表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダブルソウル  作者: 夏みかん
第3章 重なる魂
21/27

代打

実際に目の前にすると怖い。相手は人間ではなく、霊なのだ。しかも通り魔であった大場同様、相手に触れれば肉体ではなく精神に痛みを感じてしまう。それをフォローするのが来武だが、果たしてどこまで通用するのか。だが5分持ちこたえられれば役目は果たせる。もう使うことはないと思っていた技を使う決意をした京也が駆けた。


「お前はあの時の・・・」


大場の記憶も持っているのか、禍はそう言った。


「そうだけど?」


突き出される禍の右手を瞬時に掴むが痛みはない。来武のフォローが効いているのだ。そのまま掴んだ腕を手前に引きつつ肘を胸に叩きつける。少し痛みが走るものの十分に耐えられるレベルだった。


「霊相手に裏雷閃光は効果ないのかな?」


呟くが、5分であれば関節技で押さえ込めばいい。そう考えた京也は掴んでいる右手をそのままに足を上げて禍のあごを狙って蹴りを放つ。この間見せた技、大蛇おろちを放つつもりなのだ。


「それは以前見た」


禍はそう言うと左手で京也の足を掴み、人間ではない力で放り投げる。普通であれば自分の状態がどういうものか、頭が上を向いているのか下を向いているのかも分からない状態なのだろうが京也は違う。瞬間的に自分と地面、そして周囲を見たことで距離感を瞬時にはじき出して地面に手を着いて宙返りしつつ着地を決めた。


「凄い!」


思わず未来がそう言うが、全員がそう思っていた。


「本当にあいつ凄いんだね」


感心したような春香の声に頷く歩だが、もちろん笑顔はない。そんな歩を苺とは反対側から抱くようにした春香はそっと歩の頭を撫でた。


「大丈夫。あいつがあんたを置いて先には死なないって」

「そうそう。木戸君、歩ちゃんの前ではむっちゃ強いよ!」


2人の励ましが心に染みる。思わず涙ぐむ歩だったがそれをぐっと堪え、戦う京也を見つめ続けた。



座り込む明人の背中に両手をつけたままじっと動かない司を見つめる凛は不安でいっぱいだった。明人には目を閉じて背中に集中しろと言ったきり2人とも黙ったままだ。何をしているかを知っているのは司と遮名だけである上に、2人は詳細を話さない。一体、何が起ころうとしているのか分からないが今は司を信じるしかないのだ。


「2分経過」


時計を見た健司がそう告げる。


「まだ2分かよぉ・・・」


泣きそうな声の京也が禍の猛攻をかわしていた。相変わらずの空間認識能力で攻撃は当たっていないが、反撃も出来ていなかった。そうしていると禍が反転し、座り込んでいる明人たちの方に向いた。そっちへ向かおうとする禍に対し、それだけは阻止すべく京也が駆けた。だがそれは禍の策だった。一瞬で振り返った禍の右拳が打ち抜かれる。しかし京也にそれは当たらなかった。大きく左足を斜め前に踏み出し、さらに右足を右に地面を叩きつける感じで踏み出した。結果として相手の拳は宙を裂き、京也は右へ移動する形でそこにいた。そのまま体を回転させつつ背中からアンダースローの投げ方で右の拳が放たれる。歯を食いしばり、悲鳴を上げる全身の骨に耐えつつもその右拳を禍のわき腹にめり込ませた。インパクトの直前にバランスを崩したこともあって威力は当初の半分に減ったが、それでも大きく吹き飛ぶ禍を見ればその技の強力さが一目でわかるほどだ。本来京也には使えない技、裏の奥義である豪天龍昇・稲綱いづな。破壊力は木戸の技の中でも1、2を争うほどのものだ。京也は反動で痛む体を押して禍に迫るとこっちを向く禍の足を払い、倒れる顔面に蹴りを浴びせる。豪天龍昇に見とれていた来武が遅すぎるフォローをするが、京也は痛みに耐えつつそのまま大蛇を極めるのだった。


「痛いけど、この間よりはましだ。これで5分もたせる!」


完璧に極まっている大蛇だが、それは人間に対してのみ有効だ。そう思う遮名だが、明人に続いて京也の身体能力にも驚いていた。明人のそれは完璧なまでの空手であろう。だが京也のそれは空手とはまるで違う。そう、確実に急所を狙ったものだ。それが4百年もの間受け継がれてきた殺人技、木戸無双流とは知らない遮名だが、小さなため息をつく。


「5分、もつかしら?」

「3分経過!」


健司の声がしたのと同時に禍に変化が訪れる。京也が掴んでいる腕が霧のようになったのだ。いや、腕だけではない、体も霧となり、京也の体をすり抜けて数メートル先に集まるとそれは再び人型を成した。


「肉体は取り込んだ2人のものだ。だが、我は思念の塊。濃さを増せば肉体は思念の一部になる」


よくわからない理屈だが、こうなっては関節技で時間を稼ぐことは不可能になった。心の中で舌打ちした京也は無理して使った豪天龍昇の反動で身体中が軋むのを感じていた。チラッと司と明人を見れば2人ともまだ動く気配はない。最悪は5分より長く戦うこともあると覚悟を決め、じわじわと間合いを詰めていく。そのまま睨み合い、時間を稼ぐようにするが禍はそうはさせないとばかりに手を伸ばした。その手を掴む京也だが、手はすり抜ける。またも霧状になった禍は京也の背後に出現して人型となった。そのまま首を絞めにかかる。


たち!」


来武が叫んだと同時に腕の力が弱まり、京也はそこから脱出した。来武の霊圧では霧状になった相手を攻撃することも掴むこともできない。こうなっては防戦一方になってしまう。


「残り1分!」


健司の声に胸の前に作った拳に力を込める歩はまっすぐに京也を見つめていた。


「千石先生を倒した技も、ダメなのかな?」

「多分・・・」


裏雷閃光も相手を掴んで放つ技。霧になられては効果はないだろう。それにあの技を京也が使うとは思えない。たとえ相手が人間でなくとも、2度と再び自分の前でそれを使うとは思えないのだ。


「頑張って!」


呟く歩だが、禍の攻撃を受けて地面を転がる京也を見て顔をしかめる。相手は京也を攻撃できるが京也は禍を攻撃できない。防戦も出来ず苦戦する京也は闇雲ながらに蹴りを放ち、拳を突き出す。だがその拳を掴まれた京也は全身を駆け抜ける痛みに絶叫しつつ、空中に投げ出される感覚の中にいた。もう意識がもうろうで、頭の下に地面があるが身動きが取れない。このままでは頭から地面に叩きつけられるという時、来武が身を挺して京也を受け止めると背中から倒れこんだ。


「らいちゃん!」

「京也!」


未来と歩が叫ぶのと同時に禍が2人の前に立った。その足が浮き、京也の頭を踏み潰すかのようにしてそれが振り下ろされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ