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ダブルソウル  作者: 夏みかん
第2章 すれ違う魂
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理由

京也は学校の門の前で自転車を止めた。制服姿で登校だが、補習などといったもののために来ているのではない。春香と歩のことが気になるのと、学校の図書室で本を読んでいたほうが気が紛れるからだ。それに、京也はまだ進路を決めかねている。大学に行くのもよし、専門学校に行くのもよし。両親は好きにすればいいとは言ってくれているものの、したいことが見つからないから大学へ行くというのもまた何かが違うような気がしていた。明人にしてみれば将来的に会社を興したいという気持ちもあって国立の大学を受験することを決め、苺にしても春香にしても大学でいろいろ経験したいと気持ちがある。健司は就職を目指していたが、専門学校に行くことを決めていた。結局、まだ2年生の歩を除けば進路がはっきりしていないのは仲間の中で京也だけになっている。それもあって焦るのだが、それでも自分のやりたいことを明確にしたい気持ちがあり、悩みも大きくなっていた。そんな京也が図書室へ向かおうとした時、廊下の向こうからやってくる紀子の姿を見て表情を緩め、手を振った。


「木戸君が夏休みに学校なんて・・・何やらかしたの?」

「手厳しいねぇ・・・暇つぶしだよ。浅見さんこそ」

「私は・・・まぁ、呼び出し?」


その言い方に苦笑する京也はそのまま紀子を図書室に誘った。中は風が通ることもあって涼しく、また壁に取り付けられた3つの扇風機もあって暑さは随分とましだった。人のいない図書室に座る2人は向かい合わせになっていた。


「で、呼び出しって?」

「あー、うん・・・どうしても千葉の大学じゃないとダメなのかってね」


そう言い、紀子は小さなため息をついた。そのため息が教師の言葉によるものだけでなく、他の意味も含んでいそうな気がした京也だが、それを口にせず小さく微笑んだ。


「行きたい理由があるんでしょ?」

「まぁ、ね」


それ以上は何も聞かない京也を京也らしいと思う紀子は優しい笑みを浮かべてみせた。こういう部分は京也の中でも好きな部分だ。もし、8年前に何かが違っていたら、多分、この人を好きになっていたと思う紀子だが、だがそれは絶対にそれはありえない。あの8年前の出来事を否定したくないからだ。


「そこに行く理由は凄く個人的な理由だし、先生に言うことでもないから・・・でも、納得いかないみたい」

「浅見さんは優秀だもん。他に行けるいい大学があるのにって思うんだろうね」

「かもね。でも、学校のために行くわけじゃない。ずっと行きたい大学だったし、行かなきゃいけない・・・」


そこで言葉を止める。行かなければならなない理由がそこにある。会わなければならない人がそこにいる。だが、それはたとえ親友の苺であっても、いや、親であろうが誰であろうが、それを口にすることは許されない。


「じゃぁ、進路は決まりだね」


そこまで聞いておきながら余計な詮索をしない京也は微笑んだ。一瞬目を伏せた紀子だったが、同じように笑顔を返す。


「で、木戸君は?」


不意にそう言われた京也は困った顔をしつつ、風の吹いてくる窓の方へと頭を巡らせた。


「どうしていいか、わかんなくてね」


そう言い、京也は自分の胸の内を素直に明かした。大学へ行くべきか、何か専門的な学校へ行くべきか。就職は頭にないが、かといって浪人という選択肢もない。やるべきことが見つからない自分を情けなく思うという素直な気持ちを吐き出した京也は少しすっきりした顔になっていた。


「悩みの多い人だね」


くすくすと笑う紀子は可愛い。あの桜園凛には負けるが、だからといって劣るとも思えない。そんな紀子の笑顔を見ても心がときめくこともなければ照れることもない。それが木戸京也であり、紀子が唯1人気を許せる男子でもあった。


「自分がしたようにすればいい、って言いたいところだけど、結局、決めるのは木戸君だもんね。ヘタなことは言えないし、言わないでおく」


それがアドバイスになったかどうかはわからない。だが、京也の表情は幾分か安らいでいた。


「こんなことなら、種馬でも良かったかもしんない、とか思ったり」

「知らないよ?一枝さんに怒られても」

「だね・・・冗談だけど」

「うん、わかってる」


そう言って笑いあった。人のいない図書室だから出来る大笑い。その後は他愛のない話をするが、どうやら紀子は明人たちが通り魔事件に関して首を突っ込んでいることは知らないようだった。苺も何も言っていないのか、それとも言う暇がないだけで後日耳に入るのかはわからない。ならばそれまでは黙っていようと思う京也だった。そうして30分ほどの時間を過ごし、紀子は帰る準備をする。紀子に話をしたことで楽になった京也は来て早々ながら帰る気になっていた。一緒に図書室を出て廊下を歩く。


「木戸君、勉強どうするの?」

「もう帰ろうかなぁ、とか思ったり」

「なんか将来をナメてますね!」

「・・・申し訳ない」


ガックリと首を垂れる京也を笑う紀子はすぐに帰らずにジュースに誘う。それに賛同し、2人は体育館のそばの自動販売機に向かった。ここの自動販売機が校内で一番種類が多いのだ。


「奢るよ、何でも買って」

「・・・・・・・・じゃ、そうするね」


一瞬ためらうようにしてみせた紀子だが、ここは素直に応じる。大きな紙コップの炭酸ジュースを買う紀子に対し、京也はアイスコーヒーを購入した。そのままそこにある椅子に腰掛けた時、甲高い声がこだまする。


「木戸せんぱぁい!」


その声に京也は能面のような顔になり、それを見た紀子が笑いを堪える。


「夏休みなのにぃ、来てたんですねぇ!」

「あー、うん・・・・でももう帰るけどね」

「えー」


不満そうに上目遣いに見てくるその女子生徒は波賀心愛はがここあ、今年選ばれたキューティ3の1人だが、わずか数ヶ月でその性格の悪さが露呈し、現在はその立場を認める者は少なくなっている。緩くウェーブがかった茶色い髪は肩までつき、大きく黒目がちの瞳も愛らしい。ぱっと見た目はキューティ3に選ばれるほどの可愛さを持っているが、京也にしても健司にしても、それでも歩の方がずっと上だと思っていた。


「でも会えて嬉しいですぅ!」


その間延びしたしゃべり方はどうにかならないのかと思いつつ、そっちを見ないでジュースを飲む紀子を見た京也に対し、心愛の目が細くなる。


「浅見先輩に浮気するなら、私が相手するのにぃ」

「浮気じゃないよ、浅見さんは友達だから」

「えー・・・じゃぁ私がお相手しますぅ」

「いや、だから・・・・」


そこまで言い掛けた瞬間だった。


「休憩終わり!」


聞きなれた声が響き渡り、京也は片手で顔を覆い、心愛は渋い顔をする。紀子は平静を装いながらも内心ほくそ笑む自分を意地が悪いとも思っていた。


「えー、もうですかぁ?」


さっきよりトーンが低めの声に睨むような視線を腕組みしている歩に向ける。


「さっさと来ないと、キャプテンが怒るよ」

「はぁい!」


わざとらしく京也に向かっててへっという感じで舌を出し、跳ねるような歩調で歩き出す。その背中越しに歩を見れば目を細め、眉の形も吊り上っていた。


「じゃ」


素っ気なくそう言うと心愛の背を押すようにして体育館へと消えた。そんな歩に苦笑しつつ、京也は午後から学校で勉強しつつ歩を待つことに決めた。あと1時間もすればお昼となる。


「じゃぁ、行くね」

「あ、うん」

「ごちそうさま。ちゃんと彼女にフォローしてあげなよ?」

「そうだね」


困ったような笑顔に苦笑をし、紀子は去っていった。その背中を見つつ大きなため息をついた京也はお昼をどうするか悩んだ。歩は部員たちと弁当だろう。京也はコーヒーを飲みつつ駅前まで戻ろうと決め、少しゆっくりめの歩調でその場を立ち去るのだった。



お昼時とあって一旦司の家に戻った一行は凛と美咲によるそうめんを食べていた。神社の家系だけあって、こういったお供えやお布施のようなものも多く、お中元もまた多い。その中でもコーヒー類の飲み物やそうめんはかなりのウェイトを占めているのだ。


「遮名、だったか、彼女の居場所はわかるのか?」


そうめんをすする手つきもどこか優雅な明人に対し、問われた司はかきこむように口の中に入れていく。


「あんな特殊な霊圧、わかるさ。多分、二見東のホテルだな。っても、あの子供の容姿で泊まれたことが不思議だけどな・・・」


遮名に関しては明人と司から報告を受けていることもあって全員がその存在を知っている。特殊な容姿をしているというのが気になるが、来武だけがどこか苦い顔をしているのは何故か。


「神地王家といえば、大昔から日本の神事を裏から支えてきた一族だ」


麦茶を飲む司を見る来武はそう言いながら前世の記憶を見ていた。神地王家は司の前世であるアマツに関わる血筋でもある。


「凄い大そうな苗字だもんね」


苺の言葉に頷くが、それ以上は何も言わない来武に全員が注目する。それ以上何も言うつもりはなかったが、こうなっては少しだけ話をする必要が出てしまった。軽く口にした自分を呪いつつ、簡単に説明を開始した。


「2千年前に神地王天が対霊術式として編み出した封神十七式・・・それはアマツが死んでからも彼の血族によって受け継がれてきた。それが神地王家が大いなる血族である証でもある」


神地王天ことアマツには弟がいた。彼は兄ほどではないが優秀な祭司であり、兄の術式を受け継いで血を残してきた。特殊な霊圧を持つその血筋は今でも受け継がれているが、2百年ほど前にその存続が危ぶまれる事態が起こったことが原因で、当時最強の霊能者であった上坂御継かみさかみつぎにその術式が受け継がれた。上坂家もまた、神地王家を祖とした、いわゆる遠い分家に当たる血筋だった。身体の弱い女子しかいなかった神地王家は万が一のことを考えて術式と魔封剣を上坂家に託したのだ。その後、神地王家は特殊な霊圧の血筋となり、巨大な悪霊を祓うほどの霊圧を持つ者が生まれなかった。替わりに霊圧を込めた物を作る、あるいは霊圧の込められた特殊なお守りを作るといった技術的なものへと移行していく。そして上坂家は退魔師として名を馳せるにまで成長していた。そして現代、特殊にも特殊すぎる遮名が生まれ、その父である神地王業火かんじおうごうかが久方ぶりの退魔師となったのだ。だが、60年前に封じたまがと名づけた悪霊との戦いで著しく消耗し、それから死ぬまで霊圧を失ってしまった。そんな業火が望んだのが神地王家の完全復活だった。上坂家に生まれた歴代最強の術師であるじんは霊を滅ぼせるほどの力を身に付け、彼こそが伝説のアマツの生まれ変わりではないかと言われるほどの腕前だった。だからこそ、業火は遮名に刃との結婚を言いつけ、刃も遮名もそれを承諾していた。業火にしてみれば、刃がアマツでないのなら、その2人の子供こそがアマツの生まれ変わりだと信じていたが、刃は司の母親である由美子、そして師であるミュンヒハウゼンから司こそがアマツの生まれ変わりだと聞かされていたためにそこに興味はなかった。だが、本来は神地王家のものである封神十七式や魔封剣を勝手に他者に与えたことは問題視されていた。しかしそれもカグラの邪念体を倒した司の存在、そして遮名もまた司の中にアマツを見たことで刃の勝手は許されている。刃と遮名に関する詳しい事情は伏せ、来武はそう説明をした。


「ドラマでいえば、勇者ヤマトがアマツ、その恋人で魔法使いだったルリがミコト、そして裏切りの魔王であるホムラがカグラにあたる」


去年、深夜ながら高視聴率をマークした『1万2千年の恋』は、元々はアマツの伝承を基にしている。おそらく、プロデューサーが伝承を知ってアレンジしたのだろうと来武は言い、ほとんど同じようなものだと思えばいいと付け加えた。


「でも、ヤマトたちは前世の記憶を持ってたよ?」

「ドラマ、だからだろうな」


苺の疑問に明人が答える。そのまま横目で司を見れば、司は満腹なのかソファにもたれてぐったりとしていた。


「まぁ、いろいろあって俺にだけ記憶はある。それは、自分に対する戒めだと思っている」


戒め、その言葉に凛は俯き、司はどこか遠い目をしてみせる。前世の記憶はなくともカグラの邪念体と戦った記憶は残っており、その際に邪念体が語った言葉も覚えている。


「戒めって?」


興味がある健司の言葉に苦笑しつつ、どう説明していいかを悩む来武の替わりに明人が口を開いた。


「それはその人が思うことで、余計な詮索はするな」


鋼の声に来武は微笑み、凛もまた表情を緩ませる。健司は渋々ながらも頷いてみせたが、何故か苺はかなり不満そうだった。


「聞いた話だと、ドラマのヒットで2匹目のどじょうを狙ってるらしいよ」


お茶の入ったコップを口元につけながらそう言う凛を見た未来と苺が目を輝かせる。


「レオナさんが言ってた。続編じゃないけど、姉妹編みたいなのをやるって」

「へぇ、井戸のない竜神、頑張ってるんだな」


司は目を閉じたままそう言い、口元を緩めた。司の言った意味を理解できる者のはこの中で凛しかいないが、誰も何も言わない。言ってもまともな答えが返ってくるとは思えないからだ。明人は凛から聞いた安藤レオナもまた司を好きでいるといった言葉を思い出して凛を見るが、凛は静かな表情でお茶を飲んでいた。


「マガとかいうのが本当にあのカグラに匹敵するなら、その前に止めないと・・・」


未来の言葉に凛も頷く。苦々しい顔をする来武だが、それこそが戒めだ、受け止めるしかない。


「とにかく、ま、今日は子供女に会う、それでいい」

「大場は?」

「今はほっとくさ・・・っても、近いうちに顔を出す。マガ、久保も一緒にな」


口元に緩い笑みを浮かべたまま、腕組をした司は目を閉じた。そんな司を見る明人の表情に変化はなかったが、心の中では苛立っていることに気づくものはいなかった。

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