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ダブルソウル  作者: 夏みかん
第2章 すれ違う魂
16/27

因果

勇者ヤマトは失われた大陸にある巨大国家テンテイで数々の魔物を狩ってきた20歳の男だ。そのヤマトのパートナーで、恋人でもある魔法使いルリはかつての仲間であり、裏切り者となった魔王ホムラを追ってテンテイ中をを旅していた。やがてホムラの城にたどりついたヤマトはホムラの力に押され、ルリを守るために禁断の技でホムラを倒すもののその命を散らしてしまう。嘆き悲しむルリに1万2千年後に会おうと言い残し、ヤマトは死んだ。だが、思念体となったホムラは生きていた。ホムラは禁じられた魔術を使ってヤマトを追い、それを知ったルリもまた2人を追うように転生した。そして現代、大和、瑠璃、そして焔は前世の記憶を取り戻しつつ世の中の不思議なモノによる不可解な事件を解決していくのだった。やがて全てを思い出した親友の焔は瑠璃をさらい、大和がそれを追う。不可解な事件を起こしていたモノの黒幕が焔だと知った大和は果敢に戦いを挑み、自らの特殊能力と記憶を失いながらも焔を倒す、それがテレビシリーズでの物語だった。その後に公開された劇場版では、焔の意識体が他の男子に憑いて再度瑠璃を巡って対決し、記憶と力を取り戻した大和が勝つのだ。そのあらすじが書かれた本を読んでいた遮名はあまりにチープなその設定に苦笑しつつ、アマツの伝承をよくここまで歪曲したものだと嫌悪感を抱いた。出雲の地で見つけた古い文献を元に物語を構築させたプロデューサー山畑は地元でも悪さばかりをしていた男だ。それが今や大手テレビ局のプロデューサーとは世も末だと思う。伝承をよく知る遮名にしてみれば、司とカグラの戦いの全てを知りたいと思いながらも刃こそがアマツだと信じていたこともあってどこか複雑な気分だ。この世の中で最強の霊滅師、それが刃だと信じて疑わなかった。


『アマツは神手司という少年だよ』


そう聞かされた時のガッカリ感、そして司を調べた際の絶望感は忘れようがない。そんな司に昨夜初めて会ったが、確かに刃の言うとおり司の中にアマツの片鱗を見ていた。だが所詮は生まれ変わり、アマツとは似ても似つかなかったことが残念だ。そう思う遮名が本を閉じてテーブルに置くとドアの方に顔を向ける。口元を緩めながら立ち上がるのとインターホンが鳴らされるのとはほぼ同時だった。遮名は外にいる者の確認もせずにドアを空け、目を閉じたまま小さく微笑んだ。


「来ると思っていました」

「そりゃどうも」


にんまり笑う司に向かって微笑む遮名。由緒ある神地王家の娘と前世が神地王家の祖である男。遮名はそのまま来武を見て、それから凛を見やった。


「アマツにミコト、そしてカグラ・・・相容れない3人がかつてのように一緒にいるのはどこか変ね」

「かもね」


笑ったままの司を見て遮名は小さく声を上げて笑った。声も顔も少女だが、その仕草は年相応の大人の女性のものだった。



突然現れた8人の男女をためらいなく部屋に入れた遮名は備え付けの木の椅子に腰掛けた。大きなホテルの一室とあって、大人数になっても狭い感じはしなかった。ベッドルームとは別に部屋があり、今、9人はそこにいた。実際に会った明人と司を除いては、遮名を見るのは初めてなだけにその異様な容姿に目がいってしまう。銀色の髪は肩甲骨まで伸び、目は常に閉じられている。見た目はどう見ても10歳かそこらだ。だが、美少女であることははっきりと分かった。


「改めて自己紹介をします。私は出雲大社の奥に位置する、分かりやすく言えば表に出ることはない奥社の巫女をしています、神地王遮名かんじおうしゃな

「凄い名前ですね・・・」


健司は自分の呟きに小さく微笑む美少女を見て顔を赤くする。決してロリコンではないのだが、それでもこの反応は正しいといえよう。見た目にはない妖艶さを持っているからだ。


「見かけはこうですが、まぁ、あなた方の倍近い年月を生きています」


あえて年齢をぼかしたところに女心を感じてしまう。そんな遮名は決して目を開くことなく全員を見渡した。その顔が来武を捉えたために一歩前に出る。


「自分は未生来武・・・神地王家とは前世で浅からぬ因縁を持つ者、といったところです」

「存じております、幽蛇宮神楽ゆうだぐうかぐら、その生まれ変わりである未生来武殿」

「やはり高い霊力の持ち主・・・前世すら見通せる、というわけですね?」


来武の驚きも涼しい顔で笑み、そして次に凛を見た。その顔が一瞬切なさを見せたが、凛はかまわず前に出る。


「桜園凛です」

「初めまして。あなたにはお会いしたいと常々思っていました。竜王院命りゅうおういんみこと、その生まれ変わりの人」

「りゅうおういん?」

「伝承については後ほど・・・しかしまぶしい輝き・・・何故あなたが伝承にある光天翼こうてんよくを持っているのか・・・」


苦笑し、そこでゆっくりと司を見た。その司は部屋の窓から見える景色を堪能している。地上22階から見える景色は格別なのだ。


「でも未生殿と桜園殿の助力がなければカグラの邪念は倒せなかった。神地王家に課せられていた宿縁を絶っていただいたお礼を言わせてください、ありがとう」


深く頭を下げる遮名を見て困った顔を見合わせる来武と凛。そこでようやく景色から遮名へと顔を向けた司がそのまま大きな窓にもたれるようにしてみせる。


「宿縁って?」

「それに関しても後ほど」

「あっそ」


そんな司にくすっと笑う遮名。伝承に残るアマツの人柄とはまるで正反対の司がその生まれ変わりだとはこうして会ってみても信じられないほどだった。だが、司は間違いなくアマツの生まれ変わりなのだ。その後は苺、未来、健司と自己紹介を終え、次に明人の番となる。そんな明人が一歩出た時、遮名は何故か司の方を一旦見てから再度明人を見た。


「戸口明人です」

「あなたの霊圧・・・色、質、そして濃さ・・・・神手さんと似ている」


その言葉に美咲が頷くようにするのを未来が見ていた。そんな美咲の反応も見えていたのか、遮名は美咲の方へと顔を向けた。


「私、神手美咲、司の妹です」

「あなたもまた素晴らしい霊力の持ち主ですね・・・さすが司さんと魂を分けた兄妹」

「でも遮名さんには負けるけどね」

「そうですね」

「霊力ほぼ100に近い90・・・霊圧は・・・30ってとこか」


司はそう言い、にんまりと笑う。美咲をも超える霊力、そして不思議な霊圧は数値的に低いが。圧倒的存在感をもってそこにあった。


「さて、いろいろ皆さん、言いたいこと、聞きたいことがあるのでしょうが、今日ここに来られた目的を果たしましょうか・・・禍のことでしょう?」


その遮名の言葉に全員が頷いた。


「あれはかつて大陸からやってきた邪悪な蛇の霊です」


その蛇の霊は土地に住み着き、住人の霊圧を吸って生きてきた。やがて大きく霊圧を吸収した蛇は自分を退治しにきた霊能者を喰らう。それによって上半身が人間で下半身が蛇、しかしながら尾の先には蛇の頭部がついた邪悪な存在となってしまった。こうなってはどんなに高名で力の強い霊能者でも祓えず、ついに村は廃村となった。そうして近くの町にまで出るようになった悪霊を退治せんと立ち上がったのが遮名の父である業火だった。神地王家の中で久しく現れた高い霊圧を持つ業火は封神十七式を使ってどうにか廃村に封じることに成功する。そしてその地に多層結界を張って厳重に封印したのだ。万が一それを破って這い出てこようとも、多層結界によってそこから出て行けないように2重の策を講じて。そんな業火はそれに全ての霊圧を使ってしまったことで霊能者としては霊力で霊を見ることしかできなくなった。それが60年前、業火が20歳の頃の話だ。


「ってことは、あんたその父親が30過ぎの子か」


話の本筋を聞いていたのかと思う司の言葉に全員が閉口するが、未来は冷静に遮名の年齢を計算していた。やはり30代で間違いない。ならばどうしてこんな外見なのか、何故目が不自由なのか。


「とにかく、禍は外に出た。肝試しに来た久保善行の中にあった負の感情を利用し、そして大場和人の嫉妬と憎しみを利用してお互いをぶつけあい、より強大な力を得ようとしている」

「強大、か」

「でも所詮は蛇の霊・・・カグラのようなことにはなりませんよ」

「魔封剣、ですね」


来武の言葉に頷く遮名が司に顔を向ける。その司は珍しく笑みを浮かべることなく窓の外の景色を見ていた。凛はその表情から何かを悩んでいる、あるいは決断をしかねているような気配を感じ取っていた。


「明日には動くでしょう・・・大場の中の憎しみ、久保の中の怒りは頂点に達しつつあります」

「場所がわかれば・・・」

「高く邪悪な霊圧です、すぐにわかります」


遮名はそう言い、再度司の方へと目をやる。その視線、といっても目は閉じたままだが、それを感じた司は遮名を見て、それから小さく微笑んだ。遮名はその笑顔に夢の中で見たアマツのそれを重ね合わせる。


「霊圧を持たない者は行かないほうがいいでしょう。私の話はこれまでです。未生さん、桜園さん、そして司さんは残ってもらえますか?」


その言い方はそれ以外の面々は帰れと言う意味が込められていた。


「未来は残します」


有無を言わさぬ来武の言葉に遮名は苦笑して頷く。それを見て不満そうな顔をする健司と苺をよそに明人はさっさとドアへと向かった。仕方なく2人もそれに続き、美咲も一緒に外に出ようとした。


「美咲はいてもいいよな?」


まるで今から話す内容が分かっているかのような司の言葉に遮名は驚きつつも頷く。美咲は苺に困った笑みを見せ、苺はそんな美咲の背をそっと押した。


「帰ったら聞かせてね」


耳元でそっとそう言った苺に微笑み、美咲は部屋に戻った。3人が消えた部屋は一気に広さを取り戻したように思えた。



ホテルを出た3人が時計を見れば午後3時を回っている。部活が何時までかはわからないがとりあえず二見中央まで戻ることにして健司が春香にメールをする。するとちょうど部活が終わったようですぐにメールが返ってきた。そのまま京也にもメールをすれば歩の部活も終わったようで春香共々合流する運びとなった。場所はいつものドーナツ店だ。電車に揺られつつ健司と苺が遮名について話す中、明人は景色を見ながらあの3人の前世について考えていた。彼らに会うまで、いや、この通り魔事件に遭遇するまでそういった常識外れな出来事があるということに対して認識がある程度だった。だが、司や美咲の能力を見れば、漫画の中でしかないようなことが平然と起こっていると事実を知った。科学的な根拠だけが世界ではないと思いつつ、ああも常識を逸した者たちがいることを心のどこかで馬鹿にしていた自分がいる。年末のエクソシストの番組でさえ、興味はあれどトリックめいたことだと思っていたのだ。


「神手司・・・」


誰にも聞こえないほどの小さな声でそう呟く。異能の力を持ち、そして心の壊れた男。常識などあってないような考えに、常に笑っているあの不気味さ。何を考えているのか全く理解できないあの男がどうにも気になってしまう。遮名の言うとおり明日で全ての決着がつくのであれば、今夜のうちに聞いておきたいことがある。それは事件のことではない。神手司という男の本心である。認めたくない存在、だが気になる存在。はっきり言って嫌いな人間だが、どうにも興味が惹かれてならないのだ。


「これも宿縁というものなのか」


ため息混じりにそう呟いた明人は遠くを行く白い車を目で追いながらもすっきりしない頭の中に少々の苛立ちを覚えるのだった。



駅に着き、ドーナツ店に入れば夏休みのせいかレジは混雑しているものの席は空いていた。いつもの場所に座り、苺と健司が買いに向かう。一応2個でやめとておけと苺に言ったが、素直に従うかどうかは疑問だ。そう思う明人は昨夜の勘違いのことを思い出して1人赤面しつつ窓の外に目を向ける。と、そこには自転車を止める京也がいて、自分に気づいた歩が小さく手を振っていた。そのまま店の入り口に顔を向けるとちょうど春香が入ってくるところだった。


「で、どうなったの?」


来て早々の言葉がそれとは、苦笑する明人はカップルで入ってきた京也と歩が健司たちに合流するのを見ながら口を開いた。


「明日で全てが終わる、はずだ」


明人らしからぬ曖昧な表現が気になるが、明日は部活がないためにラッキーだと思えた。そんな春香の表情から心の内を読んだ明人が苦笑するが、春香は気にしていないようだ。


「来るなと言われたよ。行くのは神手と未生さんだ」

「でも行くよね、あんたは」

「ああ」

「なら、みんな一緒だね」


その言葉にあえて答えず、無表情でレジの方を見やった。何も言わなかったということは認めたということだろう。春香は小さく微笑みながらトレイにドーナツを乗せてやって来る苺と健司を見やった。


「おう、お待たせ」


春香の前に2つのドーナツとアイスミルクティーを置く健司がその横に座った。苺は言いつけを守ってドーナツ2個に炭酸のジュースを買っていた。数が少ない分を炭酸で補おうという魂胆だ。その苺は明人の隣に座りながらドーナツを1個置き、そしてアイスコーヒーを置いていく。


「でもあの遮名って人、なんかこう、怖かった」

「遮名、ねぇ」


珍しいにもほどがある名前に春香がそう唸るようにいいつつ飲み物を口にする。部活で疲れていることもあって早々にドーナツ1個が目の前から消えていた。


「進展、あったみただね」

「ああ」


苺の隣に座る歩を見つつその前に腰掛ける京也はそう言いながら興味深々といった顔をしていた。とりあえず6人が揃ったことで今日のことを話して聞かせる。通り魔のこと、そして遮名のこと。前回の事件とうって変わって奇妙なことばかりに京也も歩も、そして春香も言葉に出来ない様子だった。


「健司が狙われる心配はもうないんだ?」

「そう。でも、それは嬉しいけど・・・久保さんが・・・・」


司の言い方、そして遮名の言葉からも久保も大場ももう死んでいるに等しい状態であることは間違いない。明日には2人ともが禍とともに祓われるのだ。それはすなわち、永遠の別れを意味する。


「でも、よくわかんない話もいっぱいだったよ?アマツとか、まふう・・・なんちゃらとか」

「神手たちの前世、そして魔封剣だ」


明人はそう言ったが、そのまま黙り込んだ。これは今回の事件に関係ないために話す必要はないという態度だった。だからか、あえて京也たちもそれ以上何も言わない。


「で、その神手君たちは?」

「遮名さんに言われて残ってる・・・多分、前世の話だと思う」

「前世かぁ」


興味ありそうな歩の声に苺が反応し、2人はテレビドラマ1万2千年の恋の話に発展させていた。その横では京也と春香に健司がホテルでの話をしていた。


「とにかく、明日だ」


明人がそう言い、苺と歩も明人を見る。全員が来るなと言われても行くつもりの顔に珍しく明人が微笑み、これで全員の意思がここに統一されたのだった。そうしていると携帯が鳴る。それは苺の携帯であり、相手は美咲だった。どうやらあっちの話も終わったようだ。


「んー・・・今6人だよ」


苺が何やらそう話すのが聞こえるが、内容までは伝わってこない。そんな苺よりも食い気に走る春香と歩がドーナツを食べているのを見る健司と京也。


「あのさ、3人も神手君家に来るかって」


その言葉に食べるのも中断した春香と歩が大きく頷く。


「こんな大人数、泊まれるのか?」

「さぁな」


表情のない明人はこれで司と2人きりになれるチャンスが減ったと思い、内心少しがっかりしていた。そんな明人をチラッと見やる苺の微妙な表情を京也は見逃さない。


「リビングが男子になるけど、全員泊まれるって!」


嬉々として喜ぶ春香と歩を見て苦笑する京也だが、どうにもさっきの苺の表情が気になる。だがあえて何も言わず、飲み物を口にした。


「ガールズトークに花が咲くなぁ」

「明日決戦だぞ?」

「戦うわけじゃないし」

「だいたい何だよガールズトークってよぉ」

「男子禁制だからね」


健司と春香のやりとりを聞きつつ明人は女性陣がそのガールズトークとやらに入ったタイミングを見計らって司と話そうと決める。


「何かあるの?」


その表情を見た京也の鋭さに苦笑しつつ、明人は静かに首を横に振った。それを見た京也もまたあえて何も言わずにいる。


「でも凛さんと一つ屋根の下の暮らしも今日までかぁ・・・」


心底残念そうにそう言う健司の言葉を聞き逃さない春香。だがここはあえて黙ったままでいる。


「あー、超美人だしね」


賛同するような京也の言葉にムッとした顔をする歩。全く気にせずドーナツを食べる苺。そして春香と健司、そして京也に注目する明人。


「美人だし、胸も超デカイし・・・・それに風呂上りなんかもう・・・・・・・・たまらんっ!」


その最後の語尾がやや悶絶気味だったのは春香の肘が健司のみぞおちにめり込んだせいだ。呼吸もままならずテーブルに突っ伏す健司の口の端に白い泡が見えた。


「京也も・・・楽しみよね?」


冷たい口調に冷たい目をした歩の言葉に京也は大きくブンブンと首を横に振った。

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