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ダブルソウル  作者: 夏みかん
第2章 すれ違う魂
13/27

愛情

「遮名とかいったあの女、何者だ?」


歩いて5分ほどの距離でしかない駅まで送るといった司を断らなかった理由がそれだった。明人としては司が何を思って送ると言ったのかは分からないが都合がいい。


「高い霊力に特殊な霊圧を持って生まれた結果、身体に影響を及ぼしている。多分、霊圧によって成長が遅いんだろうね。目も見えないけど、霊圧の力と霊力で俺たちとは違った感じで世の中を見ているんだ」


さっぱり分からないが特殊な力の弊害といったところか。こういったことも含めて霊力や霊圧に関しての知識も得ようと考えていた。明日からの共同生活はそういう面でありがたかった。


「何故、彼女に俺に殴られたと言わなかった?」


その言葉に小さく微笑む司を見る。


「気まぐれ」


そう言い、立ち止まる。怪訝な顔をして明人も立ち止まるが、司は不思議そうな顔をしてみせた。


「なんだ?」


いつものポーかフェイスはどこへやら、露骨に嫌な顔をする明人。


「駅、着いたけど?」

「ん?」


駅の前に着いたことにすら気づいていなかった明人はそっちを見て小さなため息をついた。そして司を見て、それから再度ため息をつく。


「とりあえず明日からやっかいになる」

「まぁ、短い間だけど、よろしく」


そう言って笑う司に明人の片眉が上がった。


「何故、短いとわかる?」

「勘」


にっこり微笑んでそう言う司に返す言葉もなく、明人は表情のない顔をして踵を返した。お互いに何も言わずに背を向けあった2人。明人は司とは仲良くなれそうもないと思いながら改札をくぐるのだった。



翌日の昼前に3人がやって来た。京也は用があるとかで、出せれば夕方には一度顔を出すと言い、今はここにいない。春香と歩は今日も部活であった。特に春香は全国大会を来週に控えていることもあって今週は顔を出せないだろうと言っているほどに忙しかった。歩は明後日の部活がないようで合流する旨を伝えてある。神手家には美咲に来武と未来を含めた8人がリビングに揃っていた。結構広いリビングもこれだけの人数になればかなりの窮屈さになってしまった。


「昨日の詳細はこれで全てだ」


昨夜の出来事を全員に聞かせた明人の言葉に黙り込む。凛は昨夜、帰宅した司から聞いていたのだが、明人の説明の方が遥かにわかりやすかったこともあって口を挟むこともない。


「しかし・・・いまだに信じられないことばっかだな。死人、ってか、魂と会話やら・・・」


霊力と霊圧に関してのレクチャーは明人の説明の前に司がしている。それを聞き、通り魔との遭遇を経てもまだ信じられない現実離れした状況に苺と健司は顔を見合わせた。


「で、通り魔は警察が追っているけど・・・そのマガ?そいつに憑かれたっていう久保は?」


来武が腕組みをしたままそう尋ねる。現状、ターゲットを確実に呪い殺し、周囲にさえ霊障をもたらす通り魔が危険に思えるが、来武はそうではない。60年前に厳重に封印された禍と呼ばれる存在の方が気になって仕方がないのだ。


「司君、何かわからない?」


凛の言葉に一斉に司に視線が集中するが、司はそれを気にもせずジュースを飲んでいた。それを飲み終え、ストローから口を離すまで全員が司を見たままだった。


「多分、どこか霊圧の澱んだところにいるんだと思う。でなきゃ、そんな邪念、隠せるわけもないから」

「かつて俺がしたようにか?」


来武から出た言葉に明人や苺、健司は怪訝な顔を来武に向ける。今のがどういう意味なのかという視線を受けた来武がそれを説明するかどうかを悩んでいると、司が壁にもたれるようにしながら言葉を発した。


「違う。今は封じられていた時の傷を癒すみたいな感じでいるんだろう。でも、そろそろ這い出てくるさ」

「それも勘か?」


司の説明にそう添えた明人の質問を見た司の口が笑みを形作る。それを見た全員がそれが真実だと悟ってため息をついた。


「とにかく、大場と久保の接触は止めたいところだ」


明人の呟きに来武が頷く。だが司は苦い顔をしていた。それを見た凛は明人と司がどうにも合わないこと、来武と明人がどこか似ていると実感していた。


「らいちゃん、私たちは通り魔を、その大場って人を追うの?」

「いや、今はへたに動けないな」


その意味を探る健司だが、わかるはずもない。とにかく今は通り魔を何とかしてくれない限り大手を振って表も歩けないのだ。


「動くなら、明日だな」


司はそう言い、立ち上がる。


「勘じゃないだろうな?」


鋭い目をした明人に珍しく真面目な顔をした司はドアを見つめるようにした。


「勘だけど、確信がある」


そう言って司はリビングを出て行った。その背中を見つめる来武と凛が同じことを考えているのを明人も含めた他の面々は気づいていない。司がああいう言い方をしたということは、確実に何かがある、そう思う2人だった。



この日の夜は風もあって少し涼しい状態にあった。健司はここ数日の寝不足もあって、11時には早々といびきをかいていた。やはり近くに司がいると安心するのか、扇風機に当たりつつ爆睡する健司を見た明人の口元もほころぶ。そんな明人はそっと部屋を出て1階へと降りた。するとリビングの電気が点いているためにそこに顔を出せば、せんべいをかじったまま驚いた顔を向ける凛を見て苦笑した。


「ど、どうしたの?」

「いや、何か飲もうかと思ったら電気が点いていたもので」


何かいけないものでも見たかのような明人の反応に苦笑した凛はせんべいを口に挟んだままキッチンへと向かうと炭酸のジュースを用意した。丁寧に礼を言う明人に司もこうであって欲しい思う凛だが、それはあえて口にしない。少し距離を置いて座る凛は明人の方にもせんべいの袋を差し出した。


「戸口君って、司君のこと、好きじゃないでしょ?」


ストレートな物言いに苦笑しつつもあまり表情に変化は見せない。その司とは正反対な明人に興味があるのか、凛は眼鏡を上げつつにっこりと微笑んだ。


「みんなそうだと思うよ。現に私の周りでも司君と初対面でいい印象を持った人なんていなかったしね」

「こういう言い方は失礼だけど、あなたのような人が彼とは・・・合わない気がする」


失礼だとは思わないが、はっきりした言い方に好感を得たのか、凛は笑みをそのままにジュースを飲んだ。


「あいつの心は壊れている。愛も恋もない・・・その理由がレイプ疑惑。一体、何故?」


珍しくためらうような感じで物を言う明人だが、それがわからない凛は少し困った顔をする。それでも、同じ事件を解決するに当たって二見高校側の理解を得るためには明人に全てを話すことが得策だと悟る凛は静かに話を始めた。


「彼が中学2年の時、好きだった子の除霊を行った」


全ては聞いた話であり、実際に見たわけではない。そう前置きして話し始めた凛に顔を向けつつ明人は黙って頷いた。その除霊に際して、憑いていた霊は霊圧が高く知能も回った。それ故、司の中の彼女への恋心を利用して色仕掛けを仕掛けた。それでも司はその霊を滅ぼしたのだ。多少誘惑に負けた部分もありながらも自我を保ったその行動は誰も知らないことだ。その除霊後の浄霊に入ろうとした時、彼女の母親が乱入してその現場を見てしまう。全裸の娘に馬乗りになり、左手を胸に置いた司を。


「例のあれ、か」


心当たりがある明人にしてみれば、それがどういう行為かはわかる。だが母親は娘をレイプしたと罵倒して暴力を振るった。そして意識を回復した彼女もまた憑かれていた際の恐怖から一緒になって司を罵倒したのだ。浄霊されていないことから来るものでもあったが、それは司の心を大きく傷つける結果となった。命をかけて除霊した相手に罵倒され、いわれのない罪をかぶせられたのだ。


「司君の心は、そういった人の悪意から身を守るために愛情や恋心といった感情を全て排除したの。心が壊れたってことね。そして2度とそういった思いをしないように、女性も男性もみな同じ、人間の身体と認識するようになったの」


重い話にただ沈黙するしかない。いつも腹が立つほどに笑っている司の過去を知った明人は複雑な思いを抱えるしかなかった。


「なら、今はそれを取り戻したということですか?あなたにだけ、という限定ながら?」


その言葉に凛は静かに首を横に振った。


「彼の心は壊れたまま。元には戻らない。ただ、私を好きだという気持ちが生まれただけ。新しく生まれた感情に戸惑い、ああいう感じになってるってとこ」

「でも前世でも恋人同士だったと・・・」


凛はその言葉を聞いてハッとした表情になった。明人はさすがにこれはまずかったかと思いながらも正直にそれを話した。昨夜のこと、秋穂に言った司の言葉を。それを聞いた凛は苦笑するが、嫌な感情を抱いての苦笑ではないことに明人はホッとしていた。


「覚えているのは未生だけ」


そう言い、凛はそれに関しても話を始めた。2千年の昔、強い力を持った祭司のアマツとカグラのこと。そしてその間で揺れ動いた巫女ミコトの悲恋。さらには今年の初めにあった事件のことも全て。司は一度死に、そして今に至っていることまで全部を話して聞かせたのだ。常識外れにもほどがある話だが、明人はそれら全てを受け入れ、理解した。


「事情は理解できたけど、それでも俺はあいつを理解できない。何故ああいう、どこか人を馬鹿にした感じなのか・・・壊れてる部分はそういった恋愛部分だけじゃない、そう思う」


理解できないといった部分を理解している凛は薄く微笑み、汗をかいたコップを持ち上げる。その横顔は美しく、明人でさえ少し見とれてしまうほどだ。気立てもよく美人な凛が司を好きになった要素が見出せない。


「あれは多分、心が壊れてから出た性格なんだと思う」

「性格、ですか?」


頷き、凛はアイスレモンティーを一口飲んでからその説明を始める。


「司君は、自分に正直なの。嫌なものは嫌、めんどくさいものはめんどくさい、興味あるものには興味を示す」


言われてみれば確かにそう思う。実にわかりやすいとは思うが、その反面人を馬鹿にしたような言動もまた目に付いていた。


「でも、凄く優しいんだよ」


愛情の込められた笑みがそこにあった。何故こうまで愛せるのかわからない。決して友達にはなれない、なりたくないと思えるほどの人格をこうまで心底愛せる凛がどこか不憫に感じてしまった。


「そうかもしれない、けど・・・」

「嫌だ、行きたくないって言っても最後には一緒に来てくれる」


肝試しのこと、新興宗教の事件、イジメの事件にエクソシストとの対決。その全てを聞いた明人はただただ驚くだけだった。二見高校の女子生徒連続誘拐事件に並行して起こった神木高校での事件に司が関与していたことや、自分も見た年末のエクソシストの番組に関してもまた絡んでいたことは驚きを通り越した感情でいっぱいになった。


「司君に祓ってもらったり、それを直に経験した人はみんな司君に惹かれる。現に司君を好きな子も結構いるんだよ」

「そんなものなのかな?」

「安藤レオナさんも、告白じみたことを言ってた。でも、司君には理解できなかったけどね。私の友達でも司君を好きっぽい子もいるし、小学生の女の子や近所の中学生も司君を好きだよ」


人気アイドルであるレオナの名に驚くが、ここ最近の彼女の印象は周囲でもよかった。プロデューサーの死をもって解散したアイドルグループであるサークルを抜けて以来、レオナはどこか吹っ切れたように仕事をしていた。それは視聴者にも伝わっており、サークルが消滅して生き残ったメンバーはレオナだけだ。


「なら、いつかはそういった人にも愛や恋を芽生えさせるんじゃ?」

「んー・・・自惚れか、盲目だかわかんないけど、それは絶対にないって思ってる」

「前世の因縁があるから?」

「関係ないよ。前世の因縁の前から出会って、そして好きになった」


凛の笑顔に嘘はない。明人は鼻で大きく息を吐きつつ、自分はこうまで苺を想えているのかを自分で問いかける。仲のいい男子と会話をしていれば気にもなるし、小さな嫉妬もしてしまう。だが、凛にはそういったものを感じられない。司が壊れているから、だけでなく、そこには絶対的な信頼が存在している。


「司君の心は壊れてる。でも、司君は壊れていない。あれが神手司なんだから・・・私の好きな人だから」


それはこの先、老いるまでずっと明人の心に残る言葉となった。人と人の関係の究極を見た気がする。絶対的な愛と信頼がそこにある。自分もこうなりたいと思う明人だが、それでもまだ司という人間は理解できないままだった。



小1時間ほどの話を終え、明人は2階へと向かう。凛は深夜のドラマを大きな画面で見たいと言ってリビングに残っていた。苺はその凛の部屋で漫画を読んでいるらしい。少し話をしようと凛の部屋の前に立った明人がノックをしようと拳をドアに添えた瞬間、奥にある自分たちの部屋の手前にある司の部屋からなにやらヒソヒソとした話し声が聞こえてきたためにそっちを向いた。男女の声が聞こえるのが気になる。妹である美咲とでも会話しているのかとそっとドアの前に立てば、その声が苺のものであると知って苦い顔をしつつそっとドアに耳を当てた。


「ほら、やってみなって」

「で、でもぉ・・・明人君にバレたら・・・」


その言葉にピクリと反応する明人は眉間にしわを思いっきり寄せながらぐっと耳を密着させる。激しく打ち鳴らす心音を抑えつつ中の様子に意識を集中させた。


「大丈夫、バレないって!だからさ、これをこうして、パクって咥えてみてよ」

「えぇ~・・・こんなの大きすぎるし」


どう聞いても卑猥な会話にしか聞こえない。不安と怒りが入り混じりつつ、汗をかきながらそれでもさっきの凛のように苺を信じて耳を澄まし続けた。


「大丈夫だって!」

「でも入るかな?」

「んー・・・無理してでも入れてみるか、それとも・・・」

「でも、してみたい」

「じゃぁ、無理矢理押し込んでいい?」

「えぇ~・・・んー・・・少し舐めてからの方がいいかな?」

「あー、その方がいいかも」

「でも初めてだよ、こんなの」

「あのクール男はこういうことさせないの?」

「無理。だって怒るしさ・・・私はしたいのに」

「俺的には全然オッケーだけど」

「じゃぁ、その・・・いくね」

「お、おう!」


その瞬間、ドアが勢いよく開いた。あっけに取られる2人がそっちを見るより早く怒声がこだまする。


「お前ら!人の目を盗んで何してやがる!」


普段の明人にはない怒りを前面に出した表情にその言葉遣い。呆然とした司は驚いた顔をにんまりした笑顔に変えた。


「ありゃ~・・・見っかっちゃった」


その前に座っている苺は目を丸くしつつ、半分に折られた5つのドーナツを積み重ねたものを大きな口を開けて頬張る寸前だった。そっと口を閉じ、目の前の箱にドーナツを置きつつ苦笑いを返すしかない。


「ゴメンなさい」

「・・・・・・・・・・・・・・・・ド、ドーナツ?なんだ・・・・ドーナツか」

「え?」

「え?」

「ぁえ?」


怒りの表情は消え、目を点にした明人の呟きに司も苺も疑問の声を出すしかなかった。


「神手君に誘われて、ね」

「ドーナツが好きだって聞いてたから。でも5段タワーにして食べたいって言うからさ、もう興味あり!」

「だったんだけど・・・ゴメンね」


微笑む司とは対照的にしゅんとなる苺を見た明人は心底ホッとしつつその場に座り込んだ。てっきり浮気でもしているのものと思っていただけに、その脱力は半端ではない。


「なんだぁ、そうか・・・俺はてっきり神手のを・・・・・・・・・」


そうまで言った明人はハッとなって激しく赤面し、両手をブンブン振って顔も振る。


「ち、違うぞ!そうじゃない!いや、お前らの言い方が卑猥で、だから・・・!」


激しく動揺し。早口でそう言う明人に司は首を傾げ、苺はポカーンとした顔になる。だが、徐々にそれが変化して目を細め、意味ありげな笑みを浮かべてみせた。


「へぇ・・・要するにいやらしい妄想して、嫉妬したんだ?」

「そうなのか?」


嬉しそうでいながらどこか感情の薄い苺の言葉に司は理解できないといった顔をした。明人はそんな2人を見てますます動揺し、頭を抱え込む。


「ち、違うって・・・あ・・・その・・・」

「どう勘違いしたのかしんないけど、ドーナツぐらい好きに食べさせてやれよ」


明人の言葉の意味を全く理解していない司にホッとするが、苺の顔は見れない。


「いいって、神手君・・・・その件に関して、明人君?少しお話しようか?」


ニタニタと笑う苺にぎこちない笑みを見せつつ、明人は力なく頷いた。それはもう普段のクールさは欠片もない落ち込んだ表情だ。苺はドーナツの入った箱を持って司にばいばいと言いながら手を振り、司もにんまり笑ってそれを見送る。明人は少し司を睨むようにしながらも困った顔をしつつ部屋を出て行った。静かになった部屋に残された司は小さく微笑むとベッドに腰掛けた。


「全然クールじゃないじゃん」


さっきまで明人のことを聞かされていた司は今の明人を見て心底そう思った。そして明人はベランダで必死の弁解をし、苺は動揺する明人の言い訳を聞きながら常にニヤニヤした顔をしているのだった。

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