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転生者の育て方~異世界子育て英雄譚~  作者: Abel
三章 ソラ、少女編(16歳)
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Cランク昇格試験!




 『秋風の車輪』の裏庭はそこまで広いわけではない。一通りの訓練をするくらいなら問題はないが、暴れるとなれば話は別だ。

 だがこれはCランクへの昇格試験である。特に難しい規約があるわけではなく、試験官――マルコが指定した目標を、ソラがクリアできるかどうかだけだ。

 その試験がCランク昇格に適したものであるかは、ギルドの職員が決める。

 新人のユーナにその権限はまだ、ない。

 そのためか、普段は表に出てこない裏方のギルド職員が裏庭に顔を覗かせている。


「おっし。肩もいい感じだぜ」


 肩の具合を確かめるマルコが、口角をつり上げる。


「ご主人様、まだ完治したわけじゃないんですから無理をしてはダメですよ?」


「わーってるって。新人ちゃんの試験くらい、ちゃちゃって終わらせるだけだよ」


 ミミの口ぶりから察するに、マルコが怪我を負っていたご主人様、なのだろう。

 そしてその怪我がある程度治ったから、マルコは試験官を引き受けた、ということだろう。

 ソラとしては試験官を受けてくれただけで感謝している。そして、初めて相対するBランクの冒険者の存在にわくわくしている。

 魔法学院で勉学に集中している間も、ほのかに憧れ続けた冒険者の道。大好きだった父と同じ道であり、大好きな父を探せる道。

 その道中には、どんな人たちがいるのか。


「マルコさん、よろしくお願いします!」


「あいよ任せな。――ただ、あんまり加減は出来ないぜ?」


「望むところです!」


 ニヒルに口元を歪めるマルコが人差し指を立てて空を指差す。

 掲げた指先から零れる光――魔力が、十数本の糸となって広がっていく。

 それぞれの糸の先端から、魔方陣が発生する。六芒星の魔方陣は次々に回転すると、中から二頭身の人形たちが飛び出してくる。


「――セット。『仮面舞踏会』」


 人形たちは、そのどれもが仮面を模した顔をしているぬいぐるみだ。

 可愛いもの、綺麗なもの、不気味なものまで揃っている。その中の一つが口を開けてケラケラと笑い、ファンシーなぬいぐるみが両手両足を使って踊り出す。

 ぬいぐるみのどれもが小さな棍棒を持っていた。頭からは糸で繋がれており、それらは全てマルコの指先に集中している。


「この合計十五体の『仮面舞踏会』を、そうだな……十分だ。十分で倒せば、それで合格だ」


「……うーん?」


 マルコの言葉に思わずソラは首を傾げてしまった。

 観客たちからは「妥当だな」「ちょっと厳しいくらいか?」「馬鹿野郎レイジが担当になることに比べれば楽だろ」「延々と走らされるしな」「筋肉を信じろ」と様々な言葉が聞こえてくるが、ソラにはいまいち緊張感が伝わってこない。


 どう言えばいいのだろうか。言葉に悩むソラにユーナが声を掛ける。


「ソラー! 全力でやったら何分掛かるー!?」


「え? んー……三十秒?」


 少し悩んだソラが出した答えに、誰もが「は?」と言葉を失った。

 すぐに飛んでくるのは野次。出来るわけがないと。強がりもほどほどにしておけ、と。

 一部の冒険者たちは「英雄の娘だしな」とぼやいているが、ソラははっきりと言葉にする。


「お父さんは確かに凄いですけど、ボクは『英雄の娘』だから、って言い訳は嫌いです」


 アキトの娘であることをソラは誇っている。

 アキトと出会えたことを何度神に感謝したことか。

 でもそれは、アキトがアキトだから。『英雄』であることは、なにも関係ない。


「おもしれえ。だったら見せて貰おうじゃねえか!」


「わかりました! 見ててください、ボクの魔法をっ!」


 足を肩幅ほどまで開いて、ソラは踊るぬいぐるみたちを見据える。

 複雑にゆらゆらと中空で踊る人形たち。それら全てに襲われれば、ある程度腕の立つ冒険者でも苦労するだろう。

 それだけの魔力が込められている。それらを指先一本で制御しているのだから、マルコの操作技術もかなりのものだ。

 だが、魔法を操作することに関して言えばソラは一日の長がある。


「『マジカル・コンダクター』――セット・『エルダーリアランス』!」


 ソラが魔法名を唱え、マルコ同様に指を掲げる。操るマルコとは違う。指揮者のように、タクトを振るうようにソラは指を振る。


 赤、青、緑、黄、黒。

 五つの色の光が槍となる。それら全ては異なる属性。火、水、風、雷、闇を宿した魔法の槍。


「シュート!」


 ぬいぐるみたちに向けて、ソラは指を振り下ろす。

 と、同時にエルダーリアランス全てがぬいぐるみを貫いた。一つの槍が三体を同時に射貫く。

 五つの槍が十五体のぬいぐるみを仕留める。


「……は?」


「……ほう」


「あらー」


「よしっ!」


 マルコの呆けた声が。ローラの興味深そうな声が。ミミの驚いたような声が。ユーナの歓喜の声が聞こえてくる。裏庭に集まった他の冒険者たちも一瞬の出来事に呆気に取られている。


「これで合格ですよね?」


「……あ、ああ」


「やった! ありがとうございます!」


 あまりにも一瞬の出来事に、マルコも冒険者たちも何が起きたかを理解出来ていない。

 今の光景を理解出来たのは、一握りの冒険者たち、そして付き合いのあるユーナだけだ。

 その中でもローラとミミはしっかりとソラが何をしたかを見抜いていた。


「ローラ様。気付きましたかー?」


「ああ、間違いないね。あの子は魔方陣も詠唱もナシに魔法を使っていた。――コハク・アカツキが完成させた簡略化の手順すら踏んでいない」


 面白いものを見つけたとばかりにローラは目を輝かせる。出会えて良かったと、あの子を誘って正解だったと。


「……ととっ。試験は合格です。ソラ・アカツキ、Cランク昇格おめでとうございます!」


 ――ワァッ!


 ユーナの言葉を皮切りに静寂が破られる。観客たちは沸き立ち、ソラの勇姿に歓声をあげる。

 そこにはもう『英雄の娘』としてソラを見ている者はいなかった。

 新たな冒険者。新たな英雄の卵として、ソラの昇格を祝福する。

 言葉をかき消すほどの拍手喝采に見送られながら、ソラは『秋風の車輪』に戻っていく。ローラに笑顔で迎えられ、ソラも大満足と言った表情を見せている。

 歓声に見守られながら、ソラは正式な手続きのために受付へと戻っていった――そして、残された冒険者たちは。


「どんまいマルコ」

「大丈夫だ。みんなお前が踏み台になることくらいわかってた」

「顔だけヤクザのマルコくん、ドンマイ!」


 意気込んで『仮面舞踏会』を披露したマルコに向けて一斉に慰めの言葉が飛ぶ。怪我が治り、無茶しない程度に新米の冒険者をいなそうと思っていたマルコは、予想以上に簡単にあしらわれてしまった。


「いやいや。いやいやいや! 凄いけど何だよあの子!?」


「ちなみにですがご主人様。ソラ様はアルクォーツの新しいメンバーになるんですよー」


「初耳なんだが!?」


「ご主人様の実力最低辺はまだまだ変わらないですねー」


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ年下の女の子に負けだぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ」


「うふふーっ」


 自信満々に展開した魔法が一瞬で打ち破られ、まさに『格の違い』を思い知らされたマルコはあまりの恥ずかしさに地面を転がるのであった――。

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