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転生者の育て方~異世界子育て英雄譚~  作者: Abel
一章 ソラ、赤子編(0歳)
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ソラ、トイレは恥ずかしい?

「だ(うっ)」


 食事を終えたアキトとソラは徐々に静けさを取り戻していく食堂を眺めていた。騒がしかった食堂も少しずつ客が減り、そろそろ閉店作業に取りかかるだろう。

 そんなとき、ソラがピタリと揺らしていた身体を止めた。


「どうした?」


 ずっとソラを見ていたアキトはいち早くソラの違和感に気付き声をかける。本来であればソラが何を伝えようと会話は行えないが、アキトとソラの間でだけは念話による会話が可能となり、ソラは身体を震わせながら消えそうな声で「……といれ」と呟く。


「あ、そうかおむつの準備してなかったな」


 赤子に必要なものすらまだ用意していなかった。おむつにソラ用の小さなベッド、着替えと必要なモノは多々ある。とはいえ徐々に外は暗くなっていく。雑貨屋も閉まっているだろうし、最低限なものだけでも用意しなければならないのだが。


「だー……(おむつ、やー、です)」


「どうした?」


「だー! だー!(いーやーでーすー! おむつは、いーやー!)」


「おいおい、どうしたんだよ?」


「どうしたのよアキト。ソラちゃん苛めちゃだめでしょ?」


 エプロンで手を拭きながら仕事を終えたアイナがソラを宥めるも、ソラは大声をあげるばかりで大人しくならない。


「おむつの話をしたらいきなり嫌がってよ……」


「え。……おむつのことがわかるの?」


「そうみたいだ」


 とはいえソラがいた世界とは違い、こちらの世界に使い捨ての紙おむつといった便利なモノは存在しない。布製のおむつを大量に用意し、汚れるごとに交換し洗い回すのが普通だ。

 ソラがおむつを嫌がっている理由はそこではない。紙製とか布製に拘るほど子供ではないのだ。


「だー!(いやです! トイレに行きたくなったら自分で行きますからー!)」


 駄々をこねてテーブルの上でごろごろ寝返りをするソラだが、それが自身を追い詰めていることに気付いていない。

 ソラを襲った便意は治まっているわけではないのだから。


「だ(うっ)」


「……なあアイナ。ソラのトイレを済ませてきてくれないか?」


 嫌がるソラの理由に気付いたのか、アキトがアイナに頼み込む。怪訝な表情を浮かべながらアイナはソラをトイレへと連れて行く。


 ほどなくしてトイレを終えたソラはすっきりした表情でアイナに抱きかかえられていた。


「済まんな。どうにもソラはおむつを嫌がるというか……恥ずかしがってるみたいでな」


「赤ちゃんなのに?」


「だー!(赤ちゃんにも恥はあります!)」


 普通の赤子にはないだろう、とアキトは苦々しく笑う。アキトの表情を眺めながらもアイナはそれでひとまず納得することにした。


「ねえソラちゃん。おむつが恥ずかしいの? アキトに見られるのが恥ずかしいの?」


「だ、あー(どっちもです)」


 何故俺が、と首を傾げるアキトだがこればかりはアイナもなんとなく察してしまった。

 もし自分が赤子の時に父親にあらぬ所まで見られていたら――そう考えるとぞっとしてしまう。


「ソラちゃんは賢い子なのね」


 ソラが伸ばした手を掴んで自由に動かしながら、どうしたものかと対策を思案するアイナ。一方アキトは未だにソラが嫌がる理由を突き止めていない。

 恥ずかしがる、という感情は理解できたがそれ以降先について何も思い浮かばないようだ。

 そこばかりはソラとアイナは同性だから察せたのだろう。……そして、アキトに似たような想いを抱いているからだろう。


「でもソラちゃん。これからアキトと暮らすんだったら、私がトイレに付き合えない時も出てくるのよ?」


「あうー(そう……ですよね)」


「だからね、恥ずかしがっちゃ駄目よ?」


「うぅー……」


 アイナもソラを困らせたくて言っているわけではない。念話は通じなくても、どことなくソラの気持ちを理解したアイナは諭すように優しく話しかける。


「恥ずかしいだろうけど、あなたはまだ赤ちゃんなんだから。甘えるところはちゃんと甘えましょ?」


「……あい(わかりました)」


 顔を真っ赤にしながらソラはアイナの言葉を受け取る。

 “まだ赤ちゃん”という部分を突かれてしまってぐうの音も出ないといったところか。

 だー、だーと激しく身体を動かしてアキトの膝の上に移動させてもらい、アキトのシャツを引っ張りながらアキトを見上げる。


「だー……(トイレとかも、よろしくお願いします)」


「お、おう」


 未だ真相にたどり着いていないアキトは首を傾げることしか出来ず、それを見たアイナは思わず吹き出してしまう。




「どうもミカです。閉店作業終えてアイナさんに声をかけようとしたら仲睦まじい家族の光景を見せつけられています。アイナさんが面倒見いいのはわかってるんですけど明らかにあれです。恋する乙女です。耳も尻尾をゆらゆらさせてご機嫌なの隠せてません……」




 余談だが、おむつというものは無くても大丈夫なものだ。

 きちんと赤ちゃん側――ソラから排泄のタイミングを告げてくれれば、アキトもしっかりと対応が出来る。そうすれば布おむつを着けていなくともトイレのサポートも出来る。

 とはいえ身体がしっかり出来上がっているわけではなく、我慢が出来るわけでもない赤ん坊なのだ。着けていられるには着けていた方がいいだろう。

 ましてや――アキトはこれからクエストに出るのだ。ソラはもちろん同行したがるだろう。

 ならばより一層アキトの負担を減らすためにも、おむつは着けておくべきなのだ。


「……あー(……うぅ。おとーさんに見られたり洗われるの、はずかしーです)」

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