字に関しては前者だ。だが司は蓋をひっくり返した。そこにもまた『禁』と書かれていた。こちらは後者の意味だと説明をする。


「つまり開けるのも、中のモノが外に出るのも禁じた箱なんだ。それだけ恐ろしいってことだ。ま、好奇心が勝つのもわかるよ。夏だしな」


にんまり笑う司だが、その笑顔が怖さを大きくする。たまたま物置にしている納屋から出てきた箱を興味本位で開けて以来、4人の家族がみんな怪我や病気をし、4人もまた毎晩悪夢にうなされる事態に陥っていたのだ。あわてて神社に駆け込んだの今日であり、それも今、祓われた。


「でも安直にまた祓ってもらえばいいって思うなよ?俺は基本的にめんどくさいのは嫌いだから」


そう言って笑う司は両手に数珠をはめた。その後、青ざめた顔をする4人に説教をする信司を横目にさっさと神殿を後にする。それを追う凛と未来は箱の後処理をする来武を残してきていた。


「しかし一週間に一回はこういうのあるね」

「夏だからかな?」

「ま、そうだろうなぁ」


他人事のようにそう言い、司はあくびをする。大抵は来武でも祓えるものなのだが、今日の箱は来武には手に負えず司に援助を頼んだのだった。時期的に肝試しに行って憑かれる者も多く、そういうものに加えて暑さもあって夏が嫌いな司だった。


「来週のキャンプって、どうやって移動するんだろ」


未来はそう言いながら日陰を選んで歩いていた。今日も猛暑で暑さはかなりのものだ。来武とプールに行ったこともある未来は健康的に日焼けをしているが、凛の方はまだそういった経験もないので肌は日常のせいか黒いとはいえ白い方だ。水着姿をまともに見れない司に拒否された結果だが、来週のキャンプではようやくこの夏、最初の海だ。


「商店街の人がバスを貸してくれるって。信司さんが送り迎えしてくれることになってる」


凛の説明に満足そうにした未来もまたキャンプを楽しみにしていた。あれ以来、歩や春香、苺とラインをし、電話をするほどの仲になっている。みんなもキャンプを楽しみにしつつそれぞれがデートを楽しんでいるのに、凛と司はそういうこともほとんどない。ついこないだ映画に行ったぐらいで、これといったデートをしていなかった。そのうっぷんを毎晩の過度なスキンシップで発散している凛は海では思いっきり羽目を外そうと考えている。そんなことを考えている凛を見た司はその凛の水着姿を想像し、1人で固まるのだった。



その日、朝9時に神咲神社前に集合した11人は目の前に到着したマイクロバスに乗り込む。本来このバスは商店街の催しや慰安旅行で使用するためのものだが、いつも世話になっている信司や司のためにと特別に貸し出されたものだった。近所のアイドル的存在である凛の参加もあり、自治会を含めた誰もそれに反対する者はいなかった。キャンプ場までは約1時間半。各々好きな場所に座って和気藹々とした雰囲気の中、信司の運転でバスは出発をしたのだった。さっそくお菓子を広げる苺の隣に座る美咲は新しく種類の増えたドーナツの話で盛り上がった。凛は未来と話をしつつ、そこに寄って来た健司と一緒に最近のドラマの話で湧いた。一方、春香と歩が最近のファッションについて話しをするのを時折口を挟むようにして参加する京也が一番後ろに座っていた。来武は前の方にいる明人の隣で何やら難しい話をするのだった。司は乗った早々いびきをかき、到着までの間を夢の中で過ごす始末だ。そんなバラバラの車内見つつ苦笑する信司だが、自分も参加できない運のなさを呪った。そうして現地に到着し、キャンプ場の前で全員が降りた。暑いほどの快晴に海も空も青い。微妙に違う空と海の青さの色に感嘆の声をあげ、11人はキャンプ場の受付に向かった。来武と凛がてきぱきとこなし、それぞれ男女2つにグループ分けされたバンガローに荷物を置く。そして着替えを済ませ、先に男子軍団が大量の荷物を抱えて浜辺へ向かったのだった。


「楽しみだよなぁ、どんな水着なんだろ・・・俺、貯金はたいてデジカメ買っちゃったよぉ」


想像だけで溶けそうな表情をする健司に苦笑を返す京也だが、その京也もまた楽しみにしている。歩とデートはしても泳ぎにはまだ行ってなかったからだ。去年も一度しか泳げずにいたが、今年はこの1回を有意義に過ごそうと考えていた。


「その数珠は濡れても平気なのか?」


海を見つつクーラーボックスを担いだ明人が4本のパラソルを脇に抱える司にそう尋ねる。


「平気。風呂もずっとつけたまま」


さもめんどくさそうにそう言う司を司らしいと思う明人は無表情のままで歩いていく。やがて砂浜に到着した面々は適当な場所にパラソルを立て、敷物を敷いて荷物を置いた。


「うっひょぉ!」


夏休みとあって人は多いが、それでもニュースなどで見る海水浴場に比べればガラガラに等しい。とはいっても数人の若い女性もいて、健司は目を輝かせながらその姿に見入っていた。


「今井さんに殺されなきゃいいけど」

「海で死ぬとたいてい成仏できないよ」


恐ろしいことを平然と言う司に力のない笑みを返し、京也ははしゃぐ健司を見てため息をついた。波打ち際まで進む来武に付いていく京也を見ながら、明人は荷物の前に立っていた。


「何故海で死ぬと成仏できない?」


すでにパラソルの下で涼んでいる司にそう聞くと、司は薄い笑みを浮かべて見せた。


「さぁ・・・成仏できない連中が新しい客を行かせないからだと思うよ。今もうようよいるし」


新しくやってきた霊のことを客と呼ぶその神経はわからないが、不気味な話だけにぞくっとしたものが明人の背中を駆け抜けていった。


「そ、そうなのか・・・」

「ま、みんなが入る前に祓ってやるから」


こういう場合の司は頼りになる。さすがの明人も見えないとはいえ霊がうようよいる海で泳ぎたくはないからだ。そんな明人がぐるりと景色を見やった。遠くに島もいくつかあり、波も穏やかだ。


「やっほー!」


坂を下りてきた春香の声にそっちを見れば、簡単な手荷物を持った女性陣がそこにいた。スポーツタイプの水着を来た春香は水泳部だけあって引き締まった体をしている。確かに胸はそうないが、筋肉の付き具合がよく、かっこいい女に見えた。その後ろからやってくる美咲はピンクのワンピースの水着だ。残念なほどぺったんこの胸だが、ひそかにバスアップ体操というものを毎晩入浴時にしていることは内緒だ。実に中学生らしい体形の美咲に並んで歩くのはプロポーションも抜群な凛である。大きな胸を包む水着は白と黄色に分けたデザインとなっていた。腰のくびれも見事であり、メガネも外し、髪も束ねてアップにした姿はさすが元タレントだけあって美しい。健司などは春香をそっちのけでデジカメでの撮影にいそしんでいるほどだ。そのレンズをさらに後方に向ければ、未来と歩の姿があった。未来はピンクを基調としたビキニであり、胸もあってスタイルもいい方だ。活発的なキャラに似合わない可愛さもあって、ニヤケ面をした健司がシャッターを切りまくるその姿は最早変質者に近い。その横では愛らしい笑顔を未来に向けている歩がいた。オレンジの水着だが、スポーツタイプのビキニを着ている。こちらも髪が短くなった分ボーイッシュだが、小柄で可愛く胸もあり、バスケ部なために腹筋もあってかっこいいスタイルを誇っている。程よい肉付きの体は京也にはもったいなほどだ。そして最後尾からやって来るのは苺だ。赤と白の模様をしたビキニは少し小さいのか、かなり胸が誇張されている。こちらも少しふっくらした感じがしているが、だからといって太っているという感じではなかった。


「この中でキューティ3を決めるなら、凛さん、歩ちゃん、そして苺ちゃんだなぁ。でも未来ちゃんも捨てがたいし・・・悩む」

「今井に殴られるぞ」


自分の彼女を完全にランク外にした健司にそう言う明人は駆け寄ってくる苺を見て表情を緩めた。


「荷物、ありがとうね」


苺はそこにいた司や健司にもそう言うが、司は笑うだけ、健司は写真を撮るのに必死だ。


「健司、写真ばっか撮ってないで手伝ってよ」

「あ、ああ」


手に荷物を持った春香を手伝うためにクーラーボックスの上にデジカメを置いて行く健司を見た司はおもむろに立ち上がると荷物の整理をしている女性陣を見やった。順番に見て回り、最後に凛を見るが凝視できない。顔を赤くしながら健司のデジカメを手に取った司はそのまま海を見つめる。そこで何かを思いついた顔をした司は女性陣の方へと近づいた。


「女ばっかで写真撮ってやるよ」

「お前、それ、俺の!」

「いいね!撮ってよ!健司は邪魔!」

「そうだね、髪とか濡れる前にいい写真欲しいし」


春香に賛同した未来に健司はすごすごとその場を離れつつ春香に見えないように司にグッと親指を立てた。その意味がわからない司は怪訝な顔をしつつ腰に手を当てる。2列に並ぶ女性陣を見た司は珍しく渋い顔をしてみせた。女性陣にすれば凛以外の女性の体など人間の体という認識しかない司を知っているだけに警戒心もなく、司の動向を見つめていた。


「俺の言う通り並んでもらっていい?」


その言葉に一斉に顔を見合わせるが、珍しく真剣な顔をしているだけにとりあえず従うことにする。


「えっとね、まず端に美咲、んで、暴力女がその隣な」

「誰が暴力女だ!」


怒る春香に笑いかける司だけに、春香はそれ以上何も言わず美咲の横に並んだ。


「あいつのニックネームのセンス、抜群だな」

「ああ」


健司の言葉に思わず賛同した明人は無表情のままを貫いていたが実際は笑いを堪えるのに必死だった。


「んで・・・その隣に・・・・あんた」

「歩、です!」

「あー、歩ちゃんね。そこね」


いつまでたっても名前を覚えない司に歩がそう言う気持ちも分かる。なんとかこのキャンプ中に全員の名前を覚えて欲しいと思う凛だが期待はしていない。


「で、と、その隣が未来」

「私?これなんの順番?霊圧?」

「ちょっと止めてよ~・・・・いきなり心霊写真とかブン殴るよ?」


その発言に暴力女と呼ばれても仕方がないと思うのは健司も明人も同じだった。


「んで、苺、り、凛の順番」


さすがに覚えやすいのか、苺の名前はすっと出る。凛の方をまともに見れない司は視線を逸らしながらも位置を指定した。その後は前後に重ならないように慎重に細かく6人を横に並べた司はカメラを構えた。なるべく凛を見ないようにして全員を画面の中に入れた。


「よし、撮るぞ!」


そう言い、ポーズを決める女性陣に向かって続けざまに2枚を撮った。そのままこの並びについて議論する女性陣を見て満足そうに微笑んだ司はじっとこっちを見ている明人と健司の方へと顔を向ける。


「おーい戸口ぃ!見てくれ!胸のデカイもん順に並べてみたぞ!」


大きな声でそう言う司にさすがの明人も目が点になった。その声を途端に凛と苺は同時に腕で胸をブロックし、激しく赤面している。未来は腰に手を当てて大きくため息をつき、歩は恥ずかしそうにしながらも苺と凛の方をチラチラと見やる。美咲は自分の胸を両手で押さえつつずらっと並ぶ春香たちの胸と見比べていた。春香はにこやかに微笑みつつ司に近づくと渾身の蹴りを腹部にめり込ませ、司は悶絶しながらそのまま砂浜をごろごろと転がった。そんな女性陣の反応を見つつ顔を見合わせてため息をつく京也と来武。健司は苺と凛に釘付けになり、明人に至っては片手で顔を覆いつつ俯いた状態で笑いを噛み殺すのに必死だった。


「あいつ、やっぱ壊れてるな・・・」

「いや、壊れていない」


なんとか笑いを堪えた明人の言葉に怪訝な顔をするしかない健司。だが明人は熱い砂の上に正座をさせられて春香に説教をされる司を見て口元をほころばせた。


「あれは、ただのバカだ」


その言葉に納得した健司もにんまりと笑う。こうしてキャンプの開始は春香の蹴りで幕を開けたのだった。

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