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ダブルソウル  作者: 夏みかん
第3章 重なる魂
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猛攻

目の前にいるのは顔すらはっきりわからない人間のようなものだ。だが拳が顔面にめり込む感触も蹴った足に残る相手の感触もあり、明人は無防備な人間をただ痛めつけているような感覚に陥っていた。不思議なことに相手はこっちの成すがままだ。防御もせず、反撃もない。ただ一方的な展開に嫌気が差してきた時だった。


「集中しろ!来るぞ!」


司の声がしたと同時に右足で放った蹴りを二の腕でブロックする禍。見えないはずの表情がニヤリと笑ったような感覚になった明人は咄嗟に離れようとする。


「無駄だ」


蹴った足を掴む禍がそれを難なく振り回す。放り投げられた明人は咄嗟に青空を見て自分の状態を把握し、地面に手を着いて着地を決める。だがその頭に向かって舞う禍の蹴り。もはや反射神経だけでブロックした明人は腕ではなく、身体全てが痛む感覚に唸り、転がるようにして間合いを取った。


「神手!痛みが!」


訴えかけた言葉も禍の回し蹴りをかわして中断された。さっきまでとは違って防戦一方になる明人はなるべく禍との接触を拒みつつ後退を余儀なくなれた。


「学習したんだ・・・」


京也の呟きに来武が反応する。確かによく見れば禍の攻撃は明人のものとよく似ていた。間合いやタイミング、どれもさっきまで攻撃していた明人のそれに酷似している。


「霊圧も増している」


数珠では防ぎ切れないのか、明人はブロックした腕ではなく全身に痛みを感じていた。


「タイミングが合わない」


舌打ちをした司はじっと動かず、金色の目で禍を追うばかりだ。一体何故何もしないのか、今日の司はどうしてしまったのか。凛は不安な顔を向けることしかできなかったが、来武はそんな司の肩を掴んだ。


「お前何してる!このままじゃ戸口は殺されるぞ!」


その言葉に苺が反応する。明人が死ぬ、その言葉に司に駆け寄る苺は目に涙を湛えているが、今の司にそれは見えない。


「お願い!明人君を助けて!」

「司君!」


凛の叫びも耳に入らないのか、司は禍から目を離さない。一方、明人は反撃もしているが、司の防御もどこへやら、攻撃も防御も身体に痛みが走る。幸いにもすぐにその痛みは消え失せるのだが、痛むという恐怖が明人の攻撃をどこかずさんにしていた。なるべく触れたくない、そういう心理が働いているのだろう。


「もっと攻撃しろ!」

「なら、この痛みをどうにかしろ!」


罵りあう司と明人。こうまで感情をむき出しにする明人は珍しく、こうまで無表情な司もまた珍しい。


「やってる!けど、タイミングが合わない」

「合わせろ!」

「やってる!」


と、明人は右足を上げる。それを見た司は明人の右足に霊圧を込めた。と、同時に舞い上がる左足。こっちには対応しきれず、右足が禍の側頭部を直撃した刹那、左足もまた頭部を蹴りつけた。左右同時の蹴りだが、左足が禍を蹴った瞬間に痛みが走る。左右に同時に蹴りを出すなどこと分からず、司がフォローしきれなかった結果だ。見たままで攻撃と防御の際に霊圧を込めるのは至難の業なのだ。


「くそ」


苦々しくそう言う司を見つめる凛とは違い、来武は司の胸倉を掴んだ。


「何考えてる!さっさとあれを斬れ!」

「できない」

「何故だ!」


司は怒りをあらわにした来武をチラッと見るも、瞳は金色のままだ。司は来武の質問に答えず、持っていた魔封剣をぎゅっと握り締めた。


「ぐはっ!」


その声に来武も苺も、そして凛もそっちを見やる。腹部に強烈な蹴りを受けて坂を転がる明人は蹴られた部分ではなく全身を走る痛みに耐えつつなんとか立ち上がった。既に肩で息をしていることから限界が近いようだと誰にでも分かった。


「くそ・・・・」


ふらふらの明人を見た禍がまた笑う。いや、実際には笑ったという雰囲気を感じるだけだが。その禍が司たちの方へと顔を向ける。恐怖に縛られる歩や春香、そして健司。その禍から強烈な黒いもやがほとばしった。


ふせぎ!」


叫ぶ来武だが、モヤは消えずに進行してくる。


ふせぎ


静かに司がそう言えば、もやは司たちの前に見えない半円のバリアでもあるかのような形で滞留していた。


「くそ・・・防ぎながらフォローして・・・・やっぱ無理か」


そう呟く凛は司の考えがわからずただ困惑する。来武も必死で防ごうとするが、徐々に半円が小さくなってきているのが目に見えて分かっていた。


「この!」


明人が禍の頭部を蹴り、そのまま肘を顔面に入れる。揺らぐ禍の体に呼応してか、もやが少しだけ後退するが、すぐにその浸食は再開された。舌打ちをした明人は前に突き出される相手の蹴りを受け止める。痛みはないがそのまま自分もその膝に肘を落とした。瞬時に禍の右足の膝が逆に曲がる。完全に折れた膝だが、構わずそれを振り上げた禍がそれを急降下させて明人の右肩に踵をめりこませた。折れた足はいつの間にか元に戻っており、明人は膝をつき、そのまま腹部に食らった蹴りを受けて大きく吹き飛んだ。


「かつて我を封じた者にはほど遠い」


2重3重に重なって聞こえる声は聞いているだけで寒気を誘う。禍はゆっくりした動きで司を見るが、司は微動だにせず禍を見つめていた。


「この者たちの憎しみを糧にして、我の力は増した。見よ」


禍はそう言い、坂の上に手をかざす。そこから走る黒いもやが坂の上にある石碑の部分に降り立ったかと思うと、凄まじい轟音を立てて石碑は砕け散った。


「多層結界ごと粉砕した?」

「だな」


来武の息を飲む言葉とは裏腹に司はどこか嬉しそうな反応をみせた。それこそが普段の司だと思う凛だったが、そこに笑みがないためにやはりいつもと違うと思う。


「わかるか?もうかつての我ではない」

「で、どうしようっての?」

「新たな地で、我は人を喰らい生きる。人が我に抱く恐怖も糧になり、我に抱く憎しみもまた糧になる。邪念のない子供の魂は美味、男を知らぬ女の魂もまた美味、人は我にとって最上の贅なのだから」

「いい趣味だ」


明人が立ち上がる。


「虫唾が走るほどにな」


そう言い、駆けた。人の魂を喰らうなど許さない。明人はただその思いを持って禍に向かって飛んだ。繰り出す右の蹴り。それを避ける禍にそのまま体を回転させて左の踵を側頭部に見舞う。さらに回転は止まず、再度右足が頭部を蹴り抜いた。よろめく禍だが、明人もまた全身に激痛を感じていた。


螺旋らせん・・・自己流で完全にマスターしたんだ」


京也が使う木戸無双流の技、螺旋。3連続の空中での回し蹴りは去年京也が見せたものだ。見ただけでこうまで見事にやってのける明人を凄いと思うが、禍はダメージもなく立ったままだ。


「我の怒りもまた力になる」


静かに禍がそう言った瞬間、半円を描いていたバリアがいびつに歪んだ。


「神手!」


明人の攻撃に同調させようとしたことが裏目に出たのか、ふせぎに回していた霊圧が低下したのだ。瞬時に苦しみだす歩や春香、苺といった女性陣。健司や京也は眩暈こそすれ、まだ痛みも何も感じていない。


「もう少し、なのに」


歯軋りする司を見つめつつ、ふらふらする体を懸命に支える凛。左手にはめたブレスレットのせいか、未来もまた苺たちほど酷い状態にはなっていなかった。


天蓋霊幕てんがいれいまく


美しい声が歌うようにこだました瞬間、黒いもやは瞬時に消えた。苦しんでいた女性陣も立ち直り、眩暈をしていた男性陣もまたそれが解消されて驚く表情を浮かべる。


「遮名・・・」


顔だけをそっちに向けた司が薄く微笑む。それ見た遮名もまた小さく微笑むのだった。



銀色の髪の少女がそこにいた。相変わらず目を閉じたままで。遮名を見たことがない京也、春香、そして歩は驚くが、彼女が持つ独特の雰囲気に飲まれつつあった。


「何をしているんです?遊んでいる場合ではないでしょう?」


遮名は少し険しい顔をしつつ集団の真ん中に立った。司は金色の瞳を黒に戻し、表情もなく肩をすくめてみせる。明人は肩で息をしつつも禍から目を逸らさない。その禍はゆっくりと遮名の方へと体を向けた。揺らぐ身体が意味することは何か。


「禍・・・」

「貴様からあの男と同じものを感じる」

「大場と久保を取り込んだのね?」


その問いかけに来武が頷くと遮名は深いため息をついた。


「で、この霊圧ですか・・・・・まったく」


目を閉じていても怒りは伝わる。その怒りを受けた司は苦笑し、それから禍を見やった。


「何故さっさとあれを滅ぼさないの?そのための魔封剣でしょう?」

「ちょっと、ね」


歯切れの悪い言い方に遮名だけでなく凛の表情も曇る。理由を全く話さない司にため息をついた遮名は禍の向こうで片膝をつく明人へと顔を向けた。


「ま、大体はわかるけど・・・無茶をしすぎてる」


遮名は疲れたようにそう言い、自分を恨みの目で見つめる禍へと顔を戻した。


「父が封じたあなたの結末を見届けに来ました。私は神地王遮名・・・あなたを封じた業火の娘」

「そうか、あの男もまた神地王家の末裔だったか・・・・」

「ご存知でしたか」

「大陸にも名を響かせるほどの家柄、だからな」

「なるほど」

「で、また我を封じるか?」

「私にその力はありません」

「みたいだな」


禍が笑う気配がする。同時に明人が立ち上がった。それを見た司はあごに右手をやると何かを考える風なポーズを取る。遮名と禍の会話を聞きながら、そんな司を見やる凛と来武。


「封じる、いや、滅ぼすのは彼です」

「ほぉ」


どこか馬鹿にしたような口調に司の口元にかすかな笑みが浮かぶが、それはすぐに消える。やはりどこかいつもの司ではなかった。


「だが、あいつは何もする気はないようだが?」

「ですね」


困ったような口調に笑う禍。


「ならば、お前もろとも全員を殺してやろう。この地にあった結界も破壊した。あとは噂に名高い神地王家の者、そして鳳凰院他、かの5つの家の者をも殺すつもりだったし、手間も省ける」


そう言った矢先、黒い風が巻き起こる。だが、その風は司たちには届かない。近づく風は霧散し、押し寄せても押し寄せても消えてしまうのだ。


「天蓋霊幕は絶対霊的防御術、その究極。破れはしません」


霊圧自体は低い遮名だが、その特殊さはそれを補って余りある。遮名の霊圧は基本的に防御に特化したものだ。その究極が天蓋霊幕となり、あらゆる霊的な攻撃を無効化できるものである。いかに強大な霊圧を誇る禍であってもそう簡単に突破できる代物ではなかった。悔しそうな雰囲気を見せる禍に向かって走る明人が飛び蹴りを見舞う。よろめく禍はすぐにその足を持って振り回そうとするが、司のフォローで痛みを感じないために瞬時に対応し、逆の足で肩口を蹴る。よろめく禍はそれでも足を離さずに明人を投げた。思わず悲鳴を上げる苺だが、明人は上手く体をひねって着地すると大きく息を吐いた。


「やりたいことは理解できるけど、無茶ね」

「今のままじゃね」


遮名の言葉にそう返す司の表情は険しい。


「この防御幕、どれくらいもつ?」

「さぁ・・・まぁ、禍相手では30分は、ってところかな」

「そっか、なら、任せていいか?」

「それぐらいであれば」


微笑む遮名にようやくここで司はにんまりと笑った。明人は痛む体を無視して攻撃を仕掛け続けている。


たち!」


ゆらめく禍に明人のミドルキックがわき腹に炸裂する。よろめく禍に拳をめり込ませる刹那、司が叫ぶ。


みだし!」


わずかな痛みを伴うが、それでもさっきよりはましだ。渾身の拳を受けた禍が後方に飛ぶが、明人はそれを追い、左右の蹴りを連続で見舞った。だが司のフォローが追いつかず、痛みが全身を縛り付ける。思わずうずくまる明人の頭部目掛けて禍の蹴りが舞った。


みだし!」


司の声と同時に明人がそれをブロックする。痛みはないが衝撃は殺せずに地面を転がった。司は舌打ちをして顔をしかめる。やはり見たまま完全に動きに同調させて霊圧を送り込むには限度がある。


「くそ・・・・・」

「完全同調、しかないわね」


遮名の声が背後から聞こえる。わけがわからず凛と来武が顔を見合わせるが、答えは出なかった。司は俯き加減で明人を見つめる。痛みがあろうとも攻撃を止めないその根性は買える。言ったからには責任を果たそうとする強い意志がそこにあった。それに明人の霊圧はわずかとはいえ、色や濃さ、そういった個々に細かく分別される魂の種類が自分によく似ているのを知っている。ならば、多少は無茶でも全てを丸く収めるためにはこれしかない。司の決意を感じ取った凛は心配そうな顔を司に向けていた。


「凛、これ、ちょっと持ってて」


そう言い、司は魔封剣を凛に預ける。ずしりとした重みが凛に伝わり、この剣の持つ重みと司の背負っている重みを感じずにはいられなかった。


「司君・・・」

「大丈夫、死にはしないから」


小さく微笑む司はいつもと同じに思える。それでも、どこかが違う感じがするだけに凛は不安を押し殺すようにぎゅっと魔封剣を抱くようにしてみせた。そんな凛を見てから、司は後ろを振り返った。


「誰か他に強いヤツいないのか?10分、いや、5分でいい!あいつを足止めできるヤツ!」


その言葉に即座に反応した健司と春香が同時に左を見て、そっちを指差した。タイミングも全く同じに。


「出番だ!京也!」

「!?・・・・・えぇぇぇぇぇぇぇっ!俺ぇぇぇっ!?」


同時に同じ言葉を発するカップルはついこの間まで2週間の絶縁があったとは思えないほどのコンビネーションだ。そしてその言葉に心底驚く京也に頷く2人は指をさしたままだ。


「行け!」

「やだよ!」

「このピンチを救えるのはお前だけなんだぞ!」

「俺がどうにかできる相手じゃないしさぁ」

「グダグダ言うな!行け!」


有無を言わせぬ言葉に尻込みをする京也だが、ふと横を見れば歩が胸の前で拳を握り、自分を見つめていた。その目に宿る光を見た京也はブンブンと顔を横に振った。


「歩まで・・・無理だって・・・怖いしさぁ」

「信じてる!」


何よりも強い言葉がそこにあった。京也を信じきって疑わない目だ。俯く京也は体を震わせていたが、やがてそれはピタリと止まった。


「絶対に!絶対に5分だけだからね!絶対!絶対っ!」


何度もそう確認しつつ渋々前に進む京也を見つめる歩は不安に押しつぶされそうになりながらもそれを顔に出さずに見送る。そんな歩の肩をそっと抱く苺は不安そうながらも笑顔を見せていた。


「大丈夫!木戸君、こういう時は強いから」

「はい!」


苺の言葉に力強く頷く歩を見た凛はそこにある信頼関係を見て自分も司を信じる心を取り戻した。何をしようとしていたのか、今から何をしようとしているのかはわからない。それでも、自分は今まで通り司を信じるだけだ。自分にはそれしかできないのだから。


「5分ね!」


しつこいほど念を押した京也が天蓋霊幕を出た。途端に襲う恐怖心、そして不安といった負の感情。明人はこんなものに耐えて今まで戦っていたのかとあらためて実感する。


「クールマン、戻って来い!」

「何故だ!」

「いいから、そいつと交代だ!早く!」


やって来る京也を見つつ怪訝な顔をした明人は怖いながらもぎこちない笑みを浮かべる京也に微笑み、司の方へと駆けた。


「らいちゃん、あいつをフォローしてやれ!」

「お前がらいちゃんって言うな!」


怒鳴りながらも前に出た来武は両手を前に出した。司にらいちゃんと言われたことに噴き出す未来を睨みつつ、来武は京也の動きに集中する。すると入れ違いに戻ってきた明人は息を切らせつつ司の前に立った。


「何をする気だ?」

「いいからそこに座れ、時間がない!」


そう言って無理矢理自分の目の前に明人を座らせると、自分も背後に回ってしゃがみこんだ。


「凛、俺の体、頼むな」


にんまり笑う司に頷くが、意味がわからない。とにかく司を信用するしかないと思う凛は真剣な目を司の背に向けた。


「遮名」

「わかってる」


全てを言わずとも今からすること、そして2人がすべきことは把握している。


「まったく・・・仲間を危険にさらしてまですることかな?」


遮名は苦笑し、閉じたままの目を禍と対峙する京也へと向けるのだった。

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