ソラの自慢の創造魔法!
ソラ、という名前は赤子だった彼女を拾ったアキトが付けた名だ。
拾った時に見えた青空が理由らしく、あまりにも安直すぎて周囲の人間は笑っていたという。
でも、ソラには嬉しかった。
出会いたかった優しい父親が、自分のために名前を考え、与えてくれた。
だからその名前こそがこの世界での彼女の名前であり、胸を張って誇れる名前なのだ。
転生したソラはアキトに拾われてからすぐに自分に魔法の才能があることが見出された。
念じるだけでアキトと会話できる念話。アキトを襲おうとした魔物を追い払った雷の魔法。
それらはソラが神様――イブにいらないと告げた、神様の加護。
「必要になるから」とのイブの独断なのだろう。少々困りもしたが、結果的にソラはイブに感謝している。
「自己強化・六式!」
言の葉を紡ぐと共にソラは軽々とアリアンゴーレムの拳をかわした。
自己強化・六式は父がよく使っていた肉体を強化する魔法であり、強化された肉体によってソラは軽々とアリアンゴーレムの攻撃を回避したのだ。
アリアンゴーレムの拳に乗っかったソラは、頭部目掛けて駆け上る。
肩に飛び乗ったソラはすぐさま頭部目掛けて魔法を放った。
「『アイスランサー』一斉掃射!」
ソラの目の前に生み出された十五本の氷の矢が、次々にアリアンゴーレムの頭部に突き刺さる。
けれどもアリアンゴーレムは魔法生命体。いくら頭部を損傷したとしても、その活動を止めはしない。
「無駄ですよソラちゃん! アリアンゴーレムの核はもっときっちり隠してますから!」
魔法生命体を止める方法は、その中心となる核を破壊すること。
人を模した存在であるならば、自然と核は頭部か胸部になるのだが――どうやらコハクは頭部に核を埋め込んだわけではないようだ。
「なら、心臓部ですね。『エアロウイング』、ボクに翼を!」
ソラが叫ぶように魔法の名を告げると、ソラはゴーレムの肩から飛び降りた。
なのにソラの身体は落下することなく、ゴーレムの胸部の目前で停止する。
ソラの背に浮かび上がる一対の羽。羽毛のような羽は、まるで天使を彷彿とさせる。
―――ソラは魔法を使うのに、詠唱も魔方陣も必要としない。
それこそが、イブがソラに与えた加護。
イメージに添う言葉によって魔法を創り出す奇跡。
『創造魔法』。
この世界の魔法は魔力、詠唱、魔方陣の三つが揃わなければ発動できない。
使いたい魔法のための魔方陣を用意し、そのために必要な詠唱を唱えなければならない。
必然的に集中するために魔法使いの足は止まり、高い危険性を内包して魔法は発動される。
ソラにはそのような工程はなにも必要ない。ただただ自分が使いたい魔法のイメージが出来ているか、それに適した言葉を口に出来るか、だけである。
アリアンゴーレムの胸部を目前にしたソラは、飛翔する自分を観て歓声を上げるギャラリーに笑顔を向けて大きく手を振る。
その隙を突いて攻撃してくるアリアンゴーレムを軽やかにかわしながら、エクスカリバーを突きの姿勢で構えた。
「『バーストブラスター』、セットアップ!」
ソラの言葉にさらに魔法が発動する。エクスカリバーの刀身に真紅の光が集い、ソラはアリアンゴーレムの胸部目掛けて、一気に突き出す!
放たれる真紅の光は渦となり、アリアンゴーレムの胸部を爆発させる。
巨人の体躯が力を失い、瓦礫となって地面に落下していく。
「やりますね。では、これならどうですか!」
コハクもソラがアリアンゴーレムを簡単に倒すことを考えていたのだろう。
ユーナに攻撃を繰り返していたアリアンゴーレムが踵を返し、両手を広げてその瓦礫の全てを受け止める。
それらの瓦礫は受け止められると同時に、アリアンゴーレムの中に沈んでいく。
取り込んでいるのだ。
「これがコハクが今回用意した真骨頂! アリアンゴーレム・カイ!」
巨人が咆哮を上げる。隆起した肩から飛び出した岩石が中空を舞うソラを襲い、振り下ろした足がユーナを襲う。
「ちょ、ちょっとソラ! 完全に私とばっちりじゃないの!?」
「あはは。ごめんなさーい!」
「ああもう! 時間を稼ぎなさい!」
「はーいっ!」
ユーナからすれば完全にとばっちりだ。アリアンゴーレムだけでも手を焼いていたというのに、決定打を与える前に強化されてしまった。
ユーナが使おうとしていた魔法は詠唱が長いため、防御の魔法を併用しなければならない。
アリアンゴーレム・カイの動きはさきほどよりも明らかに速くなっている。
今のままでは、さすがにユーナには荷が重い。
ユーナが咄嗟にソラに飛ばした指示は、時間稼ぎだ。
ソラはきちんと自分の分のアリアンゴーレムを倒した。それまでに倒せなかった自分の落ち度だと判断したユーナは、すぐさま思考を切り替えた。
袖の下から取り出した羊皮紙には、この日のために準備した特別な魔法を使うための魔方陣が記されている。
「研ぎ澄ませ。震え。鳴動せよ。
我は永久に名を刻む者。
我は永久に名を奪う者。
我は永久に捧げる者。
三度名乗り、王は愉悦に口角をつり上げる」
ソラでも驚くくらいの魔力をユーナは詠唱によって高めていく。
紡がれる詠唱はユーナの魔法学院での成長の証。
ソラと出会って三年間。すぐに自分を追い抜いたソラに追いつくために、必死に理論を構築して作り上げた最上級の魔法。
「させませんよー。ゴーレム、やっちゃってください!」
魔法の威力は詠唱の長さに直結する。
誰よりも魔法に詳しいコハクだからこそそこを見落とさない。
すぐにアリアンゴーレムはユーナ目掛けて拳を振り下ろす。
そこに、ソラが割って入る。
「『プロテクション』!」
ユーナを守るように掲げた両手。アリアンゴーレムの物理的な攻撃を、バリアで防ぐ。
「わかっていますよそのくらい!」
ソラが守ることも、コハクは見抜いていた。バリアにぶつかったアリアンゴーレムの腕は突如として砕け散り、小さな破片となってバリアを避ける。
「『プロテクション』、ユーナちゃんを守って!」
次々にユーナに向かう破片を、ソラはすぐさま防いでいく。
だが、数が多すぎる。いくらソラが言葉だけで魔法を使えると言っても、限度がある。
合わせて五つの破片がユーナを襲う。もう間に合わない、と思われたその時。
「――我は此処に王を裏切る。
胎動せよ。『アースクエイク』!」
ユーナの魔法が、完成する。
「文末が短い……? 詠唱の省略なんてコハク教えてませんよ!?」
「てへぺろっ」
「ソラちゃん!?」
ソラとコハクは昔から姉妹同然に育ってきた。コハクは自分が学んできた魔法の研究のほとんどをソラに教えており、その中には魔法における詠唱をどれだけ省略できるか、簡略化するための方法もあった。
ソラはこっそり、それをユーナに教えていたのだ。ユーナはそれこそが卒業試験でコハクを出し抜く切り札になると考えていたのだ。
『アースクエイク』という魔法は本来であれば大地を裂くほどの地震を呼び起こす魔法だ。
それを敢えて詠唱を省略し、威力を抑える形で使用した。
激しく揺れる地面。隆起していく大地。
落下する五つの破片は全て隆起した大地に弾かれた。
まるで槍のように伸びていく大地が、よろけたアリアンゴーレムの胸を貫いた。
核を貫かれ、力を失い崩れていくアリアンゴーレム。
崩壊していくアリアンゴーレムを眺めながら、コハクはどこかすっきりした表情を浮かべている。
「……っふふ。お見事ですよーソラちゃん。ユーナさんも。コハクは二人の卒業を認めまうぼぁ!?」
ゴンッ。
崩壊し、落下していく瓦礫がコハクの頭に直撃する。
二人を讃えようとしたコハクの言葉は崩壊の音にかき消され、コハクは目を回して気絶してしまう。
「お姉ちゃん!?」
「先生ぃー!?」




