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ダブルソウル  作者: 夏みかん
第3章 重なる魂
23/27

事後

来武の処置ですぐに意識を回復させた司だったが、魂を移動させた影響か、それとも先ほど凛の胸に顔を埋めていた影響か、とにかくまだフラフラとしている。明人もまた疲労困憊のようで、魂を同居させたせいに思えるが実際はどうかわからない。司は周囲を見渡し、それから遮名を見る。その遮名は微笑みつつ頷き、司はそれを見てにんまりと笑った。禍が滅んだことで昏睡状態だった者や霊障に苦しむ者も元に戻っているだろう。そう思いながら魔封剣を持ち、京也の方へと体を向ける。そのまま鞘から剣を抜くと無造作にそのまま剣を京也の胸に突き刺した。


「え?」


剣の切っ先が胸を貫通して背中まで抜けている。青い顔をする歩だが、刺されている京也は驚いた顔をしつつも不思議そうな顔をしてじっと剣を見つめていた。


ぜつ


静かな声でそう言い、司が剣を引き抜く。そのまま鞘に収めると、京也に向かってにんまりと笑った。服にも異常がなく、血も出ていない。歩が刺されていた部分を触るが、何の変化もなかった。


「俺の霊圧はほぼ空だから、剣を使って浄霊した」


その説明を受けて一度手でされた経験があるだけに納得した京也は隣でほっとした顔をしている歩に微笑みかける。


「さて・・・」


そう言い、坂の上へと歩き出す司に全員が付いていく。坂の上、結界が張ってあったさらに奥に、人が2人倒れているのが見えた。


「久保さん・・・」


健司が悲しそうにそう呟き、そんな健司の手をそっと握る春香。そこにいたのは久保と大場だった。眠っているように見えるが、来武と美咲、司に遮名はそれらが死んでいることを理解している。彼らは禍に飲み込まれた時点で既に死んでいたのだ。明人がため息をつきつつ笹山に連絡を取り、司は2人の間にしゃがみこんでそれぞれの胸に手を添えた。そのまま目を閉じて何やらぶつぶつと唱え始める。美咲はそっと2人に手を合わせ、来武と未来もそれに習う。健司はぽろぽろと涙をこぼしつつ手を合わせ、そんな健司を支えながら春香もそっと目を閉じた。明人たちも黙祷を捧げ、司が立ち上がる。そうして遮名を見やった。


「あんたが秋穂って女の魂の欠片を持ってたとは思わなかったよ」

「以前来た時に、残留していたものが勝手に入ってきただけのこと」

「そっか」


司はそう言って笑うが、明人を除く他の面々にはよくわからない。魂を同居させた明人は全てを理解しているせいか、空を見上げるようにしてみせる。そのまま遮名に質問を投げた。


「あの3人の魂は来世で出会えるのですか?」

「魂を連結させたから、同じ時代、同じ世代で生まれ変われるでしょう。でも、同じ場所になるかはわからない・・・それこそ、神のみぞ知ります」

「大丈夫だろ」


少し言葉を濁すようにした遮名に対し、司は明人同様、空を見上げてそう言いきった。その根拠が分からず、怪訝な表情を浮かべる遮名へと向き直った司は笑みを強くして凛と来武を見やる。


「俺たちがそうだったように、きっと大丈夫だ」


そう言われた凛と来武は顔を見合わせて微笑んだ。遮名もまた表情を緩め、明人は小さく微笑む。そう、きっと大丈夫だ、漠然とそう思う明人はゆっくりと司に近づいた。


「お前に礼を言わないとな」

「ん?」

「彼女の願いを聞いてくれたこと」

「そんなつもりはないけど」

「そうか」


今の司の言葉が嘘であることはわかる。魂を同居させ、その想いの全てを共有したのだから。本来は礼など言わずとも分かり合えている。だが、どうしても自分の口から言いたかった。


「ありがとう」

「こっちこそ、な」


ぶっきらぼうな司に羞恥の心はない。凛にだけあるその心が何故か自分にも向けられた気がした明人は優しい笑みを浮かべて見せる。それを見た司も口の端を吊り上げ、2人はしばらく微笑みあったのだった。



30分ほどして警察が到着し、明人が先頭に立って事の全てを説明するが、勿論そんなものが受け入れられることはない。蛇の霊が封印を破るために大場と久保を利用し、その霊を司と明人が滅ぼした、そんなことは絵空事にしかすぎないのだ。だが、すでに死亡から一ヶ月以上が経過している久保の死体の綺麗さは異常であり、半月前に死んだ大場の死体もまた同じ状態であった。つい今しがた息を引き取ったに等しいながらも、鑑識が出した死亡推定時期はそれぞれが失踪した直後になっている。それもあって明人の言うことを信じざるを得ないのだろうが、上がそれで納得するはずもなかった。とにかく後は警察に任せて明人たちは森を後にする。その司の背に向かって笹山が声を発した。


「これで彼女は救われたのか?」


その言葉にゆっくりと振り返った司は満面の笑みを浮かべて頷いた。それを見た笹山もまた満足そうに頷くと手を振って全員を見送るのだった。森を出た明人たちは各々が今体験したことを話しながら歩く中、司は寄り添うように歩く凛を伴いながら遮名へと顔を向けた。


「その髪、ああいう特殊な霊圧のせいなんだな」

「元は黒かったんだけどね、物心付く頃にはこうなったの」


目を閉じながらも小さく微笑む遮名は生まれながらに特殊な霊圧を持っていた。神地王家の強い血筋を一手に引き受けたようなその姿に両親は驚愕したが、当の本人である遮名はそれを気にすることなく生きてきた。


「その目も、閉じた方がよく見えるっても不思議な話だね」

「そうね・・・常に霊視眼じゃ、開いていたら何も見えないのと同じ」


そう、遮名の目は常に魂や霊のみを見る霊視眼となっている。そのため、目を閉じて自らの霊圧をそこに込めることで目を閉じていながら常人と同じ景色で見ることが出来るのだ。それもあって、近所の子供たちに異様な目で見られ、いじめられもした。一向に成長しない容姿もあって、初対面の人間に子供扱いされることも日常だ。だが、その中で例外がいた。それが司の師匠であり、自分の婚約者である上坂刃だった。上坂の家を継ぐために出雲に戻ってきた刃だったが、その後すぐに相次いで両親が他界し、今ではその両親が残した広大な土地を耕して生きている。そんな刃が父である業火の頼みで遮名を嫁に迎えることになった。初めて会った遮名を見た刃はにっこりと微笑むと自分を大人の女性として扱った。もともと巨大な霊圧と霊力を持っていた刃にしてみれば、遮名の特殊性を見抜いていたのだろうが、それでも刃は遮名を霊能者ではなく普通の女性として接したのだ。だが、いつまで経っても結婚する姿勢を見せず、数年前に業火が亡くなった時に花嫁衣裳を見せられなかったことを後悔した遮名が問い詰めるも、刃はのらりくらりとそれをかわしていた。しかしそれが遮名の体を思ってのことだと知り、今はただ自分の体の成長の遅さをただ呪っている状態にすぎない。


「さて、みんなはどうすんの?」


自分の家が見えてきたところでそう司が問いかける。


「私はこれで失礼するわ。禍の行く末を見届けたし、ね」


最後は言いたいことをぼかした感じがする遮名を見た司は微笑み、そっと右手を差し出した。


「そっか、ありがとう。刃さんによろしく」

「彼に伝えることはある?」


しっかりと握手をすれば、優しい温もりが体温ではない何かをお互いに伝え合う。


「俺は元気だと、それと、あんたの言いつけを守ってるって、それだけでいいよ」


にんまり微笑む司に遮名も笑みを強くした。やはりあの師にこの弟子だと思う。手を離し、遮名は全員を見た後で頭を下げた。そうして明人を見やる。


「君のわがままが彼らを救った。それは誇りに思っていいよ」


にこやかにそう言われ、明人は少々照れた笑みを返す。こちらともがっちり握手をした遮名はその後、振り返ることなく駅の方に向かって去っていった。


「神手司、また、会いましょう」


その呟きは霊圧に乗せて司の耳だけに届いていた。


「だな」


今の言葉の真意を知ってか知らずか、そう呟いた司は小さく微笑むと明人の方を見やった。


「で、あんたらは?」

「せっかくだから俺はもう一泊して帰りたいと思うが、いいか?」

「私も!」


苺も手を挙げてそれに賛同し、凛は笑顔で頷く。


「私は部活あるし、晩御飯まで一緒してもいいかな?」

「私も、いいですか?」


春香と歩は残念そうにそう言うが、凛と美咲は全然オッケーと返事をし、またいつでも泊まりに来ればいいとまで言った。嬉しそうな歩を見た京也もまた晩御飯の後で歩を送って帰ると言い、健司も同じようにすると言った。来武と未来もそうすることになり、結局のところ泊まるのは明人と苺だけとなる。少々寂しいがそれも仕方なく、その後は昼食を取りながら次のお泊り会のことやキャンプのことを話し合った。司と明人は疲れたのか、がっつくようにご飯を食べた後は夕方まで眠り、残った面々はゲームをしたりおしゃべりをしたりしてゆったりとした時間を過ごすのだった。



大人数の夕食は焼肉となり、健司と司の激しい肉の取り合いに春香の鉄拳が炸裂し、苺と凛がお互いの彼氏のことを話したりして楽しく進んでいった。相変わらず酔っ払った信司がセクハラ発言を連発して美咲に怒られていたが、慣れたこともあって春香もまた鉄槌を下していた。その美咲は歩と打ち解けあい、京也は来武と木戸の技について話し合う。キッチンとリビングを連結させたことによってグループごとに会話をする光景が見られた。そんな中、1人黙々と食べていく明人は目だけを動かして司を見やる。魂を同居させたことで司の過去、思い、全てを知った。それはすなわち、司もまた明人の全てを知ったということだろう。心を壊すほどの痛みも共有したこともあって、明人は司を見る目を変えていた。そんな感じで夕食を終え、デザートのスイカも食べ終わって健司たちが帰る運びとなる。今度の週末には第2回女子会がここで開催されることも決定し、キャンプの日程もほぼ決まったこともあって名残惜しいがそれを引きずらずに解散となった。明人は京也に礼を言い、そんな京也は苦笑を漏らす。健司は凛と別れる寂しさの心理を春香に見抜かれて蹴りを喰らったが、わいわい言いながら4人が去っていった。それを見た来武と未来もまた帰っていく。といっても未来と来武はまた明日も来るのだが。そうして家の中には神手家の面々と明人と苺だけが残った。今夜は苺は美咲の部屋で、明人は司の部屋で寝ることが決まっていた。今は美咲が買い物があると春香たちを送るついでに駅前に出かけ、苺と凛はお風呂だ。リビングでは司と明人が会話もなくテレビを見ており、信司は既に自室でくつろいでいる。


「凛さんってスタイルいいよねぇ・・・やっぱ元タレントさんだし、何かやってるの?」


頭を洗う凛に湯船に腰掛けた苺が自分のお腹の肉をつかみながらそう尋ねた。ここのところは通り魔の霊障で2週間ほど床に伏せていただけに痩せた苺だが、それでもそれ以前にヤケ食いしていた分が消化された程度にすぎない。


「でも苺ちゃんも言うほど太ってないけど?」

「そっかなぁ・・・随分違うと思う」


きゅっと締まったウエストを見れば違いは明らかだ。少し垂れ気味の自分の胸と違い、凛のそれは自分よりも大きいのに張りがある。


「ストレッチは毎晩してるけど、食事はそんなに制限してないし。まぁ、家事だなんだでよく動くし、大学まで1駅手前で降りて歩いたりするけどね」


運動をするというよりは歩くことが好きな凛は一緒に通っている鈴木裕子を置いて時々そうして歩いていた。裕子は誘っても同行するはずもないので、そういう場合は前もって連絡をしていた。


「やっぱ食べ過ぎかぁ・・・今度こそ、ダイエットしなきゃ水着姿を見せられない!」

「水着かぁ・・・キャンプの前に買いに行こうかな」

「持ってないの?」

「うーん・・・みんなで行くでしょ?だから紐のビキニって・・・」


去年、高校生活の思い出作りにクラスの面々と行ったキャンプでは、悪乗りした裕子に後ろから胸を鷲掴みされたこともあって警戒をしているのだ。そう、似たノリを持つ春香がいるためだ。


「じゃぁ、可愛いの買いに行こうよ!春香たちも誘ってみんなで!」

「そうだね」


微笑む凛がシャンプーを流しにかかる。長い髪を洗うたびに揺れる大きな胸を見た苺は自分の胸を見やった。大きいという自覚はあるが、それを上回る凛のそれにそっと手を近づけ、手のひらに乗せて揺さぶるようにしてみせる。


「ちょ!こらっ!」

「うーん・・・・・迫力が違う!」

「似たようなもんでしょ!」


体をよじる凛を無視して胸を揉む苺は少し明人の気持ちが分かった気がしていた。明人がそういう行為の際に苺の胸を触る時間は結構長いからだ。


「神手君が羨ましい・・・」

「ちょっと!あなた女でしょ!それに司君は・・・・・・」

「あー、ゴメンね。でもまぁ、男はみんな胸が好きだよ」

「・・・・だ、だといいけど」


何の会話だとハッとなった凛が手刀で苺の手を払う。そうして早めに髪を洗い流し、湯船に浸かる苺を睨んだ。


「そっかそっか、彼の好きな胸はそれかぁ!」


今度は凛が苺の胸を掴みにかかる。広い浴室だけに大暴れしても怪我をすることはない。いつしか胸の揉み合いに発展する2人だったが、たまたまトイレに来た明人にその会話がまる聞こえになっていることに気づいていなかった。浴室の声はよく響き、赤面した明人は大きなため息をつきながらトイレに入るのだった。

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