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転生者の育て方~異世界子育て英雄譚~  作者: Abel
二章 ソラ、幼児編(6歳)
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おかえりとごめんなさいと。




「そわそわ。そわそわっ」


 『秋風の車輪』、いつもの指定席でソラはしきりに食堂とギルド、両方の扉を交互に見ていた。

 落ち着きなく身体をそわそわさせ、今か今かとその時を待ちわびている。

 今日はアキトたちが五泊六日の新婚旅行から帰ってくる日。

 早くアキトに会いたいソラは、朝からずっとこの調子である。


 どちらかを訪れる人が扉を開ける度にソラはびくっ、と身体を震わせて視線を向け、アキトではないことを確認すると小さくため息を吐く。

 そんなソラを眺めながら、コハクは魔道書をのんびり読み進めている。

 昼が過ぎたところで、ソラの待望の瞬間が訪れる。


「ただいま」

「ただいま、ソラちゃーん?」


「わぅっ!」


 冒険者ギルド側の入り口から、待ち望んでいた人が――アキトとアイナが現れる。

 すぐさま飛び上がったソラはアキトの胸目掛けてダイブする。アキトもまた、両手を広げてソラを迎える。


「ソラっ!」

「お父さーーーーんっ!!!」


 ひし、と飛びついたソラをしっかり受け止めたアキトはそのままソラを強く抱きしめる。 ソラにとってアキトのいない六日間は、これまでに過ごしたどの時間よりも長く、苦痛であった。

 けれどアキトと再会できた。感じる大好きな父の温もりに、これまでの苦難のなにもかもが報われた気分になる。


「わぅ。わぅ。わぅ~~~~~!」


「ははは。甘えん坊めっ」


「甘えん坊でいいんですっ。お父さんのことが大好きですからっ!」


「ソラぁっ!」


「お父さんっ!」


 仲睦まじい親子の光景にギルドを訪れていた冒険者たちも思わず頬が緩む。二人を愛しく眺めながら、アイナは抱えていた荷物を下ろす。


「おかえりなさい、姉さん」


「ただいま、コハク」


「旅行は楽しかったですか?」


「そりゃもう! 秘湯巡りも観光地も目新しいモノばっかだったわよ!」


「昼はデート、夜は……ですしね!」


「な、何を言い出すのよ!?」


「えぇー? コハクは言葉を濁しただけで何も言ってませんよー?」


 にやにやとからかうコハクと、顔を真っ赤にするアイナ。その反応だけでわかってしまうあたり、アイナはやはりわかりやすい。


「お母さん、おかえりなさい!」


「ただいま、ソラちゃん!」


「「ぎゅーっ!」」


 名残惜しくもアキトから離れたソラは次いでアイナに抱きついた。離れていた分を補うように、より強く身体を密着させる。

 ソラは自分を受け止めてくれるアキトの固い胸板が大好きだが、自分を受け入れてくれる柔らかなアイナの身体も大好きなのだ。


「兄さんは旅行、楽しめましたか?」


「ああ。素敵な思い出ばかりだよ」


「ならよかったです。さ、ソラちゃん」


「あ、はい!」


 コハクの言葉にソラは踵を返してテーブルの上に置いておいた箱と封筒を運んでくる。

 本当は疲れているであろうアキトとアイナが一息ついてから渡そうと考えていたが、ちょうどいいタイミングと判断したのだろう。


「お父さん、お母さん」


「ソラちゃんとコハクから、二人にプレゼントです」


「……二人から?」


 はい、と満面の笑顔でソラは指輪の入った箱を、コハクは新居の図面が入った封筒を渡す。

 アイナは箱を開け、アキトは図面に目を通し、目を丸くして驚いている。


「お父さんたちへの指輪と」


「コハクからは家をプレゼントです」


「……綺麗」


 指輪を掲げたアイナが瞳に涙を浮かべている。アキトは一時だけ呆けていたが、すぐに顔を上げソラとコハクを優しく見つめる。


「いいのか?」


「はい。お父さんとお母さんの、結婚のプレゼントです!」


「ありがとう」


 アキトも感極まったのか、涙を堪えながらソラを抱きしめた。アイナもよほど嬉しかったのか、抱きしめられているソラを背中から抱きしめる。

 二人から抱きしめられているソラは、少し苦しそうにしつつも幸せの笑顔を見せている。

 アキトとアイナ、二人に左右の頬にキスをされて、ソラも上機嫌である。


「わぅー!」




   +




「……あのー。どうしてコハクは床に正座させられているのですか?」


「自分の胸に手を当てて考えてみろ、な?」


「そうよ。コハクだってもう二十二でしょ?」


「お、お父さんもお母さんもコハクお姉ちゃんをいじめないで?」


 プレンゼトを快く受け取ったアキトとアイナだが、どうやってプレゼントを準備したのかをコハクから聞いた途端、すぐさまコハクを正座させた。

 何事かと冒険者たちもただならぬ雰囲気でコハクを眺めている。

 苦笑いするコハクと、笑顔のアキトとアイナだが、二人の笑顔からはまったく笑みが感じられなかった。

 「……は?」「ほう」「よし、正座」という見事な一連の流れにソラも戸惑っている。何しろアキトがこれほどまでに静かに怒っていることなど見たことがなかったからだ。


「コハクの実力は信頼している。だが、ソラを危険な目に遭わせたのは許せない」


「……はい」


「お前はソラにとってお姉ちゃんであるし、俺たちもお前を信頼してソラを預けた。それはわかるよな?」


「……ごめんなさい、兄さん」


「……無事で良かった」


「……ごめんなさい」


 アキトがしっかりと言葉にしているからか、アイナは敢えて何も口を挟まなかった。

 戸惑っているソラを膝の上で抱きしめながら、アキトの言葉を聞いている。

 アキトが強く言わない以上、自分からは何も言わないつもりなのだろう。

 ソラを抱く手が、かすかに震えていた。ソラはそれだけで、どれほど心配させてしまったか、後悔してしまう。


「お母さん、ごめんなさい」


「いいのよ。ソラちゃんが無事だったから」


「お父さんも、使っちゃダメって言われてる魔法を使って、ごめんなさい」


 アイナの膝の上で、ソラも頭を下げる。元はといえばコハクもソラを連れて行くことに賛成はしなかったのだ。

 そこに無理にお願いして付いていった。だから責任は自分にあると。

 コハクから視線を移したアキトは、ゆっくりとソラの頭を手を乗せた。左右に数回頭を撫でると、ソラは少しくすぐったそうに身を捩る。

 アキトはそんなソラの頬を優しく抓む。痛くならないように、優しくぐにぐにといじる。

 頬を撫でて、優しく目を細める。


「駄目なモノは確かに駄目だ。でも、それがコハクを助けるために。シロを守るために、自分で切り開くために使ったのなら、これ以上は怒らない」


「お父、さん」


「ソラがもうちょっと大人になってから解禁しようと思ってたしな」


 アキトもまた、ソラの創造魔法については日々考えを巡らせていた。

 ずっと創造魔法を封印していては、せっかくのソラの才能が埋もれてしまうと。

 魔法に興味があり、転生者として神の加護によって創造魔法を与えられたのなら、それを磨くべきではないのかと。

 だからアキトは、ソラがしっかり善悪の判断が出来るようになったら解禁しようと考えていた。

 そしてその時は、アキトの思っている以上に早く訪れた。


「ソラ。その力で何が出来るか。どんな事態になってしまうか。それはわかるよな?」


「はい。この力は神様がくれたものですけど。この世界にとってはよくないモノであることも」


「そうだ。……でも、ソラはその力をきちんと自制できるよな?」


「はい。お父さんとお母さんが、ボクを導いてくれてますから」


「うん。なら、いい」


 ソラを自分の膝の上に乗せて、背中から抱きしめる。

 小さなソラを抱きしめながらも、出会った頃よりもしっかり成長していることを実感する。

 自分が思っている以上に、ソラは優しく育ってくれている。

 それはアキトの育て方以上に、ソラ自身の生来の優しさだろう。

 それがアキトには嬉しい。ソラを育てると決めたあの日からずっと、ソラが優しく成長して欲しいと望んでいたから。


「創造魔法はこれからも使っていい。それでソラが危ない目に遭えば俺が守るし、ソラならきちんと分別も付けれるしな」


「はいっ!」


 アキトの言葉に、ソラはハッキリと頷いた。


「あのー。コハクはいつまで正座してればいいんですか?」


「あと五時間」


「殺生なー!?」

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