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ダブルソウル  作者: 夏みかん
第3章 重なる魂
19/27

開戦

地下鉄の事件のせいか、ある程度予定が狂うのは仕方がないと思う。午前中の生放送に出る予定だった安藤レオナは本番中のスタジオの隅にある椅子に腰掛けていた。あと5分もすれば出番なのだが、果たして予定通り呼ばれるかどうかはわからない。慌しく駆け回るADを横目に見ながら入ってくる情報を頭の中で整理していた。地下鉄のトンネルに穴があいているということ、そして乗客乗員の安否は不明。事故か、そう思うレオナがテーブルの上にあるペットボトルのお茶を手にした時、ヒソヒソと話をするテレビ局の社員らしき2人の男の会話が聞こえてきた。


「なんかさ、事故のあった真上で変なものを見た人が多いらしいよ」

「変って?」

「黒いモヤみたいなのが上空へ上がったとかなんとか」

「何そのオカルトめいた話」

「だろ?」


それを聞いたレオナの表情が途端に曇る。去年、心霊体験を2度して以来、そういうことには敏感だ。だが、だからといってそれらが怖いかといえばそうではない。レオナには心強い味方というか、相談相手がいるからだ。ほのかな想いを寄せながらも決して叶うことのない想いを抱くその相手が。


「そんな大きなオカルトなら、彼が動くかな」


そう小さく独り言を言った矢先、レオナの元にADが駆け寄ってきた。5分遅れとなるが出番に変更はないことが告げられる。頷くレオナはお茶を飲み、そのまま事故の情報を得るべく耳をすますのだった。



突然真下、地面の下で起こった轟音と地響きに通行人や車が止まる。地震かと思ったがそうではなく、それはわずか数秒で収まった上にこの狭い周辺のみで起こったことらしい。その証拠に向こうの通りなどでは人は立ち止まってもいないし、普段と変わりがないからだ。サラリーマンやOLが地面を見つめていると、ちょうど道路と歩道の境目辺りから黒い煙のようなものが染み出てくるのが見えた。地面の下で何が起こっているのかわからないが、これは煙なのかと騒然となる。だが煙とは少し違う、言葉にしにくいが煙ではないと直感的に誰もが思っていた。その煙はひょろひょろと地面から出て、その場に滞留する。この時点でもう煙ではない。ざわつく人々の様子を見ているかのように滞留する煙はやがて霧散して消えた。その直後、その場にいた12名及び車の中にいた8名が昏睡状態に陥った。すぐさま救急車が呼ばれ、辺りが騒然となる中で地下鉄の事故が知らされ、地下鉄車内の人々も皆昏睡状態に陥っている事実に警察や病院関係者が恐れを抱くことになるのだった。



結局、予定より20分ほど遅れての出発になった。女性陣のもたつきが主な原因だったが誰も何も言わず、言い出した本人である司も文句を言わずに早々と玄関先に立っているだけだった。ただ、いつもと少し様子が違う司に気づいていたのは凛と来武、そして明人だけだ。あまり笑わず、どこか素っ気無い。その原因が昨夜の自分にあるのかと思う明人はいつもにも増して無表情になっていた。確かに無理を言ったのかもしれない。だからといってそれを態度に出すような男だとは思っていなかった。なんだかんだで現地に行けば、彼らの魂を救う努力はしてくれるのだと心のどこかで信じてもいた。だが、司にその意志はないようだ。めんどくさいからさっさと斬って終わりにしたい、そんな空気を感じ取っていた。全員が玄関に出たところでそれを確認した司が歩き始める。だが向かう先は西扇ではない。駅とは正反対の方向、山の方へと向かったのだ。


「司、なんでこっちなわけ?」

「そうだ、相手は西扇だろう?」


未来と来武の言葉にかすかに顔を動かすが、歩みは止めなかった。


「もうそこにはいないよ」

「だね」


司に賛同する美咲。この兄妹だけが相手の行き先を知っているらしい。


「どこ?」


苺が美咲にそう問えば、美咲は山の方を指差した。そっちにあるものに気づいた来武、凛、そして未来が顔を見合わせる。


「廃村・・・か」


ぽつりとそう呟いた明人の言葉に全員が息を飲む。来武や凛たちにすれば肝試しを行った場所であるという認識、明人や健司たちにすれば猟奇殺人事件があった場所であるという認識だ。どちらにしてもあまりいい印象はない。特に最近では5人も死んでいる場所だけに、どうにも不気味なのだ。だが、そこに封じられていたものが何故忌まわしい場所に戻るのか、それが疑問だ。久保の体を利用して結界を出たのなら、わざわざ結界のある場所に戻る意味がない。ヘタをすればまたも結界内に取り込まれる恐れもあるからだ。


「何故、マガ、だったか、それがあの場所に戻る必要がある?」


明人は司の横に並んでそう聞くが、司は薄い笑みを浮かべるだけで明人の方を見ようとしない。意図的なのか、それともいつものことなのかはわからないが。


「因縁の場所だから、かな」

「因縁?」

「以前の自分とは違うって、証明したいんだろうさ」

「どういう意味だ」

「行けばわかるさ」


司は笑みを消してそう言った。その違和感に凛が眉をひそめるが、今は何も言わない。相手が相手だけに司も緊張しているのかと思うが、どんな時でも、それこそ絶体絶命の時でさえも余裕の笑みを浮かべている司を知っているだけに、凛の中で不安が大きくなっていった。そうして森の入り口に入ると、美咲が立ち止まった。本来こういうことに首をつっこまず、危険な場所には寄り付かない美咲だが、今日は特別だ。何の能力も持たない者が多いだけに自分でも出来ることがあると信じての同行だった。その美咲の顔が心なしか青ざめている。


「大きい、濃いのが2ついる・・・・」


それが禍であり、通り魔である大場であることを全員が理解した。歩も苺も不安そうにする中、司はさっさと森の中に入っていった。朝の日差しは明るく、そして眩しい。なのに森に入った途端に薄暗く感じるのは何故か。これこそ霊の成せる技というものなのかと思う明人が目の前に現れた黄色いテープで覆われたフェンスへと目を向ける。おそらく、この先に禍に取り込まれた久保と通り魔となってその久保を追っていた大場がいるはずだ。司はフェンスをくぐり、向こう側に立った。異様な空気を感じた来武が苦い顔をするが、かまわず司は奥へと進んで行く。仕方なく来武に明人、凛が続き、美咲に寄り添う形で残りのメンバーがフェンスの向こうに向かった。そのフェンスを越えた途端、軽い眩暈すら感じる。


たち


静かにそう言う司の声と同時にその眩暈も消えたが、逆に不安が大きくなってしまった。やはりここには来てはいけないのかもしれないと思うが、それはもう後の祭りだ。向かいあう4つの壊れた家の前、坂の上と下にある黒い2つのモノ。上に立つのが大場だとわかるが、下にいる者の異様さ。上半身は人間だ。しかも裸。そして異様なのはその下半身である。蛇の胴体と頭部がそこにあった。向かいあう人間同士をよそに、蛇の顔がゆっくりと司たちの方へと向いた。黒と白、そして灰色が混ざり合い、明滅するかのように変化するその胴体。黒であり、赤でもある目。禍々しいから禍と呼んだ遮名の父親である業火の言葉は正しいと思えた。思わず凛は司に駆け寄り、未来は来武の腕を掴む。明人は全身を流れる汗を感じつつもその蛇の目から逸らせない自分をなんとか奮い立たせる。美咲はガタガタと震え、それに感化されてか、健司も春香も、そして歩と京也もまたその場を動けずに恐怖で金縛りにあっていた。


『久保・・・善行』

『和人・・・』


お互いに睨み合い、憎しみの声を上げる。低い声は人の発するものとは思えず、苺は思わず耳を塞いだ。だが、その行為が無駄であることを直後に思い知る。


『久保ぉぉぉぉ!』

『和人ぉっ!』


絶叫は恨みの言葉だ。直接頭の中に響いてくるお互いの名前に込められた強烈な恨み、憎しみ。声を聞いただけでそれが伝わってくる怖さを感じつつ、司が一歩前に出た。手にした魔封剣を抜く素振りはまだない。


「神手!2つが1つになる前に倒さないと手に負えなくなるかもしれんぞ!」


動きを見せない司にそう進言するが、司は突っ立ったままだ。そんな司の横顔を見る凛はまったく笑っていない司を見てますます不安を募らせる。


「司君?」


凛の声にそっちを見るが、すぐに前を向く。やはり笑みはそこになかった。


「まずいぞ!」


来武がそう叫んだのと蛇の頭部が大場の方に向いたのはほぼ同時だった。久保の上半身をそのままに下半身の蛇が勢いよく大場に迫る。だが大場は立ったまま久保を恨みと憎しみの目で睨んでいるだけで避けようともせず、大きく口を開けた蛇の頭部が真上から迫ることすら気づいていないのかそのまま動く気配もない。

うち!」


動く気配を見せない司に替わって来武が霊圧の弾丸を禍に打ち込むが、やはり霊圧の差が大きすぎて弾かれてしまった。


「司君!」


悲壮な凛の声も無視してじっと様子を伺っている司の口元が引き締まる。その瞬間、大場は蛇に丸呑みされていた。同時に久保が絶叫し、周囲に呪怨の声がこだまする。来武と司以外の全員が耳を塞ぐが、効果はなかった。先ほど同様、直接脳にそれは響いてきたからだ。目も閉じていた面々がそっと前を見ると、そこにいるのは2人ではなく、1人だった。しかも完全な人型を成している。蛇はいない。


「肉体を得た感想は?」


いつもの感じでそう問いかける司だったが、やはりそこに笑みはなかった。


「悪くないね」


それは久保の声か、大場の声か。はっきり聞こえる声は人が発したものに間違いない。ただ、目の前に立つ人物は久保でもなければ大場でもない。顔もはっきりせず、どこかぼやけた感じに見えている。裸なのか服を着ているのかもわからないが、人であることだけが認識できている状態だ。


「恐ろしいほど高く、濃い霊圧だぞ」


もう自分ではどうしようもないレベルの霊圧に来武は自然と一歩下がっていた。笑ったかのように見える禍から染み出てくる黒いモヤは、司の手前で霧散している。そのことからも今はまだ司の霊圧の方が上だと認識した来武はほっとしていた。


「さて、クールマン・・・出番だぞ」


司の口から出た信じられない言葉に全員が息を飲む。クールマンとは明人のことで、出番とはどういう意味なのか。言われた本人ですら驚く顔をしているだけに、他のみんなの顔はもっと驚いた顔になっていた。


「昨日言ったよな?あんたにも責任を負わせてやるって」


確かに司はそう言った。だがその意味はもっと違うものだと思っていた明人は怪訝な顔をするしかない。


「助けたいなら、それ相応のリスクが伴う」

「分かっている」

「後ろにいる連中を守りながらあいつを攻撃して2人の良心を見つける。ただ、それだけだ」


いとも簡単にそう言うが、昨日、自分が言ったことである。言った責任は果たすと意思を目に宿らせた明人が司に並び、そっちを見やった。


「その剣を使わしてもらえるのか?」

「無理だ」


当然ながら剣を貸してもらえると思っていた。まさか霊を相手に素手で戦えというのか。責任を負わせるとは命を捨ててみせろということなのかと思う。


「残念ながらこいつは俺にしか使えないからな」


そう言い、司は両手の数珠を外す。凛は司の意図が掴めず戸惑うばかりだ。今まではどんな状況でも司を信じてきた。そしてそれは間違いない結果を生んだ。しかし、今回のこれはあまりに異常だ。なんの霊的な力も持たない明人に何をさせようというのか。


「金を右に、銀を左につけろ」


言われるままにそうした明人がまじまじと数珠を見つめる。何のことはない、ただの数珠だ。


「そいつは俺の霊圧が込められている。こっちからもフォローするからお前はただあいつを叩きのめせばいい。霊だろうが今のお前には殴れる」

「ダメージも与えられる、と?」

「それはしらない。ただ殴って痛めつければいいさ」


お互いに無表情でそう言い合い、司と明人は同時に前を向いた。


「明人君!」


悲鳴に近い苺の声を聞きながら、明人は駆けた。そのまま即座に禍の即頭部に蹴りを見舞う。数珠のおかげか、以前のような痛みも感じず、相手は吹き飛んでいった。効果があることに驚きつつも明人は構えを取る。


「司君!どうしたの?何を考えてるの?」


凛の声を聞きながら、司はそっと目を閉じた。次にそれを開けば、瞳が金色に輝いている。


「司君・・・」


司は黙ったまま前を見据えている。金色の目は霊圧や魂のみを見る霊視眼だ。つまり今、司が見ているものは魂や霊圧といったもので明人の姿も服を着た白いもやのようなものでしかないのだ。


「インテリ、ふせぎを張りつづけろ」

「やっちゃいるが・・・今日のお前は変だぞ!」

「変は前からだろ?」


自分で自分を変と言い切った司に笑みはない。ただ何かを見据えるようにじっと禍を睨んでいた。

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