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転生者の育て方~異世界子育て英雄譚~  作者: Abel
三章 ソラ、少女編(16歳)
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クラン『アルクォーツ』




 『クラン』


 ギルド、が国営であるならばクラン、は私営の組織である。

 冒険者としてギルドに登録し、ギルドでクエストを受けるのではなく。

 クランに所属し、そのクランの代表からクエストを任される。

 具体的な内容はギルドと全く同じ、クエストを受け、こなすことだ。


 では普通にギルドに登録し、生活することと何が違うのか。

 それは、クランの創設者・クランリーダーに雇われる、ということだ。

 本来冒険者はクエストをこなし日銭を稼ぐ、いわば将来性に不安がある職業だ。

 実力が全てであり、実力のないものは小型の魔物や採取などのクエストでこまめに金銭を稼ぐしかない。


 それを纏めるようにしたのが、クランだ。

 国営の冒険者ギルドから纏めてクエストを委託され、クランリーダーが吟味し、適したクエストを振り分ける。

 クランリーダーはAランクの一流冒険者しかなることは出来ず、それ故にクエストの適正を見抜く力もそれなりに身につけている。


 ではそうした結果どうなるのだろうか。


 クエストの成功率が上がる、の一言に尽きる。


 クエストの成功率が上がることはそのままギルドに信頼されることに直結する。

 そうなればさらに多くのクエストを回して貰える。そうなればさらに稼ぐことが出来る。

 個人としてギルドからクエストを受けるより、若干報酬は安くなってしまうのが難点だが。

 それでも『冒険者としての信頼』を、クランが保証してくれるのだ。


 聖堂教国もまた、その制度を利用している。

 Aランクである冒険者が作るクランであれば、多少低ランクの冒険者がいても責任を取らせることが出来る。

 だから、クランに所属することが出来れば、例えCランクでも聖堂教国に入ることが認められる。




   +




 ソラはクランの説明を聞いて真っ先に前世の『企業』を思い浮かべた。

 公共事業などの仕事を請け負い、社員たちが奮闘する。

 社長は社員たちを上手くコントロールし仕事をこなし、次の仕事に繋げていく。


 クランリーダーとはまさに社長そのものだ。そして社員が起こしたミスは、社長が責任を取る。


「ローラさんは、ボクをクランに入れてくれるんですか?」


「ああ。ソラちゃんさえ良ければね。ミミを助けてくれたようだし、お礼をしなくちゃな!」


 ローラの豪快な笑い声に目を丸くしながら、ソラは安堵の表情を浮かべる。

 差し出されたローラの手を掴み、感謝の気持ちも込めてもう一度握手を交わす。


「よろしくお願いします」


「よっしゃ決まりだね! さっそく準備を進めようじゃないか!」


「ちょうど護衛の冒険者を雇おう、って話もしていましたしー。お互いがwin-winですねー」


 ローラとしても冒険者を雇うつもりで『秋風の車輪』を訪れていたらしく、ソラとの出会いはまさに幸運だ。加えてローラはかつてアキトが聖堂教国に向かう時に関わった身だ。

 少なからず、負い目があるのだろう。だからこそソラに手を差し伸べた。


「と、その前に、だ。ソラちゃん、とりあえずCランクの昇格試験は受けるんだろう?」


「そうですね。教国とは別に、冒険者ランクは上げていきたいです」


 ソラはもうCランクへの昇格試験を受ける資格を得ている。これも魔法学院で努力した結果の賜物だ。

 ユーナはすでに手続きを済ませていたのだろう。昇格試験に必要な書類を全て纏めており、あとはソラの試験を担当する冒険者を決めるだけ、である。

 だがそこが問題となる。


「えー。この中でCランクの昇格試験を担当してくれる冒険者の方はいますかー?」


 ユーナの凜とした声が『秋風の車輪』に響く。数多くの冒険者が談笑していたが、今となってはすっかり静まりかえっている。


「おいお前、やればいいじゃねえか」

「冗談冗談。金貨十枚積まれてもやらねえよ」

「『英雄』の子供だろ? そんなん試験なんざやらなくたっていいじゃねえか」


 本来であればギルド側で事前に冒険者に声を掛けておくのだが、今回に限ってはたまたま誰も用意していなかったようだ。すぐに手配するために『秋風の車輪』にいる冒険者たちに声を掛けても、誰もが一様に首を横に振る。


 その理由は、ソラ自身の問題ではない。だが、ソラに関わる問題でもある。

 『英雄』アキト・アカツキ。彼の功績は何処よりも此処、スタードットの街に残っている。

 彼はこの街を拠点として様々なクエストをクリアしていった。

 その中には到底一人ではクリアできない、とても困難なクエストもあった。


 古龍、と括られる天災レベルの魔物、ファフニール、ディアントクリス、ヒュドラーの撃退。

 森の主とも言われる白狼・エフィントウルフの討伐。


 それらだけではない。この街には、アキト・アカツキの伝説が色濃く残されてしまっている。

 そんなアキトの娘であるソラが、魔法学院で最優秀の成績を収めて冒険者になる。


「レイジさん、Aランクのあなたなら――」


「ダメダメ。いくら可愛いユーナ嬢のお願いでも、『英雄』の娘だろ? 勝負にすらならないよ」


 『秋風の車輪』を訪れていたAランク冒険者、レイジの言葉に誰もが頷く。

 誰もが冒険者としては自分の実力に誇りを持っている。

 自分より強い者には敬意を払い、弱き者にはプレッシャーを掛ける。

 実力主義のわかりやすい縦割り社会なのだ。


 プライドで生計を立てているといっても過言ではない彼らが、まだ冒険者に成り立ての、しかも十六才の少女に負けたと知られれば。

 それが試験であったとしても、その噂は一瞬で広がるだろう。

 『英雄の娘だから負けた』という言い訳は出来る。

 それでも彼らは、最初から負けるための試験はやりたくないのだ。

 誰もが『踏み台』になりたくないのだ。


 ローラやミミもそんな事情を理解しているからこそ黙り込んでいる。

 彼女たちとしてはソラのランクには拘っていない。だからこの街での試験さえ諦めてしまえばそれで済む話なのだが。


「お、どうしたんだ辛気くさい顔して」


 大口を開けて欠伸をしながら金髪の青年が二階から降りてくる。

 短く乱雑に揃えられた金髪と鋭すぎる目つき。耳にはピアス、そして頬に付いた切り傷。

 何処からどう見ても厳つい風貌の男だ。


「マルコさん! 突然ですがCランクの昇格試験の担当官を受けてくれませんか!?」


「お、おぉ? まあちょうど怪我も治ったばかりで身体を動かしたかったが――」


「ではよろしくお願いしますすぐに裏の広場を空けてきます!」


「おおぅ……? 姉御ぉー。なんかあったんですかいー?」


 ボリボリと胸板を掻きながらもう一度大きな欠伸をし、金髪の青年はローラに声を掛けた。

 必死に笑いを堪えているローラとため息を吐くミミにソラは困惑している。

 マルコ、と呼ばれた青年が目を細めてソラに視線を向ける。あまりの視線の鋭さに、ソラは思わず身体を強張らせてしまう。


「マルコ。アンタいい時にきてくれたよ」


「お? いやーさすがは俺。どうっすか姉御。惚れましたか?」


「はいはい。ソラちゃん、こいつはマルコ。アタシの部下だよ」


「そ、ソラです。ソラ・アカツキです! よろしくお願いします!」


「おう! なんかよくわかんねーがよろしくな!」


 マルコの握手に応じると、激しく上下に揺さぶられる。

 目つきは悪いが人懐っこい笑みを浮かべているマルコは顔は怖いが悪人ではないようで、気さくなマルコにソラも表情を綻ばせる。


「昇格試験、よろしくお願いします!」


「おう。よくわかんねーがいい小遣い稼ぎにもなるぜ!」


 ガッハッハと笑うマルコの声に『秋風の車輪』も徐々に賑わいを取り戻していく。


「お待たせしました! これからCランク昇格試験を始めます。試験管、マルコ・グレーティア。挑戦者、ソラ・アカツキ。裏庭までお願いします!」


 戻ってきたユーナの言葉に、ソラとマルコは笑みを浮かべて拳を合わせた。






 マルコ・グレーティア

 冒険者ランク:B

 ギルドカード:銀

 備考:クラン『アルクォーツ』に所属する人形使い(マリオネッター)

 あまり積極的にクエストを受けないが、実力はBランクに相応しい。

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