ソラが決めたこと
「…………わぅ」
アキトが去った部屋で、ソラはゆっくりと身体を起こした。
ソラが大好きなアキトに抱えられて、目覚めないわけがない。大好きなアキトの温かさに触れて、うとうとしていたのは事実だが。
アキトはソラになにも告げなかった。それはソラを思ってのことだろうけど、ソラにとっては寂しく、悲しいことなのだ。
枕をぎゅう、と抱きしめる。
アキトが旅に出る理由も、行かなければならない理由も全て聞いていた。
だからこそ悔しい。もしかしたら、もしかしたらソラの魔法ならアキトに掛けられた呪いをどうにか出来たかもしれない。
「わぅ……」
ぼふん。ばたばた。布団に枕を何度も叩きつける。
「わぅ~~~~!!!」
子供だから、置いていかれた。
子供だから、頼られなかった。
アキトはそうでないかもしれないが、ソラにとってはその限りではない。
それでも、アキトにとってソラは頼るべき存在ではないのだ。もとより誰かに頼ることをしないアキトが、神の加護を得ているからといってソラを頼るわけがない。
「わぅ、わぅ、わぅ!」
ぼふん、ぼふん、ぼふん、ぼふん。何度も何度も何度も枕を叩きつける。
もどかしい。悔しい。複雑な感情が胸を満たす。
溢れる涙を拭うこともせず、枕を涙で濡らす。
誰かに聞こえても構わない。悲しい感情を隠すことなく暴れる。
身体をベッドに沈め、天井を見上げる。何度も見上げた天井がやけに寂しい。
隣にアキトがいない。アキトは自分を置いて行ってしまった。
今なら追いつけるかもしれない。
でもアキトは、絶対にソラを拒絶するだろう。
いくら優しくても、アキトはソラを連れて行くことはしない。
わかっているからこそ待つことしか出来ない。
アキトが無事に帰ってくることを祈ることしか出来ない。
今のソラに出来ることは――アキトが帰ってくる場所で、笑顔で待つことだけだ。
「……わぅ」
勢いよく立ち上がったソラはある決意をする。棚にしまっておいた魔道書を引きずり出し、とにかくひたすらページを捲る。
「ボクが、ボクがお父さんを治します。魔法をもっと学んで、もっと知識を、体力を。この力をお父さんのために。ボクを育ててくれるお父さんのためにっ!」
ソラに出来ることは、アキトの望み――魔法学院で学び、育つこと。
魔法を学んで、成長する。
それを叶えてアキトを待つ。アキトが手こずるようなら、探しに行く。
「頑張るんだ。ボクがお父さんを助けるんだ。ボクがお父さんを支えるんだ……!」
眠い瞼を擦りながらソラは魔道書を読みふける。アキトがソラのために用意してくれた沢山の魔道書はすでに読み終えている。それでも零れたものがないかと隅から隅までもう一度読み直す。
今の自分に足りないものを補うために。時間は掛かってしまうけど、確実に、少しずつでも進む。
アキトがソラのために魔法学院に通う手続きは済ませてくれている。
だからまずは、魔法学院で一番になる。
「頑張ります。だからお父さんも、早く帰ってきてくださいっ!」
六年を経てソラは少しだけ成長する。
アキトを失ったからこそ、そんな父のために奮起する。
――そして、時は流れる。




