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転生者の育て方~異世界子育て英雄譚~  作者: Abel
三章 ソラ、少女編(16歳)
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プレゼントと宝物と




「それでは、ソラの門出とCランク昇格を祝って――乾杯!」


 『秋風の車輪』の食堂にて、閉店後にささやかな祝いの席が設けられた。

 ローラ主催によるソラのCランク昇格の祝宴だ。主賓のソラはユーナとミミが用意した料理に舌鼓をうっている。


「いやーしかし、創造魔法、ねえ」


「あれではご主人様が負けるのも無理はないですねー」


 話題はソラの『創造魔法』で持ちきりだ。なにしろ今までローラたちが知っていた魔法の常識を打ち破ったのだ。

 魔力・詠唱・魔方陣によって完成する魔法において、魔力と魔法の名を唱えるだけで魔法が完成する。

 魔法使いにとって、魔法に携わるものにとってどれほど画期的で魅力的なことか。

 なにしろ詠唱の時間も魔方陣を構築する必要もないのだ。

 あまりにお手軽で、使い勝手の良い手法だろう。


「そうだよな。俺弱くないよな?」


「ええー。ソラ様が強すぎるだけですよー。十六才のソラ様がー」


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」


「えと……ごめんなさい?」


「謝らないでくれぇぇぇぇぇぇ」


 冷たい木製の床を転がるマルコに思わず謝ってしまうソラであり、ミミは転がるマルコを見て微笑んでいる。


「気にすることはないよ。マルコはもともと戦闘じゃないしな」


「ええー。ミミを作ったのもご主人様ですしー。本業は人形遣い(マリオネッター)ですしねー」


「ミミさん人形だったんですか!?」


「ええー」


 ミミ自身の告白にびっくりしたソラはそのままミミの頬に触る。

 人形、とミミは語るが全くそれを感じさせない感触だ。柔らかさも、温かさもなにもかもが人間そっくりな精巧な出来である。

 ぺたぺたと頬を、肩を、さすがに胸は控えて。脇を、足を触ってみても人間と何一つ変わらない。


「マルコさん凄い人なんですね!」


「そうだろ!? 俺凄いだろ!?」


 無邪気なソラの言葉にたちどころに蘇るマルコ。そんな二人のやり取りを苦笑いしながらユーナとローラは眺めている。

 豪快に麦酒エールを飲み、頬を朱に染めながらローラは笑う。


「今まで戦闘もこなさなくちゃならなかったし、護衛は元々欲しかったしねえ」


「じゃあ、ソラに任せれば問題ないですね」


「そうだねえ。あの創造魔法、便利すぎて羨ましいくらいだよ」


「ソラしか使えませんからね」


「まるで神様にでも愛されてるような力だよ……まったく」


 ローラの見解は概ね当たっている。ソラの創造魔法は神様からの贈り物――神の加護、なのだ。

 この世界に転生したソラを気に入った神様が与えた、理外の力。

 それ故に創造魔法はソラにしか使えない。

 ソラが他の冒険者たちに対して圧倒的なアドバンテージを得ている力だ。


「出発はいつにするんですか?」


「明日だね。聖堂教国に向かうついでに結構クエストを貰っていこうと思うが、大丈夫かい?」


「はい、問題ありません。聖堂教国への道程でクリア出来そうなものを用意しておきますね」


「ありがと。よく出来た新人受付嬢だよ」


「っふふ。ありがとうございます」


 宴の席だというのに二人の会話は明日以降の『これから』についてだ。

 個人ギルド――クランの代表であるローラと、冒険者ギルドの受付であるユーナだからこそ、だろう。

 麦酒エールを浴びるように飲んでいるローラだが、頬が赤くなる程度でまったく酔っていないようだ。


「あ、そうだ。ソラ!」


「わぅ?」


 思い出したかのようにユーナがソラを呼ぶと、料理を咥えていたソラが駆け寄ってくる。

 その独特な鳴き声からまるで子犬のようだが、それは幼い頃からシロと共に過ごしてきた身についてしまった癖だろう。


「もうソラ。それ食べちゃってからでいいわよ」


はひ(はい)っ!」


 もぐもぐと、あっという間に咥えていたステーキを咀嚼して飲み込む。口の周りにべっとりとついたソースをユーナが拭き、ソラは首を傾げながらユーナの言葉を待つ。


「頑張るソラにプレゼントと、アイナさんからの忘れ物だよ」


「んー?」


 椅子に座らせたソラの後ろに立って、ソラの髪に触れる。

 空色の髪は何度触れてもさらさらな手触りで、まるで極上の絹のようでもったいないと感じてしまうほどだ。

 ソラに見えないようにプレゼントの箱を空けたユーナが、中から取りだした二つの赤いリボンでソラの髪を結っていく。

 少しぎこちない手つきだが、二つのリボンを左右に結んだ。二房に分かれた髪型――ツインテールは、少しだけソラを幼く見させる。


「はい。私からのリボンと、ソラの宝物のリボンだよ」


「……これ」


「アイナさんから預かったんだけど、大事なものなんでしょ?」


「……うん。このリボンは、お父さんがくれたの」


 鏡をもらって、映った自分の髪型を眺める。右のリボンはユーナがくれた明るい赤いリボン。

 左のリボンは、幼い頃――六歳の誕生日に、父がくれたプレゼントだった。

 特別な薬草を練り込んで作られたリボンであり、ソラのために用意してくれた、ソラの宝物。

 魔法学院に入る前にアイナに預けたリボンである。いつかまた、父に結って貰いたくて外していたリボンだ。


「お父さんを探すんだから、ね?」


「うん、うん……!」


 敢えて置いてきたものではあった。帰ってきて、このリボンを結って貰う。それが目標の一つだったから。

 けれども身につけてみて改めて感じる、あの頃の父の温かさ、思い出と愛情を。


「髪を下ろしてるよりこうしたほうがソラ、って感じだしね!」


「なにそれ!? ボクはもう子供じゃないですよ!?」


 ショックを受けるソラだがそこに動揺はない。

 父を求めて冒険者になることを決意した日から、ソラは成長した感覚がない。

 身体は少しは成長したけど、心が――ずっと、父を求めて泣いていたから。

 この世界に転生したソラの願いは、素敵で優しい父親と出会うこと。

 その願いはアキトとの出会いで成就された。

 でも、今は離ればなれになってしまっている。

 別れる決意も覚悟もないまま、アキトは旅立ってしまった。


 ――もう一度、抱きしめて貰いたい。もっと、愛して欲しいから。


 ユーナも、ローラも、ミミも、マルコも笑っている。それは決してソラを馬鹿にしているわけではなく、微笑ましく見守っていることから出る笑みだ。


 冒険者になって、父の手がかりを見つけて、協力してくれる人を見つけて。


「……ボク、恵まれてますね」


 不意に涙ぐんでしまう。

 優しい父に拾われて、あたたかな母と出会って。世話焼きな叔母にも愛されて。

 学友に、そして、冒険者に手を掴んで貰えて。


「ボク、頑張ります。絶対にお父さんを見つけます」


「そうよソラ。私はここでソラが帰ってくるのを待ってるから」


「その旅路、このローラ・アルクォーツに任せな!」


 ユーナとローラと左右の手で握手を交わし、ソラは涙を振り払う。

 暖かい手に包まれながら、ソラは自分の決意を言葉にする。


「目指すは聖堂教国。お父さんの手がかりは必ず見つけます。必ず残ってます。ボクは諦めません。どこへだって、世界の果てにだって行ってやります!」

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