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転生者の育て方~異世界子育て英雄譚~  作者: Abel
一章 ソラ、赤子編(0歳)
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ソラ、初めてのご飯。




「で、どうしてアキトはまだここにいるのよ。さっさと行ってきなさいよ」


 アキトたちは食堂の奥、冒険者ギルドとの境目辺りの席に座っている。冒険者は一向に訪れないが食堂側はそれなりに盛況で暇を持て余したミカも給仕として手伝いに駆り出されているほどだ。

 そんな慌ただしい光景をアキトとソラ、そしてアイナは眺めている。

 日はゆっくりと沈みかけ、次期に夜が訪れるだろう。


「グロードウルフがいるのは俺が住んでた森じゃないだろ。帰ってくるのが遅くなりすぎるから駄目だ」


「だー(ボクが寝ちゃうとおとーさんに必要以上にお荷物になっちゃいますし)」


 膝の上にソラを乗せたアキトはソラの両手をぷにぷにと指で揉みながら暇を潰している。エクスカリバーには申し訳ないが購入した鞘に収めてテーブルに立てかけているが、文句はないようであれからずっと静かである。


「それに滞在する場所も確保してないしな」


「ここでいいじゃない」


「大丈夫なのか?」


「大丈夫よ。オーナーは二週間ほど旅に出ててその間の経営は全部私に一任されてるし」


 アイナの話を聞く限り、『秋風の車輪』を経営しているオーナーは不在のようだ。

 その間の宿屋・食堂の経営に関してはアイナが全て任されている。アイナが信用されているのか、オーナーが適当なのか。おそらくどちらもだろう。

 そのアイナが許可しているのだ、アキトはその言葉に甘えることにした。


「じゃあ、しばらく世話になる。払いは明日のクエスト報酬からでもいいよな?」


「それでいいわよ。アキトがグロードウルフくらいに負けるわけないし」


「買いかぶりすぎだよ」


「事実を言っただけでしょ?」


 他愛のない売り言葉買い言葉こそ二人の付き合いの長さを証明している。二人にしかわからないような会話をされているようで、ソラにはちょっとつまらない。


「だー!(だめ。おとーさんはボクの!)」


 アキトが自分のものであるとアピールするかのようにソラはアキトの胸にしがみつく。

 ソラの言葉はアキトにしか届かない。娘に好かれているという自覚を得たアキトはそれがまた嬉しい。


「よしよし」


「あー(あふぅ……)」


 優しく頭を撫でてもらうのがよっぽど心地よいのかソラはうっとりと目を細める。

 そんなソラを見てアキトが表情を綻ばせる。にへら~っと言葉が出てきてしまいそうなほどだ。

 アキトとソラのやり取りをアイナも微笑ましく見ている。


「そうだ、ご飯はどうするのよ」


「そうだな。……どうしようか?」


 思いついたアイナの言葉にアキトは顔をしかめてしまう。何しろ今日拾ったばかりのソラである。首が座っていることから生後四ヶ月は過ぎているようだが、詳しいことは何もわからない。

 赤子の食事などアキトにとっては専門外すぎる。関わったことのない出来事だ。


「首はすわってるし、一人でも座れるしから……。どう? お腹は空いてそう?」


「あうー(大丈夫ですよー)」


「大丈夫……そうだな」


 アイナの言葉にソラは口を開いてアピールする。


「ミカー、確か山羊のミルクって余ってたわよねー?」


「食堂にありますよー」


 遠くでせわしなく動き続けるミカが答えると、アイナは「よし」と立ち上がる。


「牛乳もないことだし、赤ちゃんには山羊の方がいいって聞くしそれでいきましょう」


「助かる」


「あい(ありがとうございます)」


 席を立ったアイナがキッチンの奥に入り込みガラス瓶に入ったミルクを持ってくる。


「これでパンを煮込んだモノを作るわ。ミルクだけでもいいけど、離乳食も試したいしね」


「アイナ、お前詳しいんだな」


 アキトの言葉通り、アキトとアイナの付き合いは長い。その間は冒険に埋め尽くされた日々であった。だからアイナが子育ての知識に詳しいことに驚いている。


「教会を手伝ったりしてるからね」


「ああなるほど。コハクの手伝いか」


「今度顔出してあげなさいよ?」


「はいはいっと」


 突如出てきた名前にソラは首を傾げるも、ばたばたと動き出したアイナを見てすぐに忘れる。キッチンに飛び込むアイナとそれを見守るアキト。


「だー(アイナさん、お母さんみたい)」


「ん? 母親も欲しいのか?」


「だー!(おとーさんがいれば十分です!)」


 ソラの言葉に胸が温かくなったアキトは優しく抱きしめてあげることで返事をした。

 きゃっきゃっとはしゃぐソラの頬を夢中でぷにぷにしていたら、キッチンからエプロン姿のアイナがスープ皿を持って出てきた。


「おまたせー。冷ますのに結構時間かかっちゃってさ」


 二人にはそんなに時間が経った印象がなかったが、どうやら結構な時間夢中になって遊んでいたようだ。

 テーブルの上に置かれたのは、山羊のミルクで煮込まれたパン。

 人肌程度に暖められた離乳食である。


「はいアキト。食べさせてあげなさいよ」


「お、おう」


 木のスプーンを受け取ったアキトはパンをひとすくいし、用心のためになんどか「ふー、ふー」と息を吹きかけて冷ます。


「ソラ、あーん」


「あー(あーんっ)」


 口を開けたソラの口内に、ゆっくりとスプーンをいれていく。


「そう。そこで止まって。ソラちゃんが押し戻してなかったら、そのまま食べるのを待って」


 アイナの言葉に従ってソラがパンを食べるのを待つ。

 元々前世の記憶を持っているソラだ。食事についての記憶もちゃんと持ち合わせている。

 まだ噛むことも難しいだろうけど、ふやけたパンを口の中で揉むように咀嚼して、飲み込んだ。


「わぁ、食べた食べた!」


「あい!(おとーさんが食べさせてくれたから、ものすごくおいしい!)」


「はは。もっと食べるか?」


「あー!(はい!)」


 まだ味はわからないだろうけど、父から与えられる食べ物であるとわかっているから――ソラにはこれ以上はないご馳走である。

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