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転生者の育て方~異世界子育て英雄譚~  作者: Abel
三章 ソラ、少女編(16歳)
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いざ、冒険者の街へ!




「それじゃあお母さん、お姉ちゃん。行ってきます」


 翌日。旅支度を終えたソラは家の前で見送るアイナ、コハク、ユーナの前で頭を下げた。

 ぺこりと頭を下げるソラをそっとアイナが抱きしめる。


「無理しちゃ駄目よ。辛くなったら、すぐに帰ってきて。ここがソラちゃんのお家だから」


「……はい。でも任せてください! すぐにお父さんを見つけて帰ってきますから!」


 ソラの振る舞いが気丈であることをアイナは見抜いてる。それでもソラを止めないのは、子供のやりたいことをやらせたい親心なのだろうか。

 アイナもかつてはアキトと共に冒険者として名を馳せていたほどだ。

 だからこそ冒険者となって世界を旅することに反対するつもりはない。

 だがそれでも心配してしまうのは、ソラを愛しているからだ。

 可愛い子には旅をさせよと言うが、可愛すぎて手放したくないのだろう。


「大丈夫ですよ姉さん。ソラちゃんはコハクのゴーレムを簡単に倒すくらい強くなったんですから」


「えっへん!」


 コハクも心配してはいるのだが、ソラの実力を見極めた立場としてアイナに太鼓判を押す。渋々ソラから離れ、ぽん、と肩に手を置く。

 それでも不安の表情のアイナに、ソラは笑顔で応える。


「行ってきます」


 アイナを、コハク、ユーナに視線を向け、そのまま家を見上げる。

 アキトを迎えるこの家は、未だにアキトを迎えたことのない寂しい家だ。

 この家のためにも、家族のためにも、そして、自分が会いたいから。

 ソラはアキトを探しに行く。最愛の父親を求めて、冒険者になる。


 歩き出したソラをアイナたちは見送る。ソラがいつ振り返って旅をやめてもいいように、涙を堪えて小さく手を振る。

 小さくなっていくソラを見てついにアイナは堪えきれなくなってしまう。声を必死に押し殺し、不安がソラに伝わらないように嗚咽する。

 コハクはアイナの背中をそっとさすり、ユーナは自分の役目だとソラの姿が見えなくなるまで手を振り続けた。


 ………

 ……

 …


 ソラが目指すのは冒険者にとって始まりの街とも言われている、スタードットという街だ。

 そこには冒険者の登録を一手に引き受けている冒険者ギルド『秋風の車輪』が存在している。

 手にした卒業証書を提示すれば、ソラはDランクの冒険者としてデビューすることができる。

 その上、Cランクへの昇格試験も希望すればすぐに受けることが出来る破格の待遇だ。

 ソラはそのために魔法学院に通い、上位の成績を収めたのだ。


 スタードットは王都から徒歩で最低でも一週間は掛かる。

 馬車を使えば四日で済むのだが、ソラは自分の意思で歩いて行くことを決めた。


 一日目は草原を越え。二日目は山を登り。三日目は深い谷を踏破した。

 毎日毎日キリのいいタイミングで休憩を取り、野生の動物を狩って食事を取る。

 野宿にはなかなか慣れないが、もともと寝付きのいいソラはたき火の温かさもあって四日目には大分慣れてきた。


「……ふう。やっぱり遠いですね」


 ソラは魔法によって空を飛ぶことが出来る。そうすればスタードットへの道のりもかなり短縮できるはずなのだが、ソラはわかっていてそれをやらない。

 ソラは、自分の足で歩きたいのだ。自分の足で大地を踏み締め、これから冒険する世界を楽しみたいのだ。


 五日目を越えて、そろそろ身体の汚れが気になってきた。休憩とこまめにとっているとはいえ、昼夜問わず歩く時もあれば自然と汚れてしまう。


「『クリーン』」


 ソラが言葉を呟くと同時に身体や衣服に付いていた汚れが一瞬で消えていく。

 思いつきで呟いてみたが、どうやら成功したようだ。

 『クリーン』という身だしなみを整えるための魔法は、これからも使っていくだろう。


「え、と。『箱庭(アーク)』」


 ソラの言葉と共に空間に波紋が浮かび、その中に手を伸ばす。空間から取り出されたのは、紙とペンだった。さらさらと自分が忘れないように『クリーン』の魔法の詳細を記すと、再び波紋の中に紙とペンをしまった。

 アークと名付けたその魔法は、特殊な空間を作りそこにあらゆるものを収納する魔法だ。

 ソラでなければ繋げることの出来ない空間は、物置としてとても重宝している。

 過去にかさばる荷物に困るアイナのためにソラが思いついた魔法だ。


 今ではその中にエクスカリバーや魔道書もしまわれている。

 この魔法のおかげで、旅支度も最低限で済ませられた。


「あー、やっぱり身体を拭きたいなぁ」


 『クリーン』の魔法で身を清らかにすることは出来ても違和感は拭えない。

 熱いお風呂でもいい。冷たい川でもいい。とにかく水を浴びてさっぱりしたいのだろう。


「ん……『サーチ』、水!」


 ソラはさらに魔法を発動する。周囲を一気に探索し、目的のものを見つける魔法だ。

 ソラが指定したのは水。頭の中に浮かんだ地図にすぐさま青い点が浮かび上がった。

 頭の中の地図通りならば、そこには川があるはずだ。ソラは川を目指して歩き出す。

 少しの寄り道になってしまうが、長い旅だ。ストレスを抱えたまま旅をしたくないのだろう。


「はっけーん!」


 草原に挟まれるように流れている川は、浅瀬の川だった。深いところでも膝にも届かない川だが、ソラの目的を叶えるには十分だろう。

 すぐにタオルを取り出して、水を吸い込ませる。力を込めてタオルを絞り、濡れタオルで身体を拭いていく。


「……よし、気分一新!」


 手の届くところをあらかた拭き終わり、身も心もすっきりしたソラは再びスタードット目指して歩き出す。


「……ん?」


 草原を歩き出したところでソラは違和感に襲われた。嫌な気分と言うべきか、胸焼けと言うべきか。

 かすかに鼻腔に届く血なまぐさい臭い。思わず嗅いでしまった異臭に、ソラは顔をしかめて臭いのする方向を睨むように見つめた。


「誰かが襲われてる……?」


 そう考えた時にはソラの身体は走り出していた。


自己強化(エンチャント)・六式――間に合って!」


 咄嗟に自己強化(エンチャント)を発動させ、身体能力を強化する。強化された肉体は視覚まで強化され、目的地の光景をソラに届かせた。


「あれは……オークの集団と、女の人ですかね」


 困っている人は放っておけないのだろう。強化された肉体を以て、ソラは草原を駆け抜ける。

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